スノーボーダー 大塚 伸×立山黒部アルペンルート / 富山・長野 山行で出会う“瞬間”

スノーボーダー 大塚 伸

スノーボーダー 大塚 伸

長年続けていたスノーボードの撮影をするために、カメラを持って雪山に入り始める。2010年「Fall Line」(双葉社)のカバーショットに日本人で初めて選ばれ、写真家としてのキャリアをスタート。
現在は冬だけでなく、四季を通じて自然が織りなす色彩や造形を切り撮り、山と向き合っている。近年登山ガイドとしても活動中。(日本山岳ガイド協会認定登山ガイドステージII、スキーガイドI)

「立山が織り成す光景」

山歩きは荷物が軽いに越したことはない。スノーボードで滑るときには尚更だ。ライト&ファストがアウトドア界で注目されて久しいが、ボクはなんでも軽ければいいとは思ってなく、むしろ質実剛健という響きがぴったりな道具が好きだったりする。

G3 Xをフリーでテストできるのは実機が届いて2日間しかない上に天気予報はずっと雨。まともに撮れなかったらという不安もあったが、気になる機種をフィールドで試せるチャンスなのでやらせて頂くことに。

撮影地は立山黒部アルペンルート。
当時の人たちが北アルプスを命懸けで貫いたトンネルによって、室堂を中心に富山と長野を結ぶ日本有数の山岳観光ルートだ。撮影初日、天気予報に反して雲の隙間に青空が見えたので、ベースの室堂から標高を下げる予定を変更して、立山主峰の雄山(3003m)へ出発。
説明が遅れたがボクは立山自然保護センターで働かせてもらいながら、4月から11月までほとんど下山せずに、雲上の天国で作品撮りとガイド業をしつつ、雪がなくなる8月頃までスノーボードを楽しんでいる。そんな感じの生活も1年だけのつもりが立山にどっぷりはまって早8年。千葉県出身で北海道真狩村在住だが、そろそろ立山ローカルと名乗ってもいいのかなと思っている。

カメラが届き、山行前に撮影したミクリガ池。ボディがこれだけコンパクトなのに600mm F5.6はありがたい。池全体の雪解け具合や光の加減が中途半端でも自分の気に入ったポイントをきっちり切り取る事ができた。
【1/800sec F5.6 ISO125 露出補正0 焦点距離600mm】

その経験から立山の旬や、そこにベストな光が射す時間帯を計算し、段取りを考えてスタート。まずは緩やかな登りをのんびり1時間ほど歩けば一の越なのだが、歩き出したとたんに雲が広がり始め、みるみる空から青がなくなってきたので、ハイペースで歩き30分ほどで一の越へ。
山はゆっくりのんびり味わいたいタイプなのだが今回はそうも言っていられない。すでに山は隠れていたがとにかく雄山山頂を目指す。600mmならではの画角で遠くの富士山を狙いたかったが富士山どころか目の前にあるはずの後立山連峰すら全く見えない状況。それでもワンチャンスがあることを信じて、視界が10mもなさそうな稜線を登っていたらガスが突然抜けてピークが見えた! ボクは雲ひとつないピーカンだとかえって写欲が湧かない天邪鬼なので、この様な一瞬のチャンスに燃える。

立山主峰雄山の稜線。夏には富山県の小学生が列をなして登ったり、時にはサンダルの若者が登っているルートだが、こうして見ると主峰としての貫禄十分だ。逆光でも暗部の岩稜はつぶれてないしハイライトも飛んでない。
【1/1000sec F11 ISO125 露出補正0 焦点距離約40mm】

風下のハイマツがまるで白骨化したような環境でも雷鳥は繁殖するし、左上のカヤクグリは、なんて事なさそうに美しい声で歌っている。
【1/320sec F6.3 ISO125 露出補正0 焦点距離24mm】

「山での出会いは“一瞬”」

山の写真は天気の変わり目が勝負だと個人的には思う。いや、山に限らず写真に限らず、物事は変化の途中が面白い。こんな時ザックをおろしてカメラを取り出し構えたら、またガスに包まれてしまったなんて事がよくあるが、G3 Xは常に首から下げていても邪魔にならないので、この時もガスの切れ間を逃さず撮影することができた。結局この晴れ間以降は3日間ずっとガスと雨となり、立山の雄大な景色を試写することは叶わなかった。まあ山の天気はそんなものだしパノラマばかりが山でもない。ということでその後の縦走は足下の植物や雷鳥などを観察しつつ撮影しながら進んだ。
できれば別山まで行って剱岳の勇姿を撮影したかったが、ガスも濃くなり雨も強くなりだしたので、立山が開山された頃、修験者が駆け下りていたという大走りの雪渓を、グリセードで一気に下って楽しんだ。

雷鳥もただ可愛いなと撮るばかりでなく、季節ごとに変わる美しい羽や生態をよく観察して撮影することでより深みのある作品が撮れるのではと思う。ゴアテックスもびっくりな防水性能を発揮している体羽の構造は2重になっており、いうなればアウターにゴアのジャケット、インナーにダウンという絶妙なレイヤリングだ。コンデジの600mmでこの解像度には驚いた。
【1/2000sec F5.6 ISO400 露出補正0 焦点距離600mm】

雷鳥調査中に偶然見つけたカヤクグリの巣。母親が採餌中のようだったので帰ってくる前にささっと撮ってすぐに退散した。何度も撮れないのでISO感度を6400まで上げたがそれほどノイズもなく、内側の雷鳥の羽や職人技とも言うべき精巧な巣の様子や綺麗な卵の色もしっかり記録できた。
【1/320sec F2.8 ISO6400 露出補正+0.7 焦点距離24mm】

空腹も排泄も我慢してじっと卵を温めている雷鳥の雌。コンデジではなかなかピントを合わせづらい条件だが、MF拡大表示でストレスなくピント合わせができた。いくら人馴れしている雷鳥でも繁殖期は特に刺激を与えないように注意が必要だ。もしこんな抱卵中の雷鳥を見つけても近寄ったりはもちろん厳禁だし、写真も1〜2枚にしてさっさとその場から立ち去りましょう。
【1/250sec F5 ISO4000 露出補正0 焦点距離約72mm】

日本で最も雷鳥の生息数が多いと言われている立山はまさに雷鳥天国だ。室堂周辺の遊歩道を歩いているとこんな光景によく出会う。いつ飛び立ってもいいように高速シャッターで構えていたがしばらくまったく動かなかった。道行くおばさま達はこの雷鳥を見て『ほらあそこに雷鳥よ本物かしら?』『なに言ってんのあれは人形よ』『あんな所に居る訳ないじゃない』なんていいながら素通りしてしまっていた。
【1/2000sec F5 ISO800 露出補正0 焦点距離約80mm】

秋のトンボという印象の強いアキアカネ。実は初夏に生まれて夏は山地で避暑をきめこんでいる。
しかし強風が吹いた後などは、森林限界まで吹き飛ばされて、このように凍えて身動きができなくなっている個体を見かける。顔より羽に興味があるので、マクロモードで羽にフォーカスしてみた一枚。
【1/2000sec F4.5 ISO320 露出補正0 焦点距離約108mm】

「撮影にリズムを生むカメラ」

2日目、予報通りの雨。上空に寒気が入り、大気の状態が不安定という夏山定番のよろしくない条件。迷わず標高を下げる事に。こんな時無理をするのは事故のもとだし、山のご機嫌に逆らってはいけない。あきらめが肝心だ。選択肢は二つ、長野側か富山側。頭には雨に潤う森と増水した滝のイメージが浮かび、始発の高原バスとケーブルカーを乗り継ぎ、まずは称名滝へ。風が強く、撮影ポイントはマイナスイオンのシャワー。あっと言う間に全身しっとりだったが、G3 Xは問題なく作動し続けてくれた。コンデジに防塵防滴を施したキヤノンの気合いを感じずにはいられない。
続いて再びケーブルカーに乗って美女平の森を散策。残念ながら雨は降ってなかったが、新緑と鳥のさえずりが心地いいし、ずっと室堂にいるから土の香りにホッとする。
G3 Xは広角で木々、望遠で野鳥、マクロで花と1台でサクサク撮れるから、流れで撮影することができ、よりイメージが膨らんでくる。

アルペンルートにはたくさんの日本一がある。この称名滝もその一つ。ここではマニュアルを見て気になっていた極彩色モードを使ってみた。個人的には色彩はっきりコントラストくっきりな写真が好きなので、またいろんな被写体で試してみたい。
【1/320sec F5 ISO125 露出補正+0.7 焦点距離約100mm】

光線状態はよくなかったが水量はなかなかの迫力だったので、自分もカメラもしぶきを浴びながら瀑布が魅せる一瞬を電子ビューファインダーで狙って撮った一枚。レンズに付いたミストがいいソフトフォーカス効果を演出してくれた。防塵防滴に感謝。
【1/2000sec F5 ISO640 露出補正0 焦点距離約97mm】

初夏に現れる白いやつ!緑の森で一際目立つ銀竜草。葉緑素を持たず光合成をしない珍しい植物だ。銀色の竜に見立てられたその名前からして魅力的。こんなアングルもチルト液晶モニターのお陰で湿った地面に這いつくばらなくて済むのが助かる。
【1/40sec F2.8 ISO125 露出補正0 焦点距離24mm】

美女平のブナ。新緑がステンドグラスのように透けてるイメージで撮った。清涼感を狙ってホワイトバランスを調整。自分の求めてる色を出すのにホワイトバランスの補正機能は欠かせない。もちろんRAWで現像すれば後からどうにでもなるが、ボクは現場で好みの色を出す作業が好き。
【1/125sec F2.8 ISO800 露出補正0 焦点距離24mm】

観光客目線で一枚。光量が極端に変わっても、トンネルから明るいところにISOオートが効いてくれた。こういった旅のスナップはオートで気軽に撮れるのがいい。普通は乗り物を入れるんだろうけど、ボクは乗り物よりも線路の縦と階段の横、そしてトンネルの曲線に面白みを感じる。
【1/500sec F5 ISO2000 露出補正+0.7 焦点距離約83mm】

ニッコウキスゲに誘われてきたバッタ。花粉の運び屋はハチっていうイメージが強いけどこうしてバッタやその他の昆虫や鳥も花にとっては大切な存在だ。バッタにくっついた花粉もマクロでばっちり撮影できた。天気は悪くても自然には被写体がたくさんある事を再認識した山行だった。
【1/1600sec F2.8 ISO800 露出補正0 焦点距離24mm】

この2日間はなかなか厳しいコンディションだったが、だからこそG3 Xのいいテストになった。24mmから600mmを1台でフォローできる利便性。チルト液晶モニターはローアングルだけでなく、ハイアングルでも重宝するだろう。外付けの電子ビューファインダー(EVF)は、被写体や構図に集中できるし、ファインダーを使うことによって三点支持となり、山登りと一緒で安定するのもポイントだ。いろいろ試す時間がなかったが、一眼にはない多彩な撮影モードも面白そうだし、何より仕上がりの解像度には驚いた。
スノーボードの撮影にはもうしばらく5D Mark IIIや7D Mark IIが必要だけど、プライベートの山行ではメインとして活躍しうるポテンシャルをG3 Xに感じた。

※焦点距離は35mmフィルム換算の数値です。

No.04 No.05