アウトドアプロデューサー 長谷部雅一×栃木県那須町 茶臼岳〜朝日岳 Mt.Japanを愉しむ

アウトドアプロデューサー 長谷部雅一

アウトドアプロデューサー 長谷部雅一

1977年生まれ。有限会社ビーネイチャー取締役。世界1周の旅の経験を活かし、アウトドア・自然をテーマにプロジェクトの企画・コーディネイトなどを手掛ける。「フィールドライフ」(エイ出版社)にて「Back Packer’s Workshop」毎号連載中。その他多数のメディアにて活躍中。著書「ネイチャーエデュケーション」(みくに出版)

「九尾の狐に注意しながら登る山」

栃木県那須町にある茶臼岳から朝日岳への日帰り縦走。僕は3人の仲間と一緒に足跡を残しに行くことにした。この山は比較的登りやすいため、周囲の景色や自然そのものをじっくり味わう“ゆる登山”には最高のエリアだ。また、アルペンムード満載の景色が気分を爽快にしてくれることもあり、僕が大好きなルートのひとつでもある。しかしながら、この山周辺には“九尾の妖狐”伝説があるだけに、思いを寄せる異性のごとくそう簡単には登らせてもらえないのだ。
「昔々、あらゆる悪さをした九尾の狐は、最後に人間に倒され石になった。しかしその石は九尾の狐の怨念か、猛毒を吹き出しこの世の生きものを殺した……」というそのまがまがしいストーリーも納得の自然の力を感じる。きっとこれが九尾の狐の気配なのだろう。

5月に行った際は、これ以上ないくらいの快晴だったにもかかわらず、山頂付近は風速25mを超える強風のため断念。そして6月の今回は、登山自体は安全にできるものの、例年よりも早く始まった梅雨のせいでどんよりした天候での山行となってしまった……。でもそのなかなか一筋縄ではいかない感じがまたこの場所の魅力のひとつでもあるだろう。ロープウェイ乗り場の方に聞いところ、実際によく強風のため運行中止になったり、せっかく登れても強風のために下山を強いられることもしばしばらしい。

今回登った茶臼岳、朝日岳は栃木県の最北端にある那須連山の一角で、茶臼岳はその主峰。朝日岳は、周辺の山で唯一山頂部が切り立った鋭い姿をしていて、おかげで周辺の景色をキリッと締めてくれている。
ここ一帯の面白さは、標高は低いにもかかわらず森林限界があるため上は荒々しい岩肌の山なのに対して裾の部分は森の中にあり、多くの生きものに出会える可能性があることだ。そのような特別な条件もあって、このルートでは歩き始めてすぐに眼下に広がる岩肌の色からグリーンの世界が広がる、とってもワクワクする景色を味わうことができる。この景色は24mm広角でその広がりを収められた。

ロープウェイに乗り、山頂駅から歩いて20分でこの景色に出会える。まさか車を降りてからわずか30分程度だとは信じられない!
このルートは何度も後ろを振り返り、雄大な景色を眺めたくなるのだ。24mm広角で撮影すると、その広がり感を簡単に収めることができた。
【1/2000sec F3.5 ISO125 露出補正+0.3 焦点距離24mm】

「山で最初の出会い」

登山道をしばらく歩くと、突然目に入る緑の点……。周囲の色に対して対照的な強いその色は、僕の視界に一気に入ってきた。本日最初の生きもの「セマダラコガネ」だ。野生の生きものに出会えた瞬間にある、このドキッという感覚はいつ味わってもたまらない。出会いを期待していた森林部に入る前に昆虫と出会えたのでうれしさはひとしおだ。マクロ+ズームの機能が鮮明に生きものを捉える。もしかしたら、悪天候にもかかわらず今日はいろいろな出会いがありそうな予感がしてきた(そこには少し下心もあったりする……)。

いわゆるコガネムシの背中がマダラ模様の昆虫が「セマダラコガネムシ」。読んで字のごとく、背中にマダラ模様がある。個人的には、3つに枝分かれしている触角と、個体によってまったく違う背中の模様がたまらない。マクロ+ズームのおかげで、くっきりとかわいい勇姿を収めることができた。
【1/800sec F5 ISO125 露出補正+0.3 焦点距離約73mm】

「ランチには腹時計と高倍率ズームが活躍する」

写真を撮ったりしていると、素敵な出会いの時間はいつの間にか過ぎていってしまう。唯一意識するのは、お腹が有無を言わさず「グ〜ッ」となって伝えてくれるランチタイムくらいだ。このルートでのランチ場所の定番は、峰の茶屋跡避難小屋という場所。ここなら雨風があっても安心して昼食をとることができる。ただ、人気のランチスポットでもあるので、場所はいつも混み合っているのが難点。雨の日の避難小屋の中は、通勤ラッシュ時の電車の中のような状態になることもある。僕は茶臼岳山頂に着く前に、小屋が眼下遠くに見える場所まで来たら、毎回双眼鏡で小屋やその周辺の混み具合をチェックする。今回は、600mmズームで目標の場所を撮影して、そのまま拡大表示をしてチェック。画質もよく、モニターの表現力もありがたい。腕時計の時間も加味して考えても、まだまだゆっくり山頂を楽しんでからでもランチを楽しめそうなことを確認することができた。これで安心して寄り道ライフを満喫できるというわけだ。

600mmズーム&高画質のおかげで、双眼鏡いらず。後で拡大してみても、画質が悪くなることなくアップでチェックすることができた。モニターの表現力も大きな助けになっていたような気がする。
【1/800sec F5.6 ISO125 露出補正0 焦点距離約380mm】

「アイスランド人と共感したい風景」

登山道を順調に進んでいくと、時々高山植物との出会いもはじまる。その中でも今回いちばんのお気に入りは、「ウラジロヨウラク」という植物。この植物は、もうまもなくつぼみ状の先が5つに割れて反り返る。ほおずきを手で割ったときのようなその形がまた愛おしいのだ。
360度の景色が連なる山の景色になった頃、もうひと踏ん張りで茶臼岳の山頂に到着する。ここから見る景色は、登り始めて1時間程度とは思えないほど息を呑むような景色が眼下に広がる。曇りの天気ながらも、どこまでも続くグレーとグリーンを混ぜたようなグラデーションの大地、頂上に立つ僕に向かって色はグリーンになり、そして石色になって大地が迫ってくる。
山頂には鳥小屋ほどの大きさの小さな鳥居があり、登頂者はコインをおいて下山していく。僕もそこにコインを置こうとしたら、そこにアイスランドのコイン1クローナを仲間が置いた。彼曰く、「この景色はアイスランドにも勝るとも劣らない」のだという。火山、温泉、魚を食べる文化など、共通点が多いせいか、この景色は重なるところがあったのだろう。歴史や言語は違えど、自然がくれるギフトは万国共通。きっと感動してくれるだろう。

ピンクから紫の色のグラデーションがとても綺麗なウラジロヨウラク。石色の地面が続く中、大豆ほどの房のこの色は目をやさしく癒してくれた。登山道から少し離れた場所に合ったが、マクロ+ズーム、そして手ぶれ補正が活躍してくれた。
【1/250sec F4 ISO125 露出補正0 焦点距離約54mm】

振り返る度に歩きの満足度を大きく高めてくれるこのルートは、何度歩いても楽しい。24mm広角が欲しい景色をそのまま取り込んでくれた。
【1/160sec F6.3 ISO125 露出補正+0.3 焦点距離24mm】

頂上からは360度表情が違う景色を楽しめる。この景色の中に身を置くと、「今の俺、なんか気持ちいい!」と勘違いしてしまうので注意。
【1/250sec F6.3 ISO125 露出補正+0.3 焦点距離24mm】

来年はアイスランドと日本の国交60周年。僕たちは一足早くおめでとうの気持ちを込めて小さな交流をした。
【1/200sec F6.3 ISO125 露出補正+0.3 焦点距離約60mm】

「見下ろすのは何者?」

茶臼岳登頂後は、次なる目的地へ向かう。山頂からの景色の満腹感に満たされながら仲間とバカ話をしながら歩いていると、頭上から聞こえる「ピーピチュピーピーピーピー」と何者ならぬ何鳥かの声。逆光気味かつ頭上の高い岩の上にチョコンととまっているので、どんな鳥なのかは確認できないが、間違いなく僕たちを上からギョロギョロ見ている。どうしても確認したくなった僕は、カメラを取り出してシャッターを押す。距離があるので、目は合っているかも知れないが、僕の殺気を気づかれずゆっくりと撮影することができた。撮影後モニターで拡大すると特徴的な白いお腹に黒っぽい縦縞、そして尖ったクチバシが判明。おそらくこの子は「ビンズイ」だろう。見逃しがちな野鳥を、G3 Xで見分けができるとなんだか嬉しいものだ。こんなとき600mmのありがたさを実感する。

写真に収めることができると、みんなで同じものを見ながら「この鳥は何?」という話で盛り上がる。
これは高画質+600mmズームならではの遊び方だ。
【1/800sec F5.6 ISO125 露出補正0 焦点距離600mm】

「そして森の生きものたちの世界へ」

昆虫に植物、野鳥に出会い、そして絶景を歩くことで元気エネルギーを充電した僕たちは、ランチ予定だった峰の茶屋跡避難小屋を一度スルーして、一気に朝日岳へ足を運んだ。鎖場を通り、そして尖った山の頂上に立った僕たちは、そのころやっと異様な腹ぺこに襲われて峰の茶屋跡避難小屋に戻るやいなやザックを放りだしてシングルストーブに火をつけた。登山の満足感のおかげか、もくもくと口に流し込んだラーメンとおむすびがたまらなく上手いのだ。
満腹後の下山ルート。通常だと「あっ!」と思っても、疲れが勝ってその発見を流してしまうこともしばしばある。総距離が短いコースの特典は、下りの道のりも存分に楽しめる体力がたっぷり残っていることだ。今回は、場所柄まだ残っているタンポポの綿毛とたわむれ、そして道端にポツンと落ちている「オトシブミ」の観察を楽しんだ。
アルペンムードから春まだ早い森の自然までを6月なのに味わえるこの山。日本の大地を凝縮したような神秘的な山。僕はこの山を「Mt.Japan」と名付けよう。Japanだけに、最後はしっかりと温泉に浸かった幸せな一日を過ごしたのだった。

山では何を食ってもうまい!温かいものだともっとうまい!360度絶景の中で食べるランチは、何者にも負けない贅沢なランチタイムになるのだ。
【1/400sec F5 ISO200 露出補正0 焦点距離約103mm】

タンポポの綿毛は、近くによって見てはじめてその一本一本の存在感を存分に楽しむことができるのだ。この一つひとつが各地へ旅立ち新しい土地に根付く。それを考えると、僕も今すぐに新しい旅へ行きたくなる。
【1/100sec F5 ISO320 露出補正+0.3 焦点距離約80mm】

オトシブミは、母の愛にあふれる昆虫。母親が子どものためにつくったこの葉っぱの形の中に卵を産む。お江戸の時代のラブレターの渡し方「小さく丸めた文を足下に落とす」愛の文化からきたとされている。マクロ撮影に強いので、母親が葉のどこをかじって作業をしたかまではっきりとわかる。
【1/100sec F5 ISO500 露出補正+0.7 焦点距離約90mm】

※焦点距離は35mmフィルム換算の数値です。

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