アウトドアライター 高橋 庄太郎×八幡平/岩手 韓国岳・開聞岳/鹿児島 東西の山々を巡る

アウトドアライター 高橋 庄太郎

アウトドアライター 高橋 庄太郎

1970年仙台市生まれの山岳/アウトドアライター。最近は国内の山々を丹念に歩くことを心がけ、四季を問わず山に通っている。なかでもテント泊による長期、長距離の縦走を好み、好きな山域は北アルプスと北海道。だが、生まれ故郷の東北や温暖な九州、沖縄にも愛着を感じている。著書に『トレッキング実践学』『山道具 選び方、使い方』(エイ出版社)、『テント泊登山の基本』(山と渓谷社)などがあり、アウトドア系雑誌やWEBでの連載も多い。

「キャンプを記録する楽しさ」

雑誌を中心に活動する山岳/アウトドア系ライターといっても、仕事の内容はさまざまだ。僕の場合、自分自身がモデルを兼ねて山に行き、山旅の様子を原稿化する「山行ルポ」が中心となっている。そのために通常は別途カメラマンが同行しており、雑誌に掲載される写真はプロの目とセンスが発揮された美しいものである。
だが自分のカメラでも、必ず山中で撮影を行っている。特にテント泊好きの僕は、どうしてもキャンプ地の記憶を残しておきたい。
とはいえプロの写真が「作品」であれば、僕の写真はメモ代わりの「記録」だ。とにかくドンドン撮っていく。しかし、そんな写真を後になって雑誌上で使うことも多く、プロでなくてもそれなりにクオリティの高いものが撮れるようにと心掛けていたりもするのだ。

僕が「G3 X」を初めて手にしたのは、2015年の6月。すばらしいズーム機能がある新製品があると聞きつけ、テストを兼ねて使ってみたのである。それ以降、山の記録を残すための相棒として何度も試し、秋山の取材時にも持参した。

後ほど紹介する鹿児島県の開聞岳近くに滞在したときの1泊目。肉眼では空はほとんど真っ黒だったが、G3 Xを通せば空に雲が浮かんでいる様子も感じられる。良い夜だ。
【1/8sec F2.8 ISO400 露出補正+1.7 焦点距離24mm】

「初冬の雰囲気に包まれる東北の山々」

'15年10月後半、僕は何日もかけて東北の山々を歩いていた。蔵王、月山、鳥海山、岩木山、八甲田山……。今年は全国的に紅葉の訪れが早く、どの山もすでに初冬の雰囲気である。10年ぶりに訪れた八幡平も同様だったが、秋らしい澄んだ空気が気持ちよい。
八幡平は、百名山のひとつである岩手山と至近距離にある。しかし今回は岩手山に立ち寄る時間は残されていなかった。その無念さを晴らすべく、僕は八幡平の見返峠でG3 Xを構えた。至近距離といっても実際には約15km離れ、いくら空気が澄んでいても山頂の様子を肉眼で把握するのは難しい。だが、このカメラのズーム機能ならば期待に応えてくれるだろう。

八幡平への登山口となる見返峠付近から眺めた岩手山。晩秋とあって紅葉は終わっていたが、青い空の中にそびえる姿は美しい。
【1/1250sec F4.5 ISO125 露出補正0 焦点距離24mm】

同じ場所から岩手山をズームで狙うと、山頂付近の山肌に雪が付き始めているのがわかる。見返峠からは、なんと約15kmも離れた場所だ。
【1/640sec F5.6 ISO125 露出補正0 焦点距離約286mm】

なるほど撮影してみると、積雪というほどでもないが、いくらか雪が山肌に付き始めているのがわかる。その山に行かなくても、現在の状況がある程度は確認できるのはすばらしい。
僕は普段の山取材の際、自分の目では確認しきれない遠くに「何か」があるときにカメラマンの機材で撮影してもらい、ディスプレイ上でズームアップしてもらうことがある。その結果、「何か」が動物であったり、山小屋であったりと、疑問が判明するのだが、このG3 Xを自分で持っていればそんな手間が省ける。なにしろあれだけ離れた山頂の様子がクリアに記録できるのである。G3 Xはまるで望遠鏡のように使う楽しさも持ちあわせているのではないだろうか。

見返峠から登山道を進んでいくと、八幡沼に到着した。秋らしい斜めから差してくる光が水面に反射し、キラキラと輝いている。わずかながら風があり、その強さによって光の強さと大きさが変わり、いつまでも見ていられる。思い立って、光が反射している部分だけをズームしてみる。するとどうだろう。一つひとつの光がドットのように表現され、まるで現代アートではないか。これはAUTOモードで撮影しただけだが、もう少し露出を調整してコントラストを明確にすれば、より面白いものになったかもしれない。

初冬を迎えようとしている八幡平は、そこかしこが氷結し始めていた。しかしまだ氷は薄く、たんなる白い塊とは化していない。その下に流れる水や気泡との対比がきれいだ。この氷は近づき過ぎると自分の影で光がさえぎられる難しい場所にあったが、少し離れた場所からズームすることで、その問題は解消された。

八幡平には大小の沼や池が点在している。こちらはその代表格の八幡沼。午後の光を浴び、澄んだ水が光り輝いていた。静かな時間が流れる。
【1/1250sec F8 ISO250 露出補正0 焦点距離24mm】

光が反射している部分をズームレンズで覗いてみる。それだけで、どこか芸術的な趣きのある写真が僕にも撮れるのだから面白い。
【1/2000sec F11 ISO125 露出補正0 焦点距離約108mm】

沼から流れ出す小さな沢には、昼でも凍結したままの場所も。薄い氷の下に無数の気泡が模様となって現れていた。これから氷は厚みを増すのだろう。
【1/800sec F4.5 ISO250 露出補正0 焦点距離約68mm】

「霧島連山最高峰へ」

冬の訪れを感じさせる八幡平は美しかった。だが僕は東北生まれながら、じつは暖かい場所のほうが好きなのである。そこで、東北の旅から自宅へ戻ると、今度は南国を目指して出発した。目的地は鹿児島県。だが初日はあいにくの空模様で、霧島連山最高峰の韓国岳に登ったのはよいが、山頂からの風景はまったく楽しめない。少々気を落としながら、大浪池へと向かっていく。
山肌を覆う霧は風によって濃淡を変えていた。これならばチャンスがあるだろうと、展望地で待つこと15分。突如、重苦しい霧が流れ去って行った。

霧島連山・韓国岳の大浪池。長い時間待っていると、悪天候でそれまではまったく見えていなかった池面が、やっと姿を現した。それだけで満足。
【1/1000sec F2.8 ISO500 露出補正0 焦点距離24mm】

大浪池の外輪山でもっとも低い部分を拡大。直線距離で約25㎞も離れていてさすがに霞んでいるが、錦江湾に浮かぶ辺田小島が確認できた。ここまではっきり見えるとは!
【1/500sec F5.6 ISO125 露出補正0 焦点距離約497mm】

手持ちのために強風の中で少々ブレたが、やっと大浪池の撮影に成功。そして外輪山の奥を肉眼で確認すると、なにやら「突起」のようなものが見える。そこで岩の上にG3 Xを固定し、思いっきりズームする。どうやら錦江湾に浮かぶ辺田小島のようだ。引いていたときは真っ白に飛んで写真には収まらなかった辺田小島付近の海だが、ズームするだけで露出が調整され、島の輪郭が明確になる。G3 Xの「目」は大したものだ。

大浪池の周囲には、秋を感じさせる植物も多い。紅葉はもちろんだが、このあたりには秋に花を咲かせるキリシマアザミも自生している。
そこで紅葉はズームで、アザミはマクロモードで撮影してみた。曇天で明るい光が当たってはいないが、その代わりにどちらも柔らかな雰囲気になり、個人的にはこの色合いがとても気に入っている。

大浪池を撮影したのと同じ場所で、今度は手前の紅葉に目を向ける。背景が曇り空のため、むしろ赤みが際立ち、美しさが増した。悪天ならではの光のおかげだ。
【1/80sec F5.6 ISO800 露出補正0 焦点距離600mm】

これまでに多くのアザミを山中で見てきたが、このような花の状態は初めて。内側の紫の部分にピントを合わせ、花の立体感を強調してみた。
【1/60sec F4 ISO125 露出補正0 焦点距離約54mm】

「薩摩富士から眺める大海原」

薩摩半島最南端に位置する開聞岳。その展望地である長崎鼻まで足を延ばせば、海を挟んだ凛々しい山容を眺められる。別名は「薩摩富士」である。
【1/1250sec F5.6 ISO160 露出補正0 焦点距離24mm】

登山道からは南国を感じさせる苔むした森が続く。いくぶん暗めに撮影することで、そのジャングルのような奥深さの印象がより強まった。
【1/3sec F6.3 ISO125 露出補正-2.3 焦点距離約43mm】

鹿児島県内を南下し、次に開聞岳へと向かう。全国に「ご当地富士」は多いが、本家の富士山ほど秀麗な裾野を持つ山は、この「薩摩富士」くらいだ。特に長崎鼻から海を隔てて見た開聞岳は最高である。
登山道から山中に一歩踏み出せば、深い森が広がっている。生い茂った葉は日光をさえぎり、ちょっとしたジャングルのような趣だ。ただし適当に撮影していると、光の濃淡が激しく、あまり美しい写真にはならない。あえて少し暗めに調整したほうが、実際の雰囲気が映し出され、現地の状況を的確に切り取った写真になった。
登山道を8合目ほどまで登ると、西側の海岸が見えてくる。開聞岳は標高924mと「日本百名山」のなかで2番目に低く、8合目付近でも800m前後だろう。だがこれだけ海から一気に屹立している山は珍しく、真下に見える大海原は大迫力だ。
弧を描くように延びる入野の海岸と、格子状に展開する畑の様子がおもしろい。そして打ち寄せる白波。ここから波打ち際にズームしていくと、いまにも波の音が聞こえてきそうなほどの臨場感があり、開聞岳が持つ魅力がはっきりと映し出される。

螺旋状に造られた登山道を上がっていけば、西側の海岸も眼下に眺められる。山から見下ろす海は、僕が好きな風景のひとつだ。
【1/1250sec F4 ISO125 露出補正0 焦点距離約35mm】

いくぶんズームするだけで、黒潮が押し寄せる入野の海岸に白波が幾重にも連なっているのがよくわかる。構図を縦にして半月のように切り取ると、迫力が出た。
【1/1000sec F5 ISO125 露出補正0 焦点距離約146mm】

「G3 Xまかせで夜のテントを表現」

山頂から戻ると、次のキャンプ地にテントを張る。ここは開聞岳のまさに山麓にあり、この日は僕の貸し切り状態だった。
マカロニを茹で、腹を満たす。夜になるとさすがに冷え込み、鍋から立ちあがる湯気の量はかなりのものだ。こうなるとカメラを近付けるとレンズが一瞬で曇ってしまうのが問題である。だがG3 Xならば問題はない。湯気の影響がない離れた場所から、ズームで狙えばよいからだ。
この夜の記憶をより深いものにしようと、就寝前にはテントの撮影も行った。そのままでは暗いだけなので、テントの中に小型LEDランタンを2つ、天井に向けて置く。そして露出を変えるなど、さまざまな微調整を加えていく。
だが、結局いちばん雰囲気よく撮れたのは、ダイヤルを回すだけで設定できる「星空」モード。それほど光量が高いランタンではないのにG3 Xは充分にその光を捉え、しかも背後に写りこむ開聞岳の輪郭も明確だ。あれこれ工夫してみるよりも、G3 Xの頭脳に託したほうが結果はよいのである。

食事は自炊。マカロニとともにアスパラとソーセージを茹で、この後にパスタのソースをからませた。沸騰して泡立つお湯を見ていると飽きないものだ。
【1/60sec F5 ISO125 露出補正0 焦点距離約89mm】

前日とは異なるテントを張って、2泊目の夜を迎える。わずかな月明かりだけで背後の開聞岳の輪郭までも明確に撮影でき、この日の夜の記憶が強くなった。
【1/6sec F2.8 ISO400 露出補正-1.7 焦点距離24mm】

時間をかけて歩いた東北と九州の山々の「記録」、そして「記憶」。人間の力だけでは鮮明に残らない細部までもクリアに映し出し、データに残してくれるカメラがなければ、山の思い出は時間とともに薄れていくことだろう。やはり山にはよいカメラが必要だ。

※焦点距離は35mmフィルム換算の数値です。

No.12 No.14