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「売れない時代」の処方箋 “買う”と決める、そのココロ

人が商品やサービスを「買いたい!」と思うとき、そこにはどのようなメカニズムが働いているのだろうか。 売り手はどのようにしてそれに働き掛けていけばいいのだろうか。「モノが売れない」といわれるこの時代に人々の購買意欲を促す方法を探る!

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  • 2016.12.01

「売れない時代」の処方箋
“買う”と決める、そのココロ

three men talk 「体験」や「感覚」が消費者の購買意欲を動かすカギ

原田曜平さん、色部義昭さん、加藤康広さん

「商品が売れない」といわれるこの時代。消費者の心をつかみ、購買行動を促すにはどうすればよいのだろうか。脳科学、デザイン、若者研究のそれぞれを専門とする3名に集まってもらい、現在の消費者の心理を読み解く視点や、マーケティングに求められることについて語り合っていただいた。

モノからコトへのシフトがいよいよ顕著に

写真:加藤康広さん、色部義昭さん、原田曜平さん 左から加藤康広さん(きもちラボ 代表取締役)、色部義昭さん(日本デザインセンター 色部デザイン研究室室長)、原田曜平さん(博報堂ブランドデザイン 若者研究所リーダー)

──はじめに、人々が購買を決定する際のメカニズムとはどういうものなのか、加藤さんから解説していただけますか。

加藤

消費行動を説明する際に昔からよく使われてきたのが「AIDMA(アイドマ)の法則」です。「認知・注意(Attention)」「興味・関心(Interest)」「欲求(Desire)」「記憶(Memory)」というプロセスで商品やサービスへの関与が深まっていって、最終的に「購買行動(Action)」に至る、というよく知られた考え方です。

これがインターネット登場後に「AISAS(アイサス)」というモデルに変わったといわれています。「認知・注意」「興味・関心」までは同じですが、その次に「検索(Search)」という行動が加わり、さらに「購買行動」の後に商品を実際に使ってみての感想などの「共有(Share)」が行われるようになった。そこが新しい点ですね。

しかし、これらはあくまでも心理学における解釈で、私が専門とする脳科学の分野では、購買行動をトータルに研究している人は私の知る限りまだおりません。部分的な研究・実験の成果をマーケティングに少しずつ生かしているというのが現状です。

──原田さんは若者の購買行動の研究に一貫して携わられています。最近の若者の消費傾向をどのように捉えていますか。

原田

ひと言で言えば、消費に対してネガティブになっていますね。彼・彼女らは、バブル崩壊以降の失われた20年を生きてきた人たちですから、将来不安が強く、できるだけお金を使わない生き方を選んでいます。特に、自動車や住宅など、ローンを組まなければならないような高額商品はなかなか買いません。

しかし、若者がお金を使う対象もあります。それが、体験できるイベントなどの「コト」です。CDは買わなくても音楽フェスには行く。ハロウィーンのようなイベントには積極的に参加する。それが多くの若者の傾向です。「モノからコトへ」という変化は、若者層ではたいへん顕著に表れています。

色部

デザインでも、商品パッケージや内装などのモノだけではなく、店舗でコトを起こしていくという発想が増えてきているように思います。ニューヨークのブルックリンにあるチョコレートブティックには、チョコレートを作っている様子やパッケージデザインの作業をお客さんに見せている店舗があります。いわゆる体験型店舗というもので、日本にもそういう店がいくつか出てきていますね。

「長持ちする情緒的価値」をいかにつくり出すか

写真:原田 曜平 原田 曜平(はらだ ようへい)
『「売れない時代」だからこそ、 コトの体験価値が重視されるのだと思います』
博報堂ブランドデザイン・若者研究所のリーダー。
数多くのテレビ、ラジオ、インターネット番組などでコメンテーターを務めるほか、著書も多数。近著に『パリピ経済 パーティーピープルが市場を動かす』(新潮新書)がある。

──デザイン面で消費者の購買行動を促す工夫にはどのようなものがありますか。

色部

商品の場合は、開発のストーリーや背景をパッケージなどにどう反映させていくかがポイントになると思います。それから重要なのは、売り場に並んだときにその商品がどう見えるかです。棚でどれだけ際立って見えるか、その商品独自の「たたずまい」をどう表現できるか──。それを徹底的に考えるようにしています。

一方、美術館などの公共施設をデザインする場合は、入場からの動線などを考え、その施設を好きになってもらい、足しげく通ってもらえるような空間をつくることを心掛けています。その場を楽しめるだけでなく、帰った後も何かが心の中に残るような場所づくりが理想ですね。

商品にしても空間にしても、とにかくしっかり観察することが大事です。データや情報ももちろん重要ですが、売り場や人々の動きをじっくり見て、そこで感じたこととこれまでの自分の経験をミックスさせながらデザインする。そんな方法を重視しています。

──購買行動を促すには、エモーショナルな刺激が大切だとよくいわれますが、それはどのように作用しますか。

加藤

感情が人間の行動を左右するのは確かです。感情には大きく分けると二つの種類があります。恐怖や驚きといった瞬間的な感情と、愛情や愛着などの持続的な感情です。後者の感情は「長持ちする情緒」ともいえますが、マーケティングの場合はこちらの方が大切であると私は考えています。持続する情緒的価値をつくることができれば、ファンが離れず、逆にファンがファンを呼んでくれるので、売り上げが長期的に伸びていくことが期待できるからです。

──「長持ちする情緒的価値」をつくるにはどうすればよいのでしょうか。

加藤

色部さんの話にもありましたが、ストーリーを上手に表現していくということだと思います。機能や品質で訴求するよりも、商品、サービス、場所が持つ独自のストーリーを伝えていくことがポイントではないでしょうか。

原田

そこはおそらく二分化しているといえるでしょうね。若者に関して言えば、モノには純粋な機能性を求める方向にシフトしているように感じています。ストーリー性やデザイン性などの付加価値ももちろん求めてはいるのですが、それで値段が高くなるのなら、むしろシンプルに機能が優れていて安い方がいい。それが若者の本音だと思います。

一方、先ほどのコト消費ではストーリーが重視される傾向があります。例えば、ユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)は動員増が続いていますが、その要因は展示やアトラクションが頻繁に変わることだと思います。その時にしか見られないものがあって、そこに行けば新しいストーリーに出合えるわけです。特にSNSが若者のメーンのコミュニケーションツールになっている現在は、そこでしか撮れない写真や映像があるというのは非常に重要です。写真動機、動画動機と消費行動が結び付いているのが、最近の若者の特徴の一つといえますね。

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