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未来のカタチが見えてきた  来たる!キャッシュレス社会

社会のキャッシュレス化が世界的な流れとなっている。今後も増えてくるであろう訪日外国人観光客を見据え、日本でも対応を急いでいる。世界はなぜ急激に現金から電子決済にシフトしているのか。そこにどんなメリットやビジネスチャンスがあるのか。
キャッシュレス社会が描く未来を探る。

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  • 2018.06.01

未来のカタチが見えてきた
来たる!キャッシュレス社会

ケーススタディ 2
キャッシュレス化によって実現する小売店舗の新しいスタイル
トライアルホールディングス

日本で現金が最も利用されているのは、スーパーやコンビニといった小売店舗である。
小売り現場のキャッシュレス化の進展が、日本全体のキャッシュレス化の鍵を握っているといってもいいだろう。
現在、先進的なキャッシュレス販売の仕組みを導入している小売りチェーン、トライアルグループの取り組みを紹介する。

写真: 「スーパーセンタートライアル アイランドシティ店」の店内

「スーパーセンタートライアル アイランドシティ店」の店内。「スマートレジカート」の利用率は4割に達するという

導入から2カ月間で利用率4割に

写真: 西川晋二さん 西川 晋二(にしかわ しんじ)
トライアルホールディングス
取締役副会長 グループCIO

タブレット端末を搭載した買い物カートのスキャナーに、最初にプリペイドカードのID情報を読み取らせる。後は、欲しい商品のバーコードをスキャナーにかざしてカートに入れていくだけ。タブレットの画面には、商品の合計価格とカードの残高が表示されるので、買い過ぎることはない。全ての買い物が済んだら、その時点で会計ボタンを押せば、精算は終了である。レジに並ぶ必要もなければ、財布から現金を取り出して支払う必要もない──。

これが、この2月に福岡市内にオープンした「スーパーセンタートライアル アイランドシティ店」の、「スマートレジカート」を使用したキャッシュレス決済の仕組みだ。福岡市に本社を置き、全国で218店舗を展開するトライアルグループ。そのIT部門の責任者である西川晋二さんは説明する。

「トライアルの店舗の多くは量販型で、お客さまの買い物点数が非常に多いために、レジでの待ち時間が長くなってしまうという問題が以前からありました。それを改善するためには現金での支払いプロセスをなくすことが有効であると考え、2年前にID登録型のプリペイドカードを導入しました。買い物前にカードにお金をチャージし、現金なしで精算していただく仕組みです」

その仕組みをさらに進化させたのが、前述の決済機能付き買い物カートである。

「導入前は、お客さまが自分で商品をスキャンするのは難しいのではないかという声もありました。しかし実際には、多くのお客さまにご利用いただき、2カ月間で利用率は4割に達しました」

精算用タブレットがワントゥワンメディアに

レジに並ぶ必要がなく、精算時に現金を用意する必要もないのが顧客側のメリットだが、店舗側にも大きなメリットがある。

「現金の取り扱いが少なくなることで、現場の負荷が大幅に減るだけでなく、POSレジなどの設備費も削減できます。現在は、商品のスキャン漏れなどを従業員がチェックしていますが、それでも全てがレジ精算だったころと比べれば、人件費や設備費は大幅に下がっています」

そればかりではない。このシステムの大きなポイントは、カートに付いたタブレットの画面を使ってでダイレクトマーケティングを可能にするところにある。

「お客さまがどの商品を買っているかをリアルタイムで把握することができるので、それに合わせて、関連のある別の商品をリコメンドしたり、メーカーとのタイアップでクーポンを提供したりすることができます。つまり、個々のお客さまに対応したプロモーションが可能になるということです」

この仕組みによって、顧客は買い忘れを防いだり、クーポンを使って割安で買い物をしたりすることができる。一方、店舗側は顧客満足度と売り上げを同時に向上させることができ、メーカー側はピンポイントでの販促ができる。「三方よし」を実現した画期的な仕組みだ。

取得したデータをマーケティングに活用する

アイランドシティ店ではさらに、店内の棚の状況を撮影・分析できるカメラを計700台設置している。カメラの役割は二つだ。一つは、従業員が人手で行っていた商品の欠品チェックなどを自動化すること。もう一つは、棚前の買い物客の動向をデータとして取得し、メーカーに提供することだ。後者は一般にショッパーマーケティングと呼ばれるもので、小売店舗内での買い物客の動きを分析し、品揃えや商品開発に生かす手法である。

「欧米の大手小売業では、メーカー、卸、小売りが情報を共有し、共同で販売のプランニングなどを行う手法が定着しています。それによって品揃えや商品の配置、店舗設計などを最適化することができるわけです。弊社もその方法を取り入れています」

トライアルグループは「ITで流通を変える」をテーマに、早い段階から自ら業務システムの開発などを手掛けてきた。現在は、そのIT力を駆使してキャッシュレス化と顧客の動向分析を個別に進めているが、早晩、それぞれのシステムは統合されることになりそうだ。統合の軸となるのは、顧客IDである。

「お客さまの買い物履歴や店内での動きなどをデータとして蓄積していけば、よりパーソナライズされた商品リコメンドやプロモーションが可能になります。それぞれのお客さまに適した商品を提案し、個別のインセンティブを提供し、現金なしでスピーディーに買い物をしていただく。それが、私たちが目指すキャッシュレス店舗の姿です」

現在、「スマートレジカート」が使えるのはアイランドシティ店のみだが、投資対コストを見ながら、できるだけ早い時期に福岡県内の約30店舗に同じ仕組みを導入していきたいと西川さんは話す。

「キャッシュレス化は、お客さまにも店舗側にも大きな利便性をもたらすことが分かりました。今後も小売り現場における日本社会のキャッシュレス化をけん引していきたいと考えています」

従来のレジ

写真: 従来のスタイルのレジの様子

従来のレジの様子。顧客には列に並ぶストレスがあり、店舗側にはレジ作業のコストが掛かるという問題がある。その両方を解決するのがキャッシュレスの仕組みだ

キャッシュレス化

写真: キャッシュレスの仕組み 写真: キャッシュレスの仕組み

最初にプリペイドカードのバーコードでID認証を行う。その後は、商品のバーコードをスキャンし、カートに入れていけば、積算料金が画面に表示される。最後に支払い画面で決済をすれば支払いは完了。商品のスキャン漏れチェックのプロセス以外、店側スタッフの関与なしで買い物が完結する

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    ケーススタディ 1
    現金やカードなしでタクシーに乗れる
    Japan Taxi 「全国タクシー」
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    インタビュー 2
    キャッシュレス化が消費者、ビジネス、
    社会にもたらすメリットとは?

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