全天候型フリーライター ホーボー ジュン×白馬/長野 白馬スノーハイク

全天候型フリーライター ホーボー ジュン

全天候型フリーライター ホーボー ジュン

ペンネームの“HOBO”とは“放浪者”の意。24歳の時に400日間をかけてユーラシア大陸を横断したのを皮切りに、パリ~ダカールラリーへの出場やマウンテンバイクによる南米大陸縦断、シーカヤックでの外洋航海、アンデス山脈6000m峰の高所登山など、フィールドとスタイルを問わない自由な旅を続けている。数多くのアウトドア誌に連載を持ち、著書に『実戦主義道具学』(ワールドフォトプレス)、『四国お遍路バックパッキング』(小学館)、『山岳装備大全』(山と渓谷社)などがある。

「空き地が僕の定宿」

朝5時半。寝袋から這い出て、アウトドア調理器具でお湯を沸かす。昨夜は氷点下まで冷え込んだようで、車の窓ガラスが真っ白に凍り付いていた。昨夜ここ白馬についたのは、真夜中を回ったころだ。湘南の海岸にある自宅から約300km。太平洋に沈む夕焼けを見送ってから車を飛ばしてやってきた。
毎年冬になると、僕はワンボックスカーにキャンプ道具と犬とスノーボードを積み込んで、長いスノートリップに出かけている。行き先は雪次第。低気圧と等圧線の具合をにらみつつ、北はニセコや大雪山系から西は白馬や立山に至るまでどこまでも行く。長い年には50泊近く旅を続けていて、昨シーズンはここ白馬に20日ぐらい滞在していた。
旅費を節約するために宿泊はテントか車中泊。今も僕の“定宿”は登山口の空き地や道の駅だ。実は真冬の車中泊というのはテントや雪洞よりはるかに寒い。回りを鉄板とガラスで覆われている上に床下をビュービューと風が吹き抜けるから“天然の冷蔵庫”になってしまうのだ。北海道ではときにマイナス20度を下回る。そんなときは車内に置いた「ソレル」のウィンターブーツが凍り付いて溶かすのに苦労するので、僕は寝袋に潜り込むときにブーツのインナーを抱いて眠る。

「神々の峰に火が灯る」

夜明けの後立山連峰を一望する。見えているピークは右から白馬岳、杓子岳、白馬鑓ヶ岳、天狗の頭、八方尾根(手前の黒い山)、不帰ノ剣(その奥)、唐松岳、五竜岳。
【1/60sec F7.1 ISO160 露出補正-0.7 焦点距離24mm】

五竜岳の山頂を望遠で600mmで切り取る。真っ赤に燃えた斜面に武田菱の雪形がくっきりと浮かび上がる。あまりの荘厳さに言葉を失う。
【1/320sec F7.1 ISO160 露出補正-0.7 焦点距離600mm】

夜明け前に松川の河原へ行った。ここは後立山連峰が一望できる絶好の撮影スポットだ。先週の雪で峰々はすっかり白くなり、厳しい冬の姿になった。右手には白馬岳、杓子岳(しゃくしだけ)、白馬鑓ヶ岳(しろうまやりがたけ)の“白馬三山”がくっきりと浮かび上がり、正面には八方尾根とノコギリの刃のような不帰ノ剣(かえらずのけん)が吠えるように天を向く。さらに視線を南に向けると唐松岳、五竜岳、そして遠く鹿島槍ヶ岳までが見えた。凍てついた空には雲ひとつ無く、その絶景にゾクゾクする。
やがて東の空からゆっくりと太陽が顔を出し、白一色だった山頂がうっすらとしたピンク色を帯びてきた。夜明けだ。白馬に朝がやってきた。夕べ湘南の海で見送った太陽が地球を回って帰ってきたのだ。

午前6時40分。白馬三山の頂きにポッとマッチで火を灯したようなマゼンタ色が広がった。まるで雪が発火したみたいだ。電子ビューファインダー越しにその“火”を見ながら、僕はゴクリと唾を飲み込んだ。そのまま深くシャッターボタンを押しこむ。カシャ、カシャ、と小気味よいシャッター音が河原に響く。

アンデスで、パタゴニアで、ヒマラヤで、僕は夜明けのこの一瞬を撮ってきたが、その度に僕はミサに列席しているような神聖な気持ちになる。そこに人智を越えた大きな力を実感するからだ。それはまるで神(という言葉が適切なのかどうかわからないけれど)が、この地球とそこに生きるもの、そして愚かな僕ら人間を照らすために、白く尖ったロウソクに火を灯してくれるように感じるのである。

大パノラマの右手から始まった光のパレードは、左手奥の高峰に飛び火した。まずは標高2814mの五竜岳山頂に火が灯る。火はぐんぐんとその勢いを増し、雪渓を美しく染め上げる。僕はレンズを思い切りズームして、刻々と移り変わる時間を切り取っていく。

それにしてもG3 Xの600mmの破壊力はスゴイ。オレンジに染まった五竜岳にズームインした僕は、かつもくしたまま動けなくなってしまった。燃え上がる山頂に大きな真っ黒い岩稜帯が浮かび上がって見えたからだ。これが有名な「武田菱」である。五竜岳の東斜面にはあまりに急峻すぎて雪が付着しない崖がある。その形が武田家の家紋である武田菱にそっくりなことからそう呼ばれるようになった。この山域にたくさんある“雪形”のひとつだ。
ちなみに白馬岳には信州で最も有名な雪形がある。それが「代馬(しろうま)」と呼ばれる雪形。毎年4月から5月の雪解けの頃に白馬岳の中腹に現れる馬の雪形だ。この馬が現れると田んぼの代を掻いて田植えをはじめることから、これを代掻き馬とか代馬と呼び、山を代馬岳(しろうまだけ)と呼ぶようになったのだ。
それが後年、白馬(しろうま)の字があてられ、現在の白馬(はくば)という地名になったのである。

午前6時48分。ついにクライマックスがやってきた。広大な後立山連峰が真っ赤に染め上がり、すべての峰が赤い帯でつながった。なんというパノラマ。なんという美しさ。しばらくの間、僕は写真を撮るのも忘れ、ただただ河原に立ち尽くしていた。やがて燃えるような暁はどこかへ消え去り、峰々は静かな白銀に戻ってしまった。ほんの数分間のマジックアワーだった。

「マクロで冬の朝を捉える」

栂池(つがいけ)高原のゴンドラが動くまで、僕はカメラを片手に森の中を散策してみた。太陽の光はまだ差し込まず、小さな草や苔たちが真っ白に凍り付いたまま眠っている。身を低くしたり、しゃがみ込んだりしながら小さな光景を拾う。こうして被写体に接近して撮影できるのもG3 Xの大きな魅力だ。ワイド端で5cm、テレ端で85cmのマクロ撮影が可能なので、凍てついた葉っぱや凍り付いたキノコなど、冬の朝らしい景色をいろいろと拾うことができた。

白い霜がびっしりと葉を覆っていた。冬の朝らしい光景だ。太陽の光がこの地面まで届くのはまだもう少し先だ。
【1/80sec F5 ISO320 露出補正0 焦点距離約49mm】

寒い朝だった。葉っぱの下で小さなキノコが凍り付いていた。望遠側いっぱいのマクロで足元の小さな風景を拾って歩いた。
【1/320sec F5.6 ISO1000 露出補正0 焦点距離600mm】

ズームレンズを420mm近辺の望遠側にして撮影してみた。G3 Xはテレ端でも85cmまで寄れるので、アイポイントからでもこんな光景が簡単に撮れる。
【1/250sec F5.6 ISO1000 露出補正0 焦点距離約424mm】

水たまりには薄氷が張っていた。パリン、パリン、パリンと割りながら歩く。まるで小学生に戻ったような気分だった。
【1/160sec F5 ISO125 露出補正-1 焦点距離約68mm】

すがすがしい朝の光の中で木々が笑っているようだった。わざとフレアやゴーストを発生させ、幻想的なシーンを作り出してみた。
【1/250sec F8 ISO125 露出補正+1 焦点距離約132mm】

谷間にある里にも太陽の光が届き始めた。冬は低い位置から陽が差すから半逆光気味で撮ると雰囲気が出る。
【1/80sec F8 ISO200 露出補正0 焦点距離約51mm】

「ひとりきりのスノーハイク」

午前8時半。栂池高原のゴンドラが動き出した。山麓駅で登山届けを出し、栂の森登山口までゴンドラで上がった。栂池から白馬大池方面はバックカントリースキーのメッカだが、まだスキーヤーの姿も少なく、僕のように単独で雪山登山に入るハイカーもいない。どうやら今日は僕の貸し切りのようだ。足跡ひとつないまっ白な林道を僕は嬉々として歩き始めた。
だが歩き始めてすぐに僕は自分の判断ミスに気付いた。予想以上に雪が多く積雪は50cmを超えていた。スノーシューを使わず、つぼ足で歩くと、膝下まで埋まってしまう。今日はアイゼン(靴用の爪)ではなく、スノーシューを携行するべきだったのだ……。それでも栂池ヒュッテまではしっかりした林道が続いているので滑落や道迷いの心配はいらない。そもそも天狗原から鵯(ひよどり)峰にかけての一体は毎冬のように入山しているから勝手も知っている。ひとりでラッセル(雪をかき分け進むこと)するのは大変だけど、このままハイクを続けることにした。

はるか上空を飛行機が横切っていった。真っ青な空に描かれる飛行機雲が美しい。それにしてもなんという快晴!
【1/1250sec F4 ISO125 露出補正-0.3 焦点距離約46mm】

山には誰の姿もなかった。キツネの足跡が僕の前を横切って、静かな森に消えていた。まばゆいばかりの雪の中で、僕は足跡とスノーフレークを捉えた。
【1/2000sec F8 ISO125 露出補正+0.3 焦点距離約216mm】

誰もいない雪原をひとりでラッセルしながら進む。新雪の上に落ちた木々の影が、とても印象的だった。
【1/1250sec F5.6 ISO125 露出補正+0.7 焦点距離約238mm】

樹から垂れた滴が凍った葉に落ちてそのまま凍っていた。マクロの世界にはドラマがある。
【1/160sec F6.3 ISO250 露出補正-0.7 焦点距離約135mm】

それにしてもいい天気だ。空は真っ青に晴れわたり、雲ひとつない。ときどき上空を飛行機が横切ると青いキャンバスに真っ白なラインが描かれた。これがとても美しい。あるときその飛行機雲を600mmで撮ってみた。モニターを見てみると肉眼では見えない飛行機の姿もちゃんと映っている。そのまま画面を拡大してみてビックリ。両翼が反り上がった独特のシルエットで、それが新型のジェット旅客機だと(素人の僕にすら)はっきりとわかってしまったのだ。見えない姿も見せてくれる。G3 X恐るべしである。

結局この日は誰にも会わず、誰の足跡も見ず、僕は貸し切りのスノーハイクを楽しんだ。6時間ものラッセルを強いられたことや、スノーボードを持たなかったからいつもは歓喜の声を上げながら滑り降りる斜面を2時間もかけてとぼとぼ戻る……というなんとも切ない思いをしたが、それでも白馬三山を真横に眺めながらのロングハイクは、極上の体験だった。

山小屋はもう閉鎖されている。今回は単独の雪山登山なのでツエルト、防寒具、12本爪アイゼン、ガスストーブ、食糧、ヘッドライト、GPSなど装備はしっかり用意してきた。
【1/160sec F7.1 ISO125 露出補正+0.7 焦点距離24mm】

日没前に無事下山した。栂池高原のゴンドラリフトから眺めると、厚く垂れ込んだ雲の向こう側に静かな夕焼けが広がっていた。
【1/160sec F7.1 ISO125 露出補正0 焦点距離24mm】

ラッセルに疲れて小休止。見渡すとまるで波のようにどこまでもどこまでも山のウネリが続いていた。
【1/2000sec F7.1 ISO125 露出補正-0.7 焦点距離約154mm】

「雪山から太平洋へ」

日暮れ前に下山した僕は地元の温泉で冷えた身体を温め、一路、海へと戻った。家に帰ると月夜の海が僕を迎えてくれた。お帰りなさいと海がいい、僕は砂浜に座って缶ビールを飲んだ。
こんな風にわずか一昼夜の間に雪山も海も愉しめるのが日本列島の醍醐味だ。山があり、海があり、雪があり、緑がある。巡り続ける季節の中で、さまざまな自然を愉しめる。ファインダーを覗く度に違う世界が広がり、そこには新しい発見がある。アウトドアの旅をする度思う。僕らはすごい国に住んでいるのだ。

海へと帰ってきた。夕焼けに染まる富士山。江ノ島の灯台にはクリスマスイルミネーションが飾られていた。この情景を手持ちで撮影するため、ISO感度を大幅に上げてみた。想像以上の描写力に驚いた。
【1/40sec F7.1 ISO6400 露出補正0 焦点距離約122mm】

※焦点距離は35mmフィルム換算の数値です。

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