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変わる時代、変わらぬ信頼―"長く愛され続ける企業"の条件

技術革新、グローバル化、人口減少──。かつてない激動の時代を迎えている今日、企業が継続的に成長するのはいよいよ難しくなっている。
この変化の時代にあって、企業が顧客からの変わらぬ信頼を獲得し続けるにはどうすればいいのだろうか。
過去数十年にわたって活動を続けてきた企業の意志や挑戦に、これからの時代に愛され続ける企業のヒントを探る。

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  • 2017.12.01

変わる時代、変わらぬ信頼―
"長く愛され続ける企業"の条件

ケーススタディー2揺るぎない企業精神の下に世界に展開するYKKグループ

写真:YKKロゴのファスナー、樹脂製のコイルファスナー 写真左は誰もが1度は目にしたことがあるだろう、YKKロゴのファスナー。ジーンズやかばんなどに使われる金属ファスナー。右は樹脂製のコイルファスナー。金属製のファスナーよりも軽くて柔軟性がある 写真:石丸弘樹さん、清水宏則さん YKK 広報グループ・広報業務推進リーダー 石丸弘樹さん(左)、YKK AP 広報室・課長 清水宏則さん(右)。YKKグループでは1994年に、YKK精神「善の巡環」を引き継ぎながらも、時代に合わせて新たな経営理念「更なるCORPORATE VALUEを求めて」を制定した。

ファスナーに付いている「YKK」のロゴを見てブランドを知った人も多いだろう。一方、近年ではYKKといえば、窓やドアなどの建材を手掛ける会社だと認識している人も増えている。

ファスナーを製造する小さなメーカーだったYKKが、今やファスニング事業だけにとどまらず、建材事業を手掛けるYKK APを設立し、グループで世界71の国と地域において事業活動を行っている。海外従業員が半数以上を占め、グローバル企業に成長しているのだ。

1934年、東京・日本橋にファスナーの加工・販売会社として創業し、やがてファスナーメーカーとして海外進出を果たしていく。創業当時は手作業で製造していたが、日本メーカーでは初めて機械化に取り組み、ファスナーの一貫生産体制を確立。59年から海外に進出した。その後急速な海外展開を遂げたのは、各国の縫製産業の需要に応えるためだ。

現地での製造・販売を行い、短納期を実現した。現地密着型のため、その土地のニーズを吸収するのも速かった。労務費コストの上昇により縫製工場が少なくなった先進国でも、保冷バッグやカーシート用のファスナーなどの商品を開発。進出した各地域での雇用を守り、その土地になくてはならない企業となっていった。

一方、YKK APの事業展開のきっかけは、YKKのファスナー製造用に導入されたアルミ押出機の生産能力を有効活用したことにあった。57年に設立したYKK APは、62年にビル用のアルミサッシの生産・販売を始めた。当時の日本は高度経済成長期であり、団地やアパート向けに規格化された耐久性のある窓が求められ、アルミサッシの需要が伸びた。そしてYKK APも、YKKと同様に海外に進出。86年には、インドネシアにアルミ建材の一貫生産工場を設立した。

「建材に求められる性能は、その地域の気候や法律、建築文化などによって大きく異なります。例えば米国ではハリケーンやテロ対策用に強度を高めたり、台湾では台風対策のため水密性が高い商品を開発するなど、それぞれの地域に求められる商品規格を提供しようと考えています」とYKK AP 広報室の清水宏則さんは話す。

ここまでYKKグループが長きにわたり、広い地域で愛されてきた理由の一つは"企業精神"だとYKK 広報グループの石丸弘樹さんは語る。「創業者 吉田忠雄の企業精神である『善の巡環』を『YKK精神』とし、常に事業活動の基本姿勢としてきました。これは、『他人の利益を図らずして自らの繁栄はない』という考え方です」。企業は社会の重要な構成員であり、利点を分かち合うことにより、社会から価値が認められるもの。その姿勢は創業以来脈々と社員たちに受け継がれている。

  • 写真:YKK AP埼玉窓工場の外観 住宅用高性能樹脂窓を製造するYKK AP埼玉窓工場の外観。同工場で製造する窓を外壁として使用。工場という空間にこの演出的なデザインが新たな価値を生むと、2012年グッドデザイン賞を受賞
  • 写真:ファサードの設計・製造・施工 YKK APは高度な技術を生かして、デザイン性の高いファサードの設計・製造・施工も行う
  • 写真:YKKドイツ社の工場 YKKドイツ社の工場では2012年からビジネススクール学生の受け入れをスタート。地元の職業訓練システム「デュアルシステム」のパートナー企業として参画し、社会貢献にも積極的だ

この考え方は、時代に合わせビジネスモデルを転換したことにも表れている。YKK APは、従来、窓の一部分であるアルミサッシ(フレーム部分)を流通店に卸していた。しかし大量生産の時代が過ぎ、住宅の形や求められる性能が変わる中で、YKK AP自ら「窓」の開発を始めた。ガラス原板を仕入れ高性能複層ガラスにし、ファスナーでも使われる樹脂の素材技術も駆使して「樹脂窓」を製造するようになった。また、近年ではリフォーム需要の増加を受け、ショールームも拡充し、環境対応型の断熱窓など、エンドユーザーのさまざまなニーズに合わせた幅広い商品を展示。実際に「窓」の性能の違いを体験できる設えになっている。

「高品質・高性能の『窓』でお客さまの暮らしをより豊かにしたい。そのためには、『窓の一部』ではなく、『窓』全体を自社で提供するべき、という思いもあり、ビジネスモデルを変化させました。そして、以前よりもお客さまに寄り添ったご提案方法にシフトしています」(清水さん)

長年にわたる同社の取り組み全てに息づく「善の巡環」。この"変わらない企業精神"の下、社会の変化に合わせて事業を展開する。

「YKK精神は額に入れて飾っておくものではありません。私たちは『善の巡環』という言葉を胸に、お客さまや社会に貢献していかなくてはならないと思っています」(石丸さん)

これから50年先、100年先も、YKKグループは私たちの暮らしをより豊かな方向へと導いてくれるだろう。

  • 写真:ショールーム 各地のショールームでは「見て触れて体感!」をコンセプトに暮らしに合った窓選びができる
  • 写真:「窓」づくり 生活者検証などを通じて高品質な「窓」づくりを進めている
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    ケーススタディー1
    時代の変化にしなやかに対応する
    「一保堂茶舗」
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    コラム1
    日本の神社仏閣を守る"1400年の歴史を持つ企業"
    「金剛組」

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