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変わる時代、変わらぬ信頼―"長く愛され続ける企業"の条件

技術革新、グローバル化、人口減少──。かつてない激動の時代を迎えている今日、企業が継続的に成長するのはいよいよ難しくなっている。
この変化の時代にあって、企業が顧客からの変わらぬ信頼を獲得し続けるにはどうすればいいのだろうか。
過去数十年にわたって活動を続けてきた企業の意志や挑戦に、これからの時代に愛され続ける企業のヒントを探る。

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  • 2017.12.01

変わる時代、変わらぬ信頼―
"長く愛され続ける企業"の条件

インタビュー激しい変化に立ち向かう熱量を! ― これからの50年を愛され続ける企業の条件望月洋介さん
日経BP総合研究所長

経済のグローバル化や技術革新が産業や国家間の壁をなくし、事業分野の境界がどんどんシームレスになっていく。そんな変化の激しい時代にあって、企業はいかにビジネスの継続性を保っていけばいいのだろうか。日経BP総合研究所の望月洋介所長に、激動の時代において長く愛され続ける企業の条件を聞いた。

激しく変化している経営環境と事業構造

50年、100年といった歴史を持つ企業が海外諸国に比べて日本には非常に多い──。それは事実ですが、その背景には日本特有の事情がありました。一つには、欧米のようにM&A(合併・買収)が盛んではなかったこと、一つには、株主が企業経営に必ずしも積極的に関与してこなかったことです。企業を取り巻く環境が比較的穏やかで安定していた。それが多くの日本企業が存続してこられた理由です。

しかし、日本特有のその安定した環境は、すでに過去のものになっています。常に買収の危険にさらされ、株主がものを言い、業績が厳しくチェックされる。そのようなグローバルスタンダードの中でこれからの日本企業は勝負をしていかなければなりません。

一方、事業の構造も大きく変化しています。デジタル技術を媒介として、これまで全く異なる分野であった事業間の垣根がなくなっています。自動車産業や医療系産業がすでにITの分野と地続きになっていることはご存じの通りです。この先の50年で、この変化はどんどん加速していくでしょう。

事業構造の激しい変化の中にあって、企業の事業分野もどんどん変わっていくはずです。コアなビジネスが何であるかをひと言でいうことが難しいケースも増えてくるでしょう。また、異なる分野の企業同士がグループを形成することも頻繁に起こると考えられます。

歴史を「守る」のではなく新しい時代を「つくっていく」

写真:望月洋介さん 望月 洋介(もちづき ようすけ)
日経BP総合研究所長

千葉大学大学院工学研究科修了。日経BP社入社後、日経マイクロデバイス編集長、日経エレクトロニクス編集長、クリーンテック研究所長を経て2017年から現職。企業価値を向上するためには総合情報戦略の構築が最重要という考えを持つ。日経BP総合研究所という複数の専門研究機関を統括する立場から、複数企業にアドバイスしている。講演は技術系や企業情報戦のテーマで年間20本前後。著書『スマートシティ・ビジネス入門』。

そのような激動の時代において、顧客に愛される企業であり続けるためには、三つの力が必要であると私は考えます。

第一に、あらゆる業界、あらゆる事業分野に視野を広げ、大きなビジョンを描くことができる「俯瞰力」です。これは、自社の新しい事業を構想していくために必須の力といえます。

第二に、新しいものに対応していく「適応力」です。10年後はおろか、2、3年後も見通すことが困難な時代には、目の前で起こっている事態に柔軟に適合していく姿勢が求められます。

そして第三に、スピーディーな意思決定や行動ができる「機動力」です。

しかし、これらを備えていても、「燃料」がなければ、その力を十全に発揮することはできません。三つの力をドライブする燃料を、私は企業の「熱量」と呼びたいと思います。創業者の志に合った熱量、新規事業に果敢にチャレンジしていく熱量、古いビジネスを刷新していこうとする熱量──。それらを保ち、強めていくことができなければ、これからの時代に企業が存続していくことは難しいでしょう。

熱量は経営者のものであり、一人ひとりの従業員のものでもあります。それぞれの熱量の総和が企業全体の熱量の総和になる。そして、そのエネルギーが企業活動をサステナブルなものにしていく。そう私は考えています。

そしてもう一つ、「伝えること」を企業存続の条件に加えたいと思います。優れた商品を作り、正しい活動をしていれば顧客や社会に理解してもらえる──。そのような考え方は、これからの時代には通用しなくなるでしょう。自社のブランド、技術、サービス、あるいは経営方針の価値を、外に対しても社内に対しても誠実に伝え続けることによって、企業の継続性が保たれる、と私は考えています。社会や市場や従業員による支えがあって初めて、企業の継続的活動は可能になるのです。

よく言われることですが、激しい変化はまたチャンスでもあります。短期的な売り上げや利益に翻弄されることなく、10年後、20年後を見据えてチャレンジを続けていくこと。あらゆる事業分野を視野に入れながら、自社の歴史を「守る」のではなく、自社の次の時代を積極的に「つくっていく」こと。そんな取り組みができる企業こそが、これからの激動の時代において長く愛され続ける企業となっていくのではないでしょうか。

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    時代の変化にしなやかに対応する
    「一保堂茶舗」

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