写真家・ノンフィクション作家 田中 康弘×森吉山/秋田 マタギと熱波の森

写真家・ノンフィクション作家 田中 康弘

写真家・ノンフィクション作家 田中 康弘

1959年長崎県佐世保市生まれ。狩猟採集関係の取材を長年に渡って続ける。特に阿仁マタギとの交流は長く四半世紀に及ぶ。西表島から礼文島までをフィールドとしている。『マタギ 矛盾なき労働と食文化』、『日本人は、どんな肉を喰ってきたのか?』(ともにエイ出版社)など、狩猟関係、伝承関係の著作多数。

山の暮らしを見つめる

秋田県の北部にはマタギの集落が点在している。中でも北秋田市の阿仁地区はマタギ文化発祥の地としてつとに有名だ。日本有数の豪雪山間地を何故マタギたちは生活の場に選んだのか? その答を探る旅を私は四半世紀に渡って続けている。

今回G3 Xを手にして真っ先にマタギと山へ行こうと思いついた。マタギとの山行きはいつもエキサイティングで素晴らしい。春先の山菜採りやひと抱え10kgを超える秋のマイタケ採り、そして肉体的極限に達する熊猟、静寂の中で繰り広げられる真冬のウサギ狩りなど厳しい条件下での撮影は常に楽ではない。機材を持参してマタギと山を歩くのは厳しい作業、そこでG3 Xがその任に堪えられるかをテストしようと考えた。

マタギとイワナ釣り

マタギの前に道はなく、マタギの後にも道はない。
【1/30sec F2.8 ISO250 露出補正0 焦点距離24mm】

この時期山菜は無い、キノコも無い、そして当然猟期ではないので熊を追うこともできない。さて何をしようかと考えていると頭に浮かんだのはマタギの釣り名人の顔だったのである。さっそく秋田県北秋田市阿仁打当地区に向かったが何せ条件が悪い。ここ二週間ほどまともに雨が降らず沢の水位は下がっている。狙うイワナは岩陰にじっと身を潜めているのだ。果たしてイワナは釣れるのか?
打当集落からガタガタと林道を進む。強い日差しが森に降り注いでいる。
「いやあ、夕方ならまだ釣れるんだけどなあ」
そう言いながらマタギは身支度を調えると藪の中へ入っていく。猟の時もそうだが山の中は全てマタギの通り道なのだ。斜面も崖も関係は無い。進むべき時には何処でも歩く、それがマタギ。だからマタギの取材は骨が折れる。

藪漕ぎをしつつ斜面を登っていく。首から掛けたG3 Xは全く負担に感じない。常に自分の身体を支えるためにマタギとの山歩きでは必ず両手を開けておく必要があるのだ。
沢に出るとさっそく竿を振るマタギ。その様子を回り込んで撮影する。余り近づくと邪魔になるから距離を取りながらの撮影だ。一気に望遠でマタギの表情を追ってみたが機動力に驚く。ワンアクションでマタギの顔をアップにできた。
沢歩きには注意が必要だ。不用意に石を踏むとひっくり返る恐れがある。カメラを持つ身だけに細心の注意を払って被写体を追わねばならない。この場合でもG3 Xの軽くて小振りなボディは有り難い。このカメラなら自分のフットワークが明らかに軽くなったのが解る。
森と渓流とマタギ、これを全て収めるにはやはり広角レンズが欠かせない。G3 Xの広角側は35mmフィルム換算で24mm相当と充分に広く働いてくれた。思った通りの絵が作れる操作性の良さは嬉しいかぎりである。

マタギの渓流釣りの様子を撮影。ハイコントラストにも関わらず、シャドー部までしっかりと描写されている。
【1/250sec F4 ISO250 露出補正0 焦点距離24mm】

沢を挟んでも望遠でこれだけ表情に迫る事ができる。
【1/160sec F5.6 ISO250 露出補正0 焦点距離600mm】

小さいが顔を見せてくれたイワナに感謝!
【1/640sec F5.6 ISO125 露出補正0 焦点距離約170mm】

森吉山へ登る

阿仁川本流に掛かる萱草鉄橋。ここ以外にも撮影ポイントは数多い。
【1/1250sec F4 ISO160 露出補正0 焦点距離24mm】

マタギの里阿仁へ入るには武家屋敷で有名な角館から秋田内陸縦貫鉄道に乗るのが便利である。山間部を縫うように走る列車は風情があってよい被写体だ。訪れるたびに必ずと言っていいほど写真を撮っているが飽きることがない。今日も朝から大好きな場所で撮影したがG3 Xのスポーツモードを使うと便利である。やはり動きがある被写体は高速連写で捉える方が安心だ。さて、よい写真も撮れたことだし森吉山にでも登るとするか。

森吉山は標高1454mで真冬の樹氷が有名である。中腹は広大なブナ林が覆う生き物の宝庫、そしてマタギ最大の獲物であるツキノワグマの個体数も非常に多い。命のあふれる山はマタギにとっても大切な場所なのだ。今日も昨日同様にG3 Xを首からぶら下げての山行きである。気楽でよい。いつもより間違いなく楽な上り道だ。真冬には巨大な氷の塊と化す青森トドマツを眺めながらコメツガの間を歩く。途中で見かけたヤマユリに恋したりオニヤンマを追い掛けたりしながらの楽しい登山である。私は基本的に露出はマニュアルでしか撮影しないが今回はほとんどをオートでカメラ任せ。その方がより気軽に山を楽しめると思ったからだ。実際に出来上がりの絵を見てもほぼ思った通りで感心する。慣れないカメラなのに扱いやすい、これはかなりポイントが高い。
頂上に出ると心地よい風が吹き抜け火照った身体には嬉しい。大汗を拭いながらあたりを見回す。青い空と静かな森が広がる山の空気はやはり広角で撮るのが相応しい。

こういう出会いは嬉しい。元気が出る花の力。
【1/1000sec F4.5 ISO200 露出補正0 焦点距離約78mm】

山頂付近にある小さな湿原ははかなく美しい。
【1/125sec F5.6 ISO160 露出補正0 焦点距離約170mm】

山頂から西方向を望む。視界が良ければ日本海も見える。
【1/1250sec F4.5 ISO125 露出補正0 焦点距離24mm】

森吉の最深部 ノロ川源流を歩く

独立峰である森吉山には東西南北でそれぞれの顔がある。マタギの里打当地区は南麓側だ。私が好きな場所にノロ川という所がありこれは森吉山の東山麓に広がる森林地帯だ。ブナを始めとする広葉樹の巨木が生い茂る様はまさに別世界、ここに入ると聖域にでも迷い込んだ様に感じるから不思議だ。
阿仁合の街中から車で小一時間、どんどん細くなる林道、進むほどに深くなる緑陰。昔から変わらぬ奥森吉の顔である。森の中には真夏の強い光がスポットライトの様に当たっている。コントラストが高く厄介な被写体だ。しかし、オート撮影でカメラ任せでもG3 Xの選択は間違っていない。難しい撮影も一発で決めてくれる。これは頼もしい相棒じゃないか!
最も森が美しく見えるのはやはりしっとりとした条件だが残念ながら木々は乾ききっている。それでも倒木の苔は青々と目に鮮やかで美しい。

苔もまた被写体として面白い。可愛いと感じる。
【1/80sec F5 ISO500 露出補正0 焦点距離約135mm】

目を上に転じれば眩い光の帯が幾重にも重なりそこにブナの葉が浮かび上がっている。望遠側で覗いて驚いた。ブナの葉脈まではっきりと見えるのだ。距離は4~5m程ある。さらに寄るとマクロレンズでも使ったかのような写真になった。G3 Xのこの望遠特性は素晴らしい。コンパクトなボディでここまでできるとは驚いた。森の中は被写体にあふれている。その全てに対してベストの撮影ができる可能性があるカメラだ。

地上4~5m付近のブナの葉脈。
【1/400sec F11 ISO500 露出補正0 焦点距離600mm】

警戒心の強いオニヤンマにも怖いぐらいに寄れる。
【1/800sec F6.3 ISO500 露出補正0 焦点距離600mm】

命の水を撮る

予測不能の揺らぎ。不思議な感覚に捕われる。この水面の下には40㎝を超える大物イワナも潜んでいる。
【1/320sec F5.6 ISO500 露出補正0 焦点距離600mm】

マタギの山へ入ると私は必ず水を撮影する。春先の雪解け水を集めてドウドウと流れる本流、新緑の中をキラキラ流れる沢、深い雪を縫うように流れる渓流。どれも広葉樹の森が育む命の水なのだ。この水があって地衣類からブナの巨木までが根を下ろし、そしてその間に微生物から熊までの無数の命が宿るのだ。
水は同じ場所を流れるが一瞬たりとも同じ顔はしない。そこがよい。いつまで見ていても飽きないのが水の動きなのだ。G3 Xを構えて水の表情を捉える。ズーミングの領域が非常に広いので自由自在に切り取ることができて楽しい。広角側で森の木々と流れを撮る。一気にズームアップするとそこには気が付かなかった水の表情が見えた。マクロとミクロを自在に操る感覚が、このカメラの醍醐味である。

天井の様に覆ったブナの緑が流れに写り込む。これまた神秘的な色合いだ。
【1/250sec F5.6 ISO500 露出補正0 焦点距離約179mm】

ハイスピードで撮ると柔らかな水に硬さを感じる。キンとした表情もよい。
【1/200sec F5.6 ISO250 露出補正0 焦点距離約220mm】

※焦点距離は35mmフィルム換算の数値です。

No.07 No.09