山の撮影ガイド編

講師:杉村 航

講師:杉村 航

マウンテンブラウジングNo.4「悪天候に耐える山道具と共に」に登場いただいた山岳写真家。1974年兵庫県生まれ、長野県在住。夏はバリエーションルートや沢登り、冬はスキーでの山岳滑走。シーンの撮影を得意とする。景色だけではなく、人物と絡めての動感あふれる瞬間を追いかける。山岳雑誌やアウトドアブランドのカタログ等に作品を発表している。

掲載の焦点距離は、35mmフィルム換算時の数値です。

POINT 01 風景

まず撮りたい山岳風景を見極める

1/400sec F11 ISO125 露出補正0 焦点距離24mm

すばらしい景色に出会うと、この景色をうまく写真に収めたいという気持ちが先行して、焦ってシャッターを押してしまいがち。そこをひとつ落ち着かせ、まわりを見渡し、どの位置からどこをどう切り取るといいのかを考えてみよう。初夏の千畳敷カールから、中央アルプスの宝剣岳方向を望んだもの。雪の残る山並み、青空、緑の草原、それだけでもいいのだが、レンズを広角側にして低めのアングルで構え、手前に「シナノキンバイ」の黄色い花を入れてアクセントにした。アングルを下げたもうひとつの理由は、草原の間を歩く人の姿を草で隠したかったため。雲のつくる影が山肌や草原の緑に濃淡をつけ、それが画面に変化をつくり出しているのもポイントだ。

ズーム機能で新しい視点をつかむ

1/125sec F11 ISO125 露出補正0 焦点距離約453mm

上の絶景写真を撮るために雲の流れや明るさといった天気待ちをしている間に、ズームして宝剣岳の頂上付近を切り取ってみると、人が歩いているのが見えるほどにクローズアップすることができた。G3 Xはレンズ交換なく気軽にズームできるから撮れた一枚だ。肉眼では見えにくいほど離れた場所でも、レンズを望遠側にするだけで新しい発見に出会え、山岳を斬新に切り取れる。

朝日・夕日の一瞬のシーンの捉え方


1/8sec F8 ISO125 露出補正0 焦点距離約78mm

1/4sec F8 ISO125 露出補正0 焦点距離約113mm

泊まりがけで山に行く際にチャンスがあれば押さえたいのが、日没と日の出前後の時間帯。日を浴びた山肌を撮りたいのか、太陽そのものと山のシルエットを撮りたいのかによって、カメラを向ける位置が違ってくる。太陽そのものを撮りたいなら太陽向き、山肌を撮りたいなら太陽とは異なる向きに構えることになる。この写真は、太陽を背にして、夕日で赤く染まる山々や雲を狙って撮影したものだ。

右の写真は左の写真のわずか5分前に撮影したカットだが、空の色やガスのかかり方がかなり変化しているのがわかる。朝焼けや夕焼けを捉えられるのは、わずか30分程度。フォトジェニックな瞬間を捉えられるよう、状況を見ながらベストな切り取り方を探そう。

空や雲の表情を生かして撮影する

1/640sec F8 ISO320 露出補正0 焦点距離約116mm

この日は夜中から明け方にかけて雨が降っていたので朝焼けは望めないかと思ったが、5時すぎごろ雨が上がった。日の出の時刻はとうに過ぎていたが、空気が湿っているためか、光がまだ赤みを帯びている。雲の形の面白さと、光の当たり方、鋸岳の稜線の変化を切り取った一枚。朝日そのものだけでなく、まわりの景色を見回して雲や風の流れる方向を先読みし、コントラストのある印象的なシーンを見つけることが大切だ。

人物を入れて山のスケール感を伝える

1/1250sec F7.1 ISO200 露出補正0 焦点距離約127mm

山の風景の写真を撮るときには、ただ景色だけを撮るよりも、登山者の姿を入れたほうが、山のスケール感が伝わりやすい。この写真では、小仙丈ヶ岳の山頂で富士山や甲斐駒ケ岳の写真を撮っている登山者を入れ込んでみた。望遠気味でそっと撮影しているため、こちらに気付かれず自然な姿を捉えることができている。

山頂標識は周囲の山々と一緒に撮る

登頂の達成感から山頂標識を撮る人は多い。そんなときにもひと工夫することによって、よりその場の状況が伝わる写真にすることができる。この写真では、山頂から少しだけ離れて、山頂の岩場の部分と、右奥に甲斐駒ケ岳、左奥に赤岳を入れている。甲斐駒ケ岳の存在感が、よいアクセントとなってくれた。

1/640sec F6.3 ISO200 露出補正0 焦点距離約76mm

POINT 02 花・植物

周辺の自然も画面に入れ込む

1/125sec F7.1 ISO400 露出補正0 焦点距離24mm

山の中で出会う美しい花々。つい花だけをクローズアップしてしまいがちだが、広角マクロにも強いG3 Xならまわりの景色も一緒に入れ込んで、花が咲いている自然環境もわかる写真の方がダイナミックに見えやすい。この写真では花の背後に山の頂が入るようにアングルを調整することで、花がより引き立つようになった。周辺を入れるようにしたうえで、頂の位置や空が占める面積などを検討し、単なる花の写真から、美しい山の花の写真へと昇華させたい。

この写真を撮ったときは細かな雨が降っていたため、光の量など撮影には厳しい状況だったが、花弁や葉に着いた大玉の水滴によってしっとりみずみずしい写真に仕上がった。

地表に近い被写体は、目線の高さを等しくする

1/200sec F5.6 ISO400 露出補正0 焦点距離約57mm

花や植物のなかには、苔類やキノコ類などかなり背の低いものがある。これらは真横に近い角度から覗くと普段と異なる表情を見せるものが多い。写真は「ヤグラゴケ」の仲間。この苔類の独特な形に惹かれたら、まずはどの角度から見るとその面白さがよく伝わるかを見究めよう。低めから撮るならば、撮影者の姿勢に負担をかけないチルト液晶モニターが活躍する。チルトさせた液晶モニターの映像を見ながらどんな角度がいいかを考え、画角を決めてからカメラを固定し撮影すればよい。この写真は小さな苔たちが林立する様子と背景にぼかした木々を対比する形で絵づくりすることを決めたのち、立膝した膝の上にG3 Xをのせて両手で固定し撮影した。

背の低い高山植物を平面的に撮る

1/320sec F9 ISO400 露出補正0 焦点距離約40mm

高山植物のような背が低く群生する植物は、目線の高さを合わせて真横から撮るのも一案だが、真上から俯瞰して平面的に見せるのもおすすめ。この写真のように、いろいろな形の葉や花が混ざっていると、絵ハガキのようなデザインとしての面白さまで見出せる。

余談ながら、過酷な環境で育っている高山植物は、1年で1mmほどしか育たないものもある。3cmほどの小さな植物も実は樹齢30年だったりすることもある。

POINT 03 動物

撮影しやすいライチョウで、さまざまな画角に挑戦

1/800sec F6.3 ISO500 露出補正0 焦点距離約521mm

山の生き物はすぐに逃げてしまうことが多いけれど、比較的人慣れしているライチョウなどは、ズームを使って大胆にアップで切り取るのもいい。赤い目元が印象的な写真の個体はオス。たいてい、オスが外敵の目を引き、その隙にメスを安全なところへ逃がす、という行動をとる。

人馴れしているとはいえ、ザックから慎重にゆっくりカメラを出して、刺激を与えないように、さりげなく風景でも撮っているようなふりをしながらレンズを向けた。ズームを使い、さまざまな画角に挑戦しやすい被写体である。

鹿などの臆病な動物は600mmレンズで捉える

1/800sec F5.6 ISO250 露出補正0 焦点距離600mm

山の動物を撮れるタイミングは、たいてい一瞬だ。素早くカメラを取り出して、シャッターを切る必要があるため、瞬発力が重要になる。少しでも近づいて撮れればベストだが、その間に逃げられてしまう可能性が高いため、まずはその場でズームして撮影し、それから少しずつ近づくといいだろう。この立派な鹿を撮影したときにも、姿を発見したものの、ザックからカメラを取り出している間に逃げられること二度。三度目の正直で、かろうじて捉えることができた。

背景が空の動物写真には露出調整が便利

1/400sec F6.3 ISO160 露出補正0 焦点距離600mm

鳥を空抜けで逆光気味に撮る場合は、鳥の羽根のディテールが黒くつぶれないよう、露出を調整しよう。つぶれてシルエットになってしまう場合は、絞りや露出補正ダイヤルで調整できる。マニュアルモードなら電子ダイヤルで絞りを開けて明るくし、オートで撮影しているなら露出補正ダイヤルで露出をプラスに補正するといい。今回の撮影ではマニュアルモードを使い、絞りを6.3に設定して、露出補正の不要な状態で600mmの高倍率ズームで撮影できた。

この「イワヒバリ」はとても臆病で、しばらく追っていたものの一度しか撮れなかった。こういうとき、ワンアクションで超望遠600mmにまでできるのは非常に便利だ。

POINT 04 人物

自分撮りはセルフタイマーで複数撮る

1/400sec F6.3 ISO200 露出補正0 焦点距離約46mm

ここに人がいたら絵になるなと思ったとき、自分で自分の姿を写し込むのがいちばん手っ取り早く、いい絵が撮れやすくなる。三脚を立てて、だいたい自分がどの辺りに入るかの構図を決め、セルフタイマーで撮影する。このときは自分の頭が少し空にかかる位置を意識した。G3 Xはスマートフォンを使ったリモート撮影もできるが、山ではスマートフォンのバッテリー残量や充電の心配をしたくないので、セルフタイマーのほうがシンプルでいい。G3 Xの場合、セルフタイマー機能で何秒後に撮影をするのかと、連続して撮影する枚数を設定できる。この機能を使えば余裕を持って動けるので便利だ。

人の動きで山の臨場感を伝える

1/2000sec F7.1 ISO400 露出補正0 焦点距離24mm

山で人物を写し込みたい場面には、自然のスケール感を伝えたいときのほかに、高度感を出したいときや、臨場感を伝えたいときなどがある。山岳での人の体の使い方からトレイルの険しさなどを伝え、山の写真に動きを出すこともできる。

この写真を撮影したときは他に人がいなかったため、三脚を立ててセルフタイマーで自分撮りした。岩にしがみつく手の感じから、沢の険しさが伝わる。

POINT 05 夜

マニュアルモードのバルブ撮影

20sec F2.8 ISO1600 露出補正0 焦点距離24mm

大前提として、星空をきれいに撮るならシャッター速度を遅くする必要があるため、山でも三脚は必須。また、シャッターボタンを押す振動でブレるのを防ぐために、リモートスイッチもあるといいが、なければセルフタイマーを利用して撮ることもできる。G3 Xには簡単に夜空を撮影できる“星空モード”もあるが、今回はマニュアルモードでのバルブ撮影を楽しんでみた。バルブ撮影とは、シャッターボタンを押している間中シャッターが開き続ける機能で、好みに合わせてシャッター速度を細かく調整できるのが利点だ。 シャッターを開き続ける時間が中途半端に長いと、星がブレたように写ってしまうので気をつけて。

山の中ならきれいな星空を撮れるはずと期待してきても、雲がかかってしまったり、街の明かりが入ってしまったり。そんなときは、雲や街明かりも構図のアクセントとして利用してしまうのも手。純粋な星空撮影とはまた異なる、味のある写真になる。

Column 平凡にならない構図やシーン

稜線を手前に加え、臨場感をつくる

1/320sec F8 ISO125 露出補正0 焦点距離約116mm

600mm撮影 1/1000sec F8 ISO320 露出補正0 焦点距離600mm

24mm撮影 1/800sec F5.6 ISO125 露出補正0 焦点距離24mm

撮りたいと思う景色に出会ったとき、レンズを広角側にして広い範囲を切り取ることもできるし、逆に望遠側にして狭い範囲を切り取ることもできる。特に24-600mm相当という幅広い焦点距離で撮影できるG3 Xの場合、選択の幅が広いだけに迷うかもしれない。そんなときは、その景色のどこに惹かれたのか、それを最もよく見せるにはどう切り取ればいいのかを考えるといい。
上の写真は奥の雄大な北岳を主役にしつつ、それだけでは光がべたっとして平面的に見えるため、手前に緑の山の斜面を入れて、画面に立体感を出した。
左のようにG3 Xの望遠600mmで北岳を単独で撮影すると、山肌のゴツゴツした感じを表現することができる。ただ、夏の空気が薄く霞んでいるのもあって、立体感がなく平面的に見える。右のように広角24mmで撮影すると、今いる地点から見た景色の広がりを表現できる。ただ、この場合、何に惹かれて撮影したのかはわかりづらくなりがちだ。いろいろな焦点距離を試しながら、焦点距離選択の勘どころを習得すれば、自分らしい写真を撮影することは難しくないだろう。

構図の基本は引き算


1/200sec F7.1 ISO125 露出補正0 焦点距離約180mm

1/2000sec F7.1 ISO400 露出補正0 焦点距離24mm

昔からよく「構図は引き算」と言われる。見せたい部分をはっきりさせ、余分なものを排除してシンプルに切り取ると、主題が明確になって伝わりやすい、ということだ。この写真は、滝の流れの中でも、黒い岩肌を白い水しぶきがどっと流れている部分が画面全体にくるように、望遠気味で切り取った一枚。流れの一部分を大胆に切り取ることによって、水の動きの力強さと面白さを表現することができた。 一方、レンズを広角側にしてまわりの風景も含めた広めの景色を撮ると、水が流れ落ちてくる高度感の伝わる一枚になった。防塵・防滴性能のG3 Xだから撮れた写真でもある。

雲の重なりはグラフィックとして切り取る

1/2000sec F8 ISO125 露出補正0 焦点距離600mm

白から青へのグラデーションになっている雲の色と形を見せたくて、その部分をシンプルに撮影した一枚。日本画のように平面的に見えるのが逆に面白いので、グラフィックデザインのようなイメージで切り取った。手前に山のシルエットを入れて、黒い色で画面を引き締め、斜めのラインで変化を付けている。いちばん明るい雲が白飛びしないギリギリの露出に調整することも大切だ。

表現の幅を広げるぼかし方


1/640sec F6.3 ISO125 露出補正0 焦点距離約256mm

1/640sec F6.3 ISO125 露出補正0 焦点距離約54mm

ボケは主役に目線を集めたいとき、遠近感を出したいとき、写したくないものをぼかしたいときなど、いろいろな場面で使える。特に被写体の手前に何かをぼかして入れる「前ボケ」は、覚えておくと表現の幅がぐっと広がる。この写真は千畳敷カールに咲く花のひとつにピントを合わせ、前後をぼかして撮影したもの。花の手前に草が写り込んでいたが、それを避けるのではなくあえてぼかして入れることによって、奥行きを出している。前ボケにしろ後ろボケにしろ、ぼかして入れるものに明るい光が当たっているほど画面全体の印象は明るくなる。

ピントの前後を大きくぼかすには、被写体とぼかすものとの距離を離しておいて絞りを開放に近づけることがひとつの方法。もうひとつの方法は、望遠で撮影することだ。左の写真は焦点距離が約256mm相当と望遠気味であるのに対して、右の写真は約54mm相当。ボケの大きさや、その効果の違いが見て取れる。

スローシャッターで水流を美しく見せる


0.8sec F10 ISO125 露出補正0 焦点距離約124mm

1/20sec F10 ISO800 露出補正0 焦点距離約100mm

滝を美しく見せる方法のひとつとしてよく使われるのが、シャッター速度を遅くして水の流れを絹糸のように表現して清涼感を伝える方法。この撮影には三脚が必須だ。構図を決めて三脚を立て、シャッター速度をいろいろ変えてみて、いちばん美しく見えるところを探る。この写真ではシャッター速度約1秒で撮影。通常、日中にシャッター速度を大幅に遅くするのは難しいが、G3 XにはNDフィルター機能がついており、光量を1/8に減少(3段分)することができるため、たいへん重宝した。画角を縦位置にしたことで、落ち口からの水の流れ落ちる様子を見せ、画面全体で流れを表現した。

滝を横位置で撮影すると、安定感ある絵になるものだが、この写真のように早くも遅くもないシャッター速度で撮ると中途半端な写真になってしまう。「構図の基本は引き算」の項目で紹介した滝の写真のように、シャッター速度を早くして一瞬の水の動きを捉えても面白い。

power shot g3x