森林セラピスト 小野 なぎさ×西沢渓谷/山梨 五感で味わえる森林

森林セラピスト 小野 なぎさ

森林セラピスト 小野 なぎさ

東京都出身。東京農業大学 森林総合科学科卒業。在学中、心の健康と森の癒し効果に興味を持ち、研究を始める。卒業後は企業のメンタルヘルス対策を支援する事業に関わり、森林を活用した研修の開発や、中国での事業の立ち上げにも関わる。その後、活躍の舞台を国内に移し、都内の心療内科でカウンセラーとして勤め、「保健農園ホテル フフ山梨」の運営に携わる。現在は独立して山梨県や九州地方など全国各地の森を飛び回り、森林セラピストとして活動している。

「西沢渓谷の隣、苔むしたサワラ林へ」

森林セラピストの仕事は、訪れる方の心と身体の健康のために一緒に森を歩くこと。登山のように頂上を目指すのではなく、五感いっぱいに森を感じ、身体の心地よさや心がリラックスしている感覚を大切にする。私のところへ訪れる方は、日常の中に自然が少なく、森に触れたいけど山登りするには自信がない。そんな女性が多い。森林セラピストはそんな方の今の心と身体の状態に合わせて森を案内する。

苔むした静かなサワラの天然林。自分の目で見ているような広い森の雰囲気が撮影したくて三脚を立て、広角で撮影。木々の緑と苔の緑、繊細な色合い、質感が表現できるのは、G3 Xの表現力が優れているところだと思った。とても気に入っている一枚。
【10sec F11 ISO125 露出補正0 焦点距離24mm】

岩の上に育つ大きなサワラの木。木の大きさと溶け落ちるような根っこの様子を撮影したくて、三脚を置き、自分の場所を確認してセルフタイマーで撮影。
【1/40sec F4.5 ISO250 露出補正0 焦点距離約43mm】

倒木と川を撮影。三脚は使わず、川すれすれまで腰を落とし、息を止めてシャッターを切った。
【2sec F6.3 ISO200 露出補正+0.3 焦点距離24mm】

古木に生える小さな命。光が射す瞬間を狙い、踊っているような楽しそうな様子を伝えたかったので、後ろをぼかして光と苔の柔らかさがわかるように小さな芽にピントを合わせて撮影。
【1/125sec F5.6 ISO200 露出補正+0.3 焦点距離約180mm】

西沢渓谷の前に、ほど近い針葉樹の森を訪ねた。道路からすぐのところに現れたのが、サワラの天然林。あまり人の立ち入らないこの森には、にょきにょきと巨木のサワラが群生している。まずこのような巨木が数多く残っていること、そして岩々を包んだ苔の緑の深さに圧倒され、自分の見ている景色が嘘のようだった。まるで映画の世界に飛び込んだような感覚。

森に限らず、雨が降っても嵐がきても、木はその場から動くことができない。環境に身を委ね、ただただ天に向かって伸びる。私の身長より大きな岩に根を張り、岩とともに生きるサワラを眺めていたら、ダーウィンの「環境に適応するものが生きる」という言葉を思い出した。ここまで大きくなるのにどれくらいの時間が経っているのだろう。

森の中には小さな渓流があったので、シャッタースピードを少しだけ遅くしてその流れを捉えてみた。倒木も岩も苔に包まれ緑色。朽ちていく倒木と苔の生命力、そして水の流れという三者の対比がおもしろい。また、別の倒木の上に広がった苔が胞子体と思われる芽のようなものを多数伸ばしていた。木漏れ日の下、根元近くだけが赤い色を帯びていてかわいらしい。

五感(1)香る:包まれる心地よさ

サワラ林の次に森林セラピー基地にもなっている西沢渓谷へ向かった。西沢渓谷に入り1時間ほど歩いたところで、登山道の脇にあるウッドチップを敷き詰めたカラマツ林にたどり着く。サクサクとチップを踏みしめ、朝の柔らかい日差しの射すポイントで、ごろんと寝転んだ。見上げればカラマツのまっすぐ伸びる幹と青々とした葉が美しく思え、G3 Xを向けシャッターを切った。登山道では寝ころぶことなど到底できないが、このような整備された森林セラピーロードなら自然と寝ころぶことができる。

カメラを抱えたまま目を瞑れば、土とチップが混ざるスモーキーな香りが鼻に飛び込み、太陽に照らされたカラマツの香ばしい香りが風に乗り優しく流れている。針葉樹の香りは、血圧や脳の活動を沈静化させ、怒りや緊張を和らげてくれる作用がある。まるで香りのカプセルの中にいるような場所だった。

森の生き物目線で森を感じてみる。見える森の景色だけでなく地から上がる香りが伝わるよう、カメラを置きウッドチップで角度をつくり撮影。チルト液晶モニターの向きを変えられるから低姿勢の撮影も楽々。
【1/6sec F11 ISO125 露出補正+0.3 焦点距離24mm】

カラマツの香りと、ごろんと寝転んだときの気持ち良さを伝えたくて見上げて撮影。チルト液晶モニターに映る緑がとてもきれいで、モニター越しの森はまた新しい世界に見えた。カメラが軽いから女性でも寝ながら持って撮影できるのが嬉しい。
【1/60sec F10 ISO125 露出補正+1 焦点距離24mm】

五感(2)聴く:奏でられる 静と動

木のベンチに腰掛けて、森の音を聴いてみる。風の音、葉擦れ、小鳥の鳴き声、そしてわたしの鼓動。森の奏でる音には「1/fゆらぎ」があり、ゆらぎの音を聞いていると脳からα波が出て、脳を休ませた状態にしてくれる。自然の音に包まれて、森のオーケストラを聴いている気分。

木漏れ日の中を楽しそうに駆け上る姿に思わずシャッターを切った。遠く抜ける森の奥行き、木漏れ日、歩く人がブレずに撮影できたのは、カメラが賢いからだと思った一枚。
【1/125sec F2.8 ISO125 露出補正0 焦点距離24mm】

カラマツ林を抜けるとセミの鳴き声が響き渡る広葉樹林の木立が待っていた。左手の傾斜の下には渓流が流れ、水の音も聞こえる。樹冠によって日差しがさえぎられていることや心地よい風が吹いていることと相まって、涼しさが増す。全国に60カ所ある森林セラピー基地の道は、人が歩ける道幅、森の密度、傾斜がきちんと確保されているので、安心してゆっくり森を感じながら歩くことができる。気持ちいい景色とつぎつぎ出会えるので、写真をたくさん撮りたい。ただし、カメラを手にしている際はくれぐれも足元にご注意を。

歩いていると遠くから聞こえる水の音。天気のいい日にはやさしく水が流れる。そして西沢渓谷の森で出会える美しい滝の数々。滝口まではやさしかった流れが、落ちた途端に激しくなる。力強い滝の音もこの森の魅力のひとつ。

五感(3)触れる:指先で自然と繋がる

ご長寿そうな大きなトチノキ。木から剥がれ落ちるような樹皮と、その下で出番を待つたくましい木肌がとてもセクシー。使い込んだ革のような肌感と木の生き様が伝わるよう根元から見上げて撮影。
【1/8sec F6.3 ISO250 露出補正0 焦点距離24mm】

森の中には直線的なものがない。そして、360度さまざまな命に包まれている。森で出会った大きなトチの木は、樹皮が脱皮をするように剥がれ落ち、ゴツゴツとした木肌が露わになっていた。その木肌に触れると弱々しさは皆無で、硬くしっかりと幹を守っている。その生き様はなんだかとてもセクシーで、まるでロック魂のようなものが感じられた。

森の小さな生き物になった気分で苔を撮影。この世界はカメラで覗かないと出会えない。手前の苔がもさもさっと生えている感じが伝わるよう、後ろをぼかした(こんな写真が撮ってみたかった!)。
【1/50sec F8 ISO200 露出補正-0.3 焦点距離約54mm】

すくすく生長して、ふわふわの苔。人に踏まれずよく伸びた苔を覗きこむと、自分が小さくなって森に入ったみたい。木漏れ日が当たるとほんのり温かく、触ってみるとやさしい感覚を覚える。そんな様子を切り取りたくて、G3 Xをいろいろな角度から向けてみたうちの1枚。森は木々を眺めるのもいいが、ひとところをじっと見つめるのもいい。

水の冷たさ、透明感を伝えたくて、「水」の撮影に臨んだ一枚。透明な液体を撮影するのは難しいと思っていたけど、光をちゃんと捉えてくれるからキラキラした水の存在が撮影できた。
【1/500sec F5.6 ISO160 露出補正+0.3 焦点距離約51mm】

西沢渓谷の水はとてもきれい! 手を入れると冷たくて全身がすっと改まるような気持ちになる。そしてとても心地いい。指先で自然とつながり、心の動きをしっかり感じ取ることは、森林セラピーの大切なポイント。暑い日が続いていたから、今日は飛び込みたい気分になった。

五感(4)味わう:隠し味は大自然

この時期の山梨は桃が旬! ということで冷えた桃の瑞々しいおいしさを伝えるため、水の中に桃を半分沈め、背景に渓流の様子を入れて撮影。桃の気持ちよさが伝わる一枚に。
【1/800sec F5 ISO160 露出補正+0.3 焦点距離約46mm】

森にはおいしい恵みが豊富にある。山梨は果物の国。地元の方から旬の桃をいただいたので、渓流で冷やして食べることにした。川に浸かる桃を見ていたら、とても気持ちよさそうで、ひとっ風呂を浴びている桃の気持ちになれた。夏はやっぱり暑いので桃も川でひと涼み。採れたての旬の食材をその土地でいただくことは、もっともエネルギーが詰まっていて栄養価も高く味も濃い。きれいな水で冷やした完熟の桃の香りと甘さは絶品。写真からその味わいを感じてもらえると嬉しい。

西沢渓谷の水の美しさを見せたかった一枚。日中で光が眩しかったので電子ビューファインダーをつけて覗いてみると、川の底に透ける石と水面に当たる光、水の流れがしっかり見えた。
【1/1000sec F5.6 ISO200 露出補正+0.3 焦点距離約51mm】

森の恵みがおいしいのは、そこを流れる水がとてもきれいだから。そして山梨の水はとてもおいしい! そんな様子を伝えたくて、渓流の浅いところをほぼ真上から撮った。丸い石によって生まれた水のゆらめき一つひとつに太陽の光が反射してキラキラときれいにみえる。自分の目ではなかなか気がつかない光と水の交流は、G3 Xで覗いたから見つけられたのかもしれない。

五感(5)見る:森の表情は豊か

西沢渓谷「三重の滝」。滝口のエメラルドブルーと真夏の葉の濃い緑、流れる水が糸を引いているような写真を撮ろうと挑戦。光の当たるタイミングを見ながら三脚を立て、NDフィルター設定をして、シャッタースピードを遅くして撮影。
【1.6sec F11 ISO125 露出補正-1.7 焦点距離約30mm】

川に流れる自然な水の動き。石の上で飛び跳ねる水は一度たりとも同じ表情を見せない。跳ねるような水の動き、川の流れがわかるように撮影したくてシャッタースピード1/2000秒で撮影。
【1/2000sec F5 ISO125 露出補正-0.3 焦点距離約95mm】

2時間ほど歩いて到着した先に現れたのは、エメラルドブルーの滝壺がとても美しい「三重の滝」。その日の天気、太陽の角度など、光の具合でいろいろな表情を見せてくれる。森の美しい景色を眺めると、人の身体は血圧が低下し脳の活動が沈静化する。自然の美しい景色を見るのは、気持ちのリフレッシュだけでなく生理的にも身体にとてもよい効果が期待できる。森の中で特別なことはせず、のんびり過ごす。そんな時間の使い方がもっと広がればいいなと思う。

森の中で可憐に私を見つめるこの花は「ソバナ」。背景をぼかして花だけにピントを当てて撮影。露出を調整しながら揺れる花と呼吸を合わせ、シャッターを切った一枚。賢いカメラです。
【1/100sec F4.5 ISO400 露出補正0 焦点距離約68mm】

ふと空を見上げると、木々が強い日差しから私を守ってくれている。重なり合う小ぶりな葉が光を受けて、明るい緑から濃い緑までグラデーションになってとてもきれい。さらに周囲を眺めると、遠くに小さな花が可憐に咲いていた。
森の中を見渡せば小さな感動が連続してやってくる。しかもその感動は今いるその一瞬にしか捉えられない。
今回は、ここ三重の滝までしか行かなかったが、さらに奥へ進めば「七ツ釜五段の滝」や「不動滝」といった素晴らしい滝がいくつも待っている。西沢渓谷の森は深く、興味は尽きない。

※焦点距離は35mmフィルム換算の数値です。

No.06 No.08