自然写真家 岩木 登×八甲田山・奥入瀬渓流 / 青森

自然写真家 岩木 登

自然写真家 岩木 登

青森県十和田市出身。八甲田山の森と川を主な舞台に撮り続ける。2009年キヤノンカレンダーの撮影を担当し、本作は全国印刷産業連合会会長賞を受賞。2012年東京から十和田市に移住、ギャラリースタジオを建設。写真集『峡谷に宿るもの』(東奥日報社)、『南八甲田の森をゆく』(ART BOXインターナショナル)。(社)日本写真家協会(JPS)会員。WWF会員。

「植物が美しい表情を見せる時間を歩く」

朝靄に包まれたブナ林。このような一風変わった形をした木は“奇木”と呼ばれる。
撮影したこの林はなぜかとくに奇木が多い。ゴツゴツした樹皮の質感や樹がつくるシルエットに面白みを感じる。
【1sec F8 ISO125 露出補正0 焦点距離約35mm】

東の空が明るくなり始めたころ、八甲田山のふもとの朝靄につつまれたブナ林で、敷き詰められた落ち葉を踏みしめ群生した笹を分け入り歩き回る。今回はG3 Xなので荷物は軽い。撮影場所を決めたら電子ビューファインダー(EVF)を覗いてシャッターを切る。
自然を撮影するうえで大切なことは、“自分がどんな風に撮りたいか”ではなく、“自然が一番生き生きしている瞬間を、どう捉えるか”だ。たとえば春に一斉に芽吹いた新緑や、沢に広がる苔にもいろいろな表情がある。その表情を美しく捉えるために工夫をするわけだ。
たとえば「どの時間帯に撮るか」。特に生き生きとした美しい表情を見せてくれるのが、日が昇ってから2時間くらいの間だと僕は感じている。この短い時間で少しでも多くの場所を回ることができれば、それだけ多くの自然に出合う機会をつくれるだろう。軽量で取り回しも簡単にできるG3 Xは山を歩きまわるのに最適なカメラだ。



朝靄につつまれたブナ林も早朝に撮影した。このブナ林は伐採後に自然に再生した二次林で、中央の存在感ある大樹はおそらく80〜90年前に燃料などに使うために切られ、ひこばえが伸びた“上がり子”だ。樹形の面白さだけでなく、切られても伸びていく生命力にも惹かれる。朝靄が広がる森閑とした空気感を感じて頂ければ嬉しい。
季節や土の中の水分量、風向きと風の強さに地形といった条件を気にしていれば、朝靄の発生はある程度予測できる。そういう経験則の積み重ねも撮るうえで大切なことだ。朝靄がブナの葉をベールのように包んだことで生まれた色合いの変化をぜひ見ていただきたい。G3 Xは微妙な色の差をほぼ完璧に表現できている。

雪どけ水でできた小さな湖は夏には消えてしまう。この写真を撮るためにはまずは森の地形を把握することが大切だ。
風が吹くとさざ波が立つので、天候や風の条件が揃う日を待って撮影する。
【1/4sec F11 ISO125 露出補正-0.7 焦点距離約63mm】

磨かれた銀盆のような水面で反射する木々は、春にしか撮れない写真だ。この小さな湖の水は溶けた雪が窪地に集まったもので、流れがないため水面は静かで美しい。
新緑をより濃く水面に反射させるために、先ほどの朝靄のブナ林より少しあとの時間、日が昇りきってから撮影した。

「自然の姿にはその地ならではのストーリーがある」

奥入瀬川の流れと岩、苔、植物。十和田湖はかつての火山活動でできた陥没カルデラの湖。
そして奥入瀬川周辺の地質は十和田湖が火山だったころに噴出した火砕流の堆積物。大きな岩の正体は溶岩で、これに苔が生息している。
【1sec F8 ISO125 露出補正+0.7 焦点距離24mm】

奥入瀬渓流を歩いていると、このような風景をたくさん見る。一見すると、日本全国どこにでもある渓流のように見えるかもしれないが、実はこの写真には奥入瀬らしいストーリーが隠れている(といっても、真ん中に写っているのだが)。
奥入瀬川は十和田湖を源に発し、十和田市市街地の南側を流れ、八戸市とおいらせ町の境界で太平洋に注ぐ。十和田湖の唯一の流出河川で、年間通して水量や水温の変化が少ない。一帯に広がる森林の保水力と相まって、大雨が降っても急な増水が起こりにくく、そのため岩は苔で覆われ、苔がつくった薄い表土に樹木が生えることもある。
写真中央の大きな岩の上、びっしりと生えた苔と大小さまざまな木々。急峻な渓流が多く、降水量が河川の水量へ即座に影響しやすい日本では、こういった風景はとてもめずらしい。

渓流と苔。年間通してほぼ一定の水量が流れている奥入瀬渓流は、苔にとって育ちやすい環境である。
面白い自然は足元にもたくさんあり、苔はそのひとつ。八甲田の苔は黄色から緑まで色が深い。
【1/3sec F11 ISO125 露出補正-1.7 焦点距離24mm】

岩と苔と木々がつくりあげた盆栽のような風景には、奥入瀬渓流ならではのストーリーがある。風景とその後ろにあるストーリーを見抜く力をつけることで、より広く、そして深く自然を見ることができる。

先ほどの渓流写真は十和田湖も含む広範囲での自然を見る力だったが、こちらの写真は目に見える範囲で自然を捉え、どのように表現するかがテーマだ。主役は先ほども登場した苔。茶色、黄色、黄緑、緑、濃緑といろいろな色の苔がお互い競い合うように盛り上がり、これらの色の違いをG3 Xは十分に表現できている。また、落差40cmほどの水流が大きな滝のように見えてくるのも面白い。
三脚を立てて、シャッタースピードを少し長めの0.3秒に設定して撮影した。また、画面の左上にほんの少しだけ木々を入れることで、森林の中を流れていることを匂わせた。

「表情豊かで雄弁な足元の花々」

「カキドオシ」の花。背後の玉ボケの丸の美しさを確認したくて撮影してみた。
この写真を見てわかるように、G3 Xは身近な草花を撮るのに活躍してくれそうだ。
【1/100sec F4 ISO200 露出補正0 焦点距離約54mm】

先ほどの苔の世界からさらに踏み込み、接写の世界へ。
この花は山野草「カキドオシ」。広く野原や道端で見られる花だ。花冠の内側にある細かな毛がしっかり写り、背後の玉ボケがきれいに丸を描いている。G3 Xのボケと解像力がよく表れている。
野の花を撮るときには、花だけでなく、背後の色や光の当たり具合にも気を配るのがポイント。G3 Xの最短撮影距離5cmを活かしていろいろな撮影に挑戦していただきたい。いつもと少し違う見方で撮るだけで、花々は豊かな表情を見せてくれるだろう。

「キクザキイチゲ」のつぼみ。夜や早朝は花を閉じているが、日光が当たると花が開く。
キンポウゲ科の多年草で、白系と紫系の花をつける。チルト液晶モニターを使えば楽に低く構えられるので、簡単に絵づくりできた。
【1/125sec F2.8 ISO125 露出補正-1 焦点距離24mm】

こちらの花は「キクザキイチゲ」のつぼみ。「キクザキイチリンソウ」とも呼ばれ、キクに似た花を一輪つけることからこの名がついた。八甲田では雪が溶け、土が見えてくると咲く、春の訪れを告げる花だ。咲いた姿も美しいが、まだ薄暗い早朝の、咲く直前の姿はじっと力を溜めているように見えて面白い。
この写真はG3 Xのチルト液晶モニターを活用して撮影した。この機能はローアングルの撮影で絵を決める際に便利だ。チルト液晶モニターを起こし、カメラを低く構えていろいろ動かしてみる。いい角度を見つけても、まだシャッターは切らない。その場所に低く三脚を立て、G3 Xをセットし、露出を設定してから撮影する。
一眼レフ機などで撮影する場合に寝そべってファインダーを覗かなければならないことを考えると、G3 Xはさっと簡単に欲しい絵を決められ、山林では圧倒的に有利である。

「水辺の静けさや生命力を表現」

今回の撮影では水辺も歩いた。水のもつ生命力は私のライフワークのひとつ。この写真は内蔵されているNDフィルター機能を使った。一般的には明るすぎる晴天下で使うものだが、水際で使うことで反射光のトーンを緩やかにして、僅かなざわめきも消えた静けさを演出できる。この機能をボディー内で実現できるG3 Xは、少しでも荷物を軽くしたい山歩きで、荷物の量を変えずに楽しみ方を増やせる。

渓流を歩いていると、名も知れぬ滝に出会うことがある。昨年秋に見つけたこの滝もそのうちのひとつだ。すっかり気に入って機会があれば撮りに行っている。周囲に群生している大きなシダに生命力を感じる。
三脚を立て、低速シャッターで水の流れを表現した。岩肌の質感や周囲の木々もしっかり写しながら、滝の水を白飛びさせずに淡いトーンで捉えられた。同クラスのカメラでここまで表現できる機体を僕は知らない。

水際にせり出した樹と、その幹に生息した苔。コンデジでは一眼レフ以上にレンズフィルターを取り付けたときのデメリットが大きい。ボディー内NDフィルターはその点でも使いやすい。
【3.2sec F11 ISO125 露出補正0 焦点距離24mm】

名も知れぬ滝。沢沿いを歩いて撮影する場合、首から下げて歩いても邪魔にならないG3 Xはとても便利だ。
【1sec F11 ISO125 露出補正0 焦点距離24mm】

「夜空の星も美しく捉えられる」

八甲田山の上に昇る月と金星。春は霞がかかりやすく星空を撮影するのにはあまり適さない季節だが、この日は運よく撮影できた。
月がこれだけ輝いていても周りの星々を捉えられたのは、この地で撮ったこともあるがG3 Xの性能の恩恵もあるだろう。
【30sec F4 ISO400 露出補正0 焦点距離24mm】

これまでと打って変わって夜の八甲田の撮影。星空観察のスポットとしても知られている八甲田山湯ノ台高原にて撮影した。
この夜は大きな月が出ていたが、強く輝く金星のほかにも数多くの星を捉えられた。画像を拡大して見て頂きたい。今までならここまで映すには一眼レフが必要だった。また、山の向こうの光は青森市街の光。一般的な星空撮影では街明かりがないほうがいいが、今回は八甲田山の稜線をきれいにかたどってくれて、むしろプラスの効果を得られたと思っている。これだけ星空を捉えられるので、流星群の撮影にも活躍できるだろう。

星空軌跡撮影。G3 Xにはバルブ機能のほかにオートの星空軌跡撮影機能もついているのが面白い。またインターバル動画などブログを書く際に使ってみたい機能もある。
【60min F2.8 ISO400 露出補正0 焦点距離24mm】

星空軌跡撮影も試してみた。簡単な設定で自動的に撮れるのでとても便利だ。今回は60分間で撮影した。広角側で撮ったがゆがみも少なく、きれいに表現されている。細い線の数に着目していただきたい。G3 Xにはそれだけ多くの星が見えているということだ。
撮影者の“自然の生き生きとした姿を捉える目線”と、広角から望遠まで広くカバーし、軽量なことから山や森林、渓流などに持参することに適しているG3 Xがあれば、「自然を見つめること」へさらに力を注げるだろう。

※焦点距離は35mmフィルム換算の数値です。

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