高山植物の基礎知識

基礎知識1 高山植物が生える環境を知ろう 基礎知識2 アルプス、八ヶ岳へ高山植物巡りの山旅に出よう!

高山植物が生える環境を知ろう

高山植物には多くの種がありますが、種によってそれぞれにふさわしい環境があり、適した場所を選んで根付いています。
つまり住み分けているのです。その環境を植物社会的=植生的に大まかにパターン化すると上記のようになります。
上記のパターン、および写真は典型的な例で、実際には地形の変化に応じて、細かいパッチ状に入り乱れていたりします。
例えば風衝草原の中に細かいパッチ状にハイマツ林が入っていたり、崩壊地に雪田草原の要素が入り交じっていたりします。

※この企画で紹介した高山植物の写真は、G3 X以外のカメラで撮影したものを含みます。

砂礫地

稜線付近の砂礫斜面です。大きな礫から小さな砂までありますが、冬期に大地が凍り、春になると再び溶ける凍結融解作用を受けるので、常に砂礫が移動しています。このような環境には、コマクサやクモマスミレなどのように丈夫で長い根を張り巡らせることができる高山植物しか生きられません。例えばコマクサは地上には数cmしか顔を出していませんが、地中には40cmもの深さで根を張っています。やや砂礫の移動が安定した場所になるとタカネツメクサやウルップソウが生えます。

砂礫地

岩壁

岩の割れ目にそって巧みに根を伸ばして垂直の環境に生きることができる種が生育します。ミヤマダイコンソウ、タカネビランジなどが、また湿り気のある場所ではミヤマダイモンジソウなどが生育します。

岩壁

風衝草原

稜線付近で主に西からの季節風が吹きつける西側斜面から稜線部分までに広がります。地面は礫の移動があまりない安定した斜面です。このような場所では丈の短い草本類を中心にした高山植物が生育し、背が低くて密度はまばらな群生となります。このような環境にはオヤマノエンドウ、ハクサンイチゲ、トウヤクリンドウ、チシマギキョウ、タカネシオガマなどが生えます。

風衝草原

岩角地

稜線付近の岩角地など岩尾根の部分には砂礫の移動があまりない安定した場所となります。岩ばかりで植物の生育に適さないように見えますが、岩陰や岩の隙間を利用して巧みに生きる種が多くあります。このような環境には、イワウメ、ミネズオウ、ツガザクラなど矮性低木の他、ミヤママンネングサ、シコタンソウなどの草本類が生育します。

岩角地

崩壊地

おもに多雪地の山域では、稜線の東側斜面には冬期に飛ばされた積雪が崩れるため、露岩が安定しない崩壊斜面となります。このような環境には、ミヤマクワガタ、ミヤマアズマギク、ヨツバシオガマ、ミヤマオダマキ、イワオウギなどが生育します。

崩壊地

雪田草原

夏のアルプス、とくに冬の積雪が多い北アルプスでは、白馬大池など残雪が遅くまで残る吹きだまりの平坦地や、三俣蓮華岳のように広大なカール地形に雪田が発達します。一般的に標高2,500m以上の高山帯でこのような地形の周りに発達する植生を雪田草原といいます。登ったことがある方なら、その付近ではチングルマが咲いていたのを覚えていませんか? チングルマは雪田草原の指標種で、チングルマが生えているとそこは雪が遅くまで残りやすい雪田草原の環境を示していることになります。雪田草原の特徴は生育期間が短いことです。融雪の時期が遅いため、実質的な生育期間は、成長がストップし紅葉するまでの7 月下旬~ 9 月下旬の2カ月前後という例が多く、2 週間だけというものもあります。

雪田草原

写真は融雪後に乾燥する雪田草原。アオノツガザクラやチングルマといった矮性低木の群落となります。

ハイマツ林

日本では森林限界を形成しているハイマツは、高山帯では条件的にいちばんいい場所を占有します。それは、稜線の風衝地などで冬期に雪が飛ばされて積雪がなくなり、枝が凍って枯れてしまったりせず、雪田など融雪時期が遅く生育期間が短すぎたりもしない場所。つまり適度に生育期間が長く、冬は積雪のコートで覆われる場所です。
そのような環境にはキバナシャクナゲやタカネバラ、タカネナナカマドが混生したり、また林縁にはガンコウランやコケモモ、時にリンネソウが生えます。

ハイマツ林
広葉草原(お花畑)

広葉草原(お花畑)

一般的にイメージする、また山行記録などに登場する高山の「お花畑」は、ほとんどこのタイプの環境です。広葉とは広い葉と書きますが、この環境に生える植物は高さが1m 程度と高くなり、シナノキンバイなど大きく広い葉を持つ植物が多いためです。地形的には稜線から続く谷筋で一定以上の斜度がある斜面となり、なぜ樹木が生えず、草本類からなる植生になるかというと、冬期に多雪により雪崩の通り道になるからです。このため一切の樹木は生えることができず、冬の地上部は枯れる草本類しか生きられません。冬に根で過ごし、初夏に雪解けを迎えたあと、茶色の草原から一斉に芽を出して急成長し、背の高い草本類を中心とした群落になります。南アルプスでいうと北岳の草滑り、北アルプスでいえば白馬岳の大雪渓上部の草地や大出原が、広葉草原となります。
特徴としては植物の種類が多いことが挙げられます。植物にとって「高山荒原」ほど厳しい環境ではないので、生きる植物の種類も増え、初夏にはクルマユリやミヤマキンポウゲなど花期が早めの花の黄色、オレンジ色系の花から、晩夏になるとトリカブト類、アザミ、セリ科の仲間など、花期が遅めの紫、赤、白など色とりどりの花で覆われます。
また土壌が適湿で、成長に必要な日照も充分に受けられるなど植物の生育にとって好条件なため、多種多様な植物が競い合って生えます。密度、つまり植被率が高いのも特徴となります。
その他、代表的な種はミヤマキンポウゲ、ミヤマシシウド、ハクサンフウロ、タカネグンナイフウロ、クルマユリ、ハクサンチドリ、など。晩夏になると、トリカブト類、アザミ、セリ科の仲間など花期が遅めの紫、赤、白など色とりどりの花で覆われます。時に茎が高い植物が多いことから高茎草原と呼ばれることもあります。

広葉草原(お花畑)

亜高山針葉樹林(シラビソ、オオシラビソ林)

シラビソ、オオシラビソ、コメツガ、トウヒなど針葉樹は冬期に雪崩の作用がない場所に生え、鬱蒼として暗い針葉樹林を形成します。このため雪崩の影響を受けにくい尾根などや、北より南アルプス、八ヶ岳のほうが多雪エリアではないため発達します。このような環境にはゴゼンタチバナ、マイヅルソウ、カニコウモリなどが生えます。またキバナノコマノツメなどは林縁に生えます。

亜高山針葉樹林(シラビソ、オオシラビソ林)

亜高山落葉広葉樹林(ダケカンバ、ミヤマハノキ林)

広葉草原に接して冬期に雪崩の作用が弱まる場所にはダケカンバやミヤマハンキ、ウラジロナナカマドが生育します。雪崩作用のため根元は斜面の方向に曲がり、斜面に匍匐したような樹形となります。このような環境では樹木がまばらな場合、広葉草原の植物種がまばらに生えます。もっと下部などで密度が高くなると林縁にキヌガサソウ、サンカヨウ、ミヤマカラマツなどが生えます。多雪のエリアである北アルプスの北部には広く、南アルプスや八ヶ岳では針葉樹林と広葉草原の間に発達します。

亜高山落葉広葉樹林(ダケカンバ、ミヤマハノキ林)

アルプス、八ヶ岳へ高山植物巡りの山旅に出よう!

1 赤岳〜横岳、2 立山、3 五色ヶ原、4 朝日岳、5 白馬岳、6 唐松岳、7 蓮華岳、8 燕岳、9 三俣蓮華岳、10 槍ヶ岳、11 穂高岳、12 乗鞍岳、13 鳳凰山、14 北岳、15 仙丈ヶ岳、16 荒川岳、17 塩見岳、18 木曽駒ヶ岳

まず多くの人が登り、登山道も比較的整備され、山小屋なども多く安心して登れる本州中部アルプスから、ということで南北中央アルプス・八ヶ岳から18のスポットを選んでいます。グレード的には中央アルプスは初級、北岳や穂高岳は中級以上です。

八ヶ岳

代表的な花
  • チョウノスケソウ

    チョウノスケソウ

  • ツクモグサ

    ツクモグサ

  • オヤマノエンドウ

    オヤマノエンドウ

  • キバナシャクナゲ

    キバナシャクナゲ

1、赤岳〜横岳
梅雨時がベストシーズンの花の名山。ツクモグサの6月上〜中旬から始まり、最盛期の6月下旬〜7月上旬にかけては、岩の稜線が色とりどりの高山植物が咲く天然のロックガーデン。チョウノスケソウやオヤマノエンドウの群生は一見の価値あり。

北アルプス

代表的な花
  • チングルマ

    チングルマ

  • アオノツガザクラ

    アオノツガザクラ

  • コマクサ

    コマクサ

  • ミヤマキンバイ

    ミヤマキンバイ

2、立山
アルペンルート経由でアプローチが可能。室堂周辺は気軽に高山植物観察が可能。
3、五色ヶ原
スケールの大きいチングルマやアオノツガザクラなど雪田草原が広がる。
4、朝日岳
種数、お花畑のスケールとも北アルプス最北の花の名峰。白馬岳から縦走したい。
5、白馬岳
北アルプスを代表する花の名峰。大雪渓、白馬鑓温泉、栂池、白馬清水岳とコースは複数選択可能で、それぞれのコースで見られる種類やお花畑の特徴も異なる。
6、唐松岳
入門向けの山で、高山植物観察では山頂周辺と八方池周辺も特殊な植生で価値あり。
7、蓮華岳
針ノ木雪渓から上がる蓮華岳はコマクサ群落が見事。針ノ木岳周辺もおもしろい。
8、燕岳
花崗岩の砂礫地で種類には乏しいが、砂礫地に咲くコマクサとクモマスミレが見事。
9、三俣蓮華岳
双六岳周辺にかけてのトラバース道沿いではスケールの大きな雪田草原が広がる。
10、槍ヶ岳
鋭峰の印象だが穂先には変わった植物が見られる。西鎌尾根は高山植物が多い。
11、穂高岳
岩山だが、岩各地、岩壁の植物は多く、涸沢岳〜北穂にかけておもしろい。
12、乗鞍岳
高山植物は普通だが、山麓の乗鞍高原からバスで植生の変化がわかる。

南アルプス

代表的な花
  • タカネビランジ

    タカネビランジ

  • シナノキンバイ

    シナノキンバイ

  • タカネナデシコ

    タカネナデシコ

  • キタダケソウ

    キタダケソウ

13、鳳凰山
花崗岩の山で高山植物の種類は乏しいがタカネビランジとホウオウシャジンは必見。
14、北岳
南アルプスのみならず、日本を代表する花の名峰。固有種、希少種の数では白馬岳を上回る。
山頂付近には北極圏に由来する高山植物が多く残されている。
15、仙丈ヶ岳
北沢峠までバスでアプローチが可能で、わりと楽に南アルプスの花に触れられる。
16、荒川岳
千枚岳から荒川岳にかけての稜線は北岳と並び南アルプスの高山植生の核心部。
17、塩見岳
三伏峠はお花畑が素晴らしいがシカ食害あり。サンプクリンドウの希少種がある。

中央アルプス

代表的な花
  • ヒメノウスユキソウ

    ヒメウスユキソウ

  • クロユリ

    クロユリ

  • クルマユリ

    クルマユリ

  • ミヤマキンポウゲ

    ミヤマキンポウゲ

18、木曽駒ヶ岳
駒ヶ岳ロープウェイで標高2,600mの高山帯まで一気に上がれる。千畳敷カール周辺にお花畑が広がる。
木曽駒ヶ岳まで日帰り可能で、ヒメウスユキソウが咲く。

出典:『高山植物の基本』新井和也(エイ出版社)

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