林業家 足立成亮×東鷹栖界隈の森林/北海道

林業家 足立成亮

1982年北海道札幌市生まれ。2009年から北海道林業の世界に入り込む。森林調査員、森林作業員、森林・林業系の臨時行政職を経て2012年にフリーとなる。“out woods”の屋号を掲げ、北海道各地で森林環境と共存する林産のカタチを目指し、小・中規模の林業施業や森づくりを主軸に仕事をしている。「森ではたらく! 27人の27の仕事」(学芸出版社)に“森を写す人”として参加。

旭川、ヤマと暮らす日常

林業の世界に入って7年目、当時と比べて随分と林業やその周りのイメージが世に露出するようになってきたなぁと、飯場的に使わせてもらっている北の果ての古民家で、かろうじてつながる携帯インターネット回線を頼りに、山仕事中に撮った写真をSNSサイトに発信しながら、しみじみそう感じている頃。

職業というよりはライフスタイルとしての山仕事を自分なりに目指したくて、シンクロしてくれる仲間を加え「out woods」という看板を掲げたのが2年前。多くの人の助けを得て、森林環境のバランスを重視した林産業から遊べる森づくりまでの山仕事、薪の生産販売などで生計を立てている。僕らの事は森の中で誰も見ていないけれど、それでも見た目にも格好良く在ることをテーマに、シゴトとアソビのあいだ、ヤマとマチのあいだの丁度良いスタンスを保つように仕事をしている。その中で重要なのが、写真。自分たちの仕事を写真に収め発信するのは楽しいし、レスポンスも大きい。ヤマの日常へのスパイスに最適で手軽なツール。

仕事現場へはこれまでもカメラを持ち込んで撮影を続けていた。ヤマの現場は条件が厳しくて機器がすぐに傷むし、撮影に没頭して仕事に支障が出ては意味がないのでなかなか思うように撮影できないのが悩みだが、現場でその空気を吸い、木屑や松脂や機械の油にまみれ仕事をする人間が撮ることに意味があると信じている。

伐倒したトドマツの枝をはらう。最近では高性能林業機械で伐倒→枝払い→採材(丸太を販売するための長さに切りそろえる)を済ませてしまうが、僕らは手作業でやっている。その方が、ヤマに近いところで林業ができるから。見ての通り木屑が撮影者を直撃している。防塵のカメラでなければこのアングルは躊躇してしまう。
【1/80sec F10 ISO3200 露出補正-0.3 焦点距離約50mm】

G3 Xは防塵・防滴のハイエンドコンパクトカメラ。これは僕のスタンスにぴったりだった。24mm-600mmというレンジの広さは林業現場を写すには好都合だ。実機を見ながら、いろいろ撮りたくなる気持ちを抑えて、今回は敢えて「林業家の日常」を普段の自分のリズムの中で撮影することにした。とびっきりの奇跡の瞬間を記録できるのもカメラだけれど、気軽に持ち歩いて日常のリアルを蓄積し、表現することが出来るのもカメラの魅力、と思わせてくれる。

日暮れ前に一日の道具のメンテナンスと明日の段取りを済ませる。遅くても22時位までには寝て、日の出の頃に目が覚め、弁当を詰め、現場で飲む水分を持ち、道具のチェックをし、80km先の現場へ向かう。撮影の時期は朝靄を散らす東の太陽が美しい朝が多かった。山村を抜け、現場の森に近づくと、森に住む動物たちの朝の営みの気配を方々で感じる。走行音がやけにけたたましく思え、足早に車を停め、外に出てひと息つく……。

自宅前にストックしてある薪越しに朝靄と東の空。明暗部のバランスが気持ち良い。
【1/800sec F8.0 ISO3200 露出補正0 焦点距離24mm】

昨年自分たちで造った道を使って通勤する。6tクラスまでの重機や、小型車両が通れるくらいの規格にしている。そしてなにより、森の景観を崩さないように造ることを心掛けている。
【1/13sec F10 ISO800 露出補正0 焦点距離24mm】

静かな、でも生き物たちの朝のルーティーンを確実に感じられる朝。エンジンを止めて降り立てば、五感が森の感覚に近づくために、静かに研ぎ澄まされていく。
【1/60sec F5.0 ISO400 露出補正-0.7 焦点距離約38mm】

五感から感じられる森

鳥の声、虫の羽音、鹿の足音、時にはモワっと滞留するヒグマの体臭の残り香……。そして木々のざわめき、湿った土のにおい。そんな中で一日の作業の段取りを集まった仲間と話す。チェーンソーや燃料、斧やクサビ、とにかく大きく重く、かさばる道具たちを背負って作業ポイントにアクセスする。移動中も森の世界は刻一刻と変わり続けて、「ほら、今撮らないの? ほら、もう終わっちゃうよ?」とカメラを持つ僕を挑発してくる。常にスタンバイ状態でわき腹にスッキリ収まるG3 Xはストレスが少なく、雨や朝露で濡れる林内も心配なく歩けるのはありがたい。

コクワとヤマブドウの蔓。今年も大豊作の予感、去年は熊に先を越されて残り物をいただいた、今年こそは……。これからの季節は忙しくなる。
【1/320sec F5.0 ISO400 露出補正-1 焦点距離約50mm】

靄の中で怪しくたたずむトドマツたち。その場の感覚でサクサク撮れてゆくのが気持ち良い。
【1/40sec F5.6 ISO800 露出補正0 焦点距離約50mm】

山を進んでゆくと、わずかに陽のあたっている場所で蛇が身体を温めていた。陰に逃げようとする前にとっさにカメラを構える。ここまで寄れて、ここまで捉えられるのには驚いた。
【1/100sec F5.0 ISO200 露出補正0 焦点距離約200mm】

仕事が始まると、作業しながら撮影のビジュアルとタイミングを窺う。チェーンソーを持ちながら、重機に乗りながら、丸太を転がしながら、わき腹にはG3 Xを携えている。木々の下、ランダムな光と影の中で動く仲間を追ってレンズを動かすと尾根から逆光が差し込んでくる。間伐で比較的大きな木を伐ると空が一気にひらけて世界が変わる。本来ならばレンズやカメラの交換をしたくなる。過酷な条件のヤマの現場で、24-600mmのレンジを持ち、コンパクトで高解像度、ISO設定、測光パターンやAFポイント、ホワイトバランス、MFへの切り替えなどの操作が感覚的に、ほとんど片手で行える操作性とスピード感があるがゆえに、この一台で満足のいく一日を収めることが出来そうだ、と思わせてくれるのがステキだ。

山の仕事にはほぼ彼とふたり作業で入っている。少し離れたところから、ピントはカメラに追わせてみた。
【1/250sec F5.6 ISO800 露出補正-0.7 焦点距離約300mm】

伐倒直前、これから木が傾き始める。20m上空の梢の行く先を確認する。
【1/125sec F5.6 ISO3200 露出補正-0.3 焦点距離約50mm】

トドマツが倒れてゆく瞬間。樹高は23m位。葉がこすれる音、枝が折れる音、ズンと地面に着地する音。手前の斧は、「映り込むかな、と思って刺しといたわ」と被写体。空が急に明るくなってもカメラは即座に反応してくれた。僕も頑張って感度と補正のダイヤルを回しながらシャッターを切る。小雨の中、木屑と松脂だらけの手で。
【1/125sec F8.0 ISO2500 露出補正-0.3 焦点距離約32mm】

林業の仕事は、どれだけ配慮しても、結局長い年月をかけて培われてきた森のバランスに、人間の刹那的都合をねじ込む行為が伴ってしまうこともある。森のバランスを考えない方が、効率が良いのだ。でもそれじゃあ10、20、100年先の未来がなくなってしまうからいろいろ考える。僕らのように、森が好きで森の仕事をしている人間にとっては常に付きまとうジレンマだ。森の住人たちはもの言わず、そんな僕らのやっていることを静かに確認しに来ているように思えるときがある。毎日、鹿の親子が同じルートで行動しながらこちらの様子を覗っている。カメラを構えると何かを感じ、すぐ逃げてしまう彼女らをようやく捉えることができた。好奇心旺盛な子どもがはしゃいで走り回るのを静かにいさめる母鹿。こんな会話が聞こえてきそうだ。
「ねえ、あの変なのなに? なんでずっと後ろ足で立ってるの?」
「ああしないと辛いのよ、頭が重すぎるのね」
「あののぞいてる黒い四角はなに?」
「あれがないと見えないのよ、目が良くないのね」
「へぇ、なんかかわいそうだね」

枝払いが終わった後のトドマツ。これは一般的な木材としては業者は買ってくれず、パルプになる。大体の見立てで、この木一本1500円くらい、そこから諸経費を引くともちろん赤字だ。それに対する補助はあるけれど、ひとつの現場で効率を求めると、作業の質より量とスピードが優先される。たちまち、森と人の気持ちの良いバランスは崩れてしまう。
【1/10sec F8.0 ISO800 露出補正-0.3 焦点距離約38mm】

作業のピークと彼女らの現れるタイミングが重なり、かつカメラを向けると逃げる。なるだけ“狙う気配”を消して撮影しているのだが、この辺りの鹿はハンターの存在を強く認識している。覗いて狙う動作すなわち逃げろ、という条件反射が備わっている個体がいるのだ、と地元の猟師は良く話す。この後、親子はさっと森の中へ走り去った。
【1/320sec F8.0 ISO1600 露出補正-0.3 焦点距離600mm】

切株で食事、小一時間ここで休憩する。
【1/200sec F6.3 ISO250 露出補正-0.3 焦点距離約38mm】

人の時間と森の時間

山仕事の勝負は午前中で決まる。午後は集中力が続かないからだ。最後までトラブルの無いように作業を終え、道具を車に詰め込み各々の家路に向かってヤマを降りる。直したい機械があったので、街で行きつけの機械屋さんへ。地域に必ずひとつはある、林業用品を扱う「町のチェーンソー屋」だ。店主の作業部屋を撮らせてほしいと尋ねたら、「こんな汚いとこ撮ってどうするの?」と断られかけたが頼み込んでちらと撮らせてもらった。壁も床も、油にまみれ、道具が使い手だけにわかる配置でいたるところに横たわる。林業屋にとって、なぜか親近感と安心感の湧く景色。写真撮りにとっては、写欲を掻き立てられる景色。

大きな機械の刃をメンテナンスする「町のチェーンソー屋」のご主人。いつもこの部屋で修理待ちの機械に囲まれている。「仕事だからねぇ」とつぶやいて作業を黙々と続ける。写真から遠慮の念が読み取れる。もうちょっとズイズイと突っ込んで撮れば良かったかな……。
【1/40sec F5.6 ISO400 露出補正-2 焦点距離約24mm】

一日の仕事を終えて山を下りる。「おつかれさん!」 ノーファインダーで何気なく撮った。ちょっとブレてしまったが関係ない。こういうリアルで何気なく、ステキな写真を撮りためていくのが好きだ。このとき、僕が祖母から譲り受けたコンパクトフィルムカメラ、“canon Demi” のことを思いだした。タフで小回りが利いて、良く手に馴染み、結ぶ画はしっかりと、バランスの良い安心感があるカメラだった。
【1/100sec F8.0 ISO800 露出補正+0.3 焦点距離約38mm】

写真に写る森は北海道を代表する針葉樹、トドマツの人工林で林齢56年。その前はジャガイモ畑だったそうだ。植林されたトドマツを段階的に間伐して、自然に生えてきた広葉樹を育てて、より天然に近い森を戻したい、というリクエストを30年がかりで実現させようとして今年で3年目。30年後、僕がこの森に関わっていられているだろうか? 山主は生きていても100歳位だ。人間のタイムスパンを軽く超えてしまう森の世界、かつてそこでどんな人間がどんな作業をしたか? 次世代に伝えるため、写真を残すことが一番手っ取り早い。そしてその写真の質は高ければ高いほど残りやすい。その質とは、現場のリアルが感覚的に良く記録されていて、なおかつ楽しげな雰囲気をまとい、被写体に限りなく近いこと。僕のヤマ仕事にとって、カメラとはチェーンソーや斧と同じくらい必要なギア、G3 Xもその「山の道具」のリストに入れておこう。

チェーンソー屋に寄って家路に着く頃にはすっかり夕暮れだった。自宅近くの広い農道に車を停めて一枚。
【1/40sec F8.0 ISO400 露出補正-1.7 焦点距離約50mm】

※焦点距離は35mmフィルム換算の数値です。

No.09 No.11