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未来のカタチが見えてきた  来たる!キャッシュレス社会

社会のキャッシュレス化が世界的な流れとなっている。今後も増えてくるであろう訪日外国人観光客を見据え、日本でも対応を急いでいる。世界はなぜ急激に現金から電子決済にシフトしているのか。そこにどんなメリットやビジネスチャンスがあるのか。
キャッシュレス社会が描く未来を探る。

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  • 2018.06.01

未来のカタチが見えてきた
来たる!キャッシュレス社会

コラムキャッシュレスに向けて加速する世界の最新事情
鈴木淳也さん
モバイル決済ジャーナリスト/ITジャーナリスト

日本ではまだ始まったばかりのキャッシュレスだが、世界ではもはや当たり前。
各地で広がるキャッシュレスの波を、キャッシュレス事情に詳しいITジャーナリストの鈴木淳也さんに聞いた。

モバイルアプリを使ったO2O成功の鍵はデリバリーと事前オーダーサービスにあり

写真: マクドナルドが2017年3月にスタートした事前注文決済サービス 写真: 「MOBILE ORDER & PAY」 McDonald'sが2017年3月にスタートした事前オーダー&決済サービス。日本国内でも18年中に何らかの対応を検討している

オンラインとリアル店舗を結び付けるO2O(Online to Offline)の取り組みが活発になっているが、中でも急成長中なのがフードデリバリーの市場だ。McKinsey & Co.の予測によれば、年率4%成長を見せるこの市場で、オンライン経由での発注が2019年に従来手法を逆転して過半数に達するという。その中心となるのがモバイルアプリとみられ、発注から決済まで全てオンラインで完結するのが特徴だ。米国ではDoorDash、Grubhub、Uber Eatsなどの事業者が提携先を拡大してしのぎを削っているほか、中国や東南アジア市場でも急成長しつつある。言うまでもなく、キャッシュレスを推進する原動力の一つとなっている。

デリバリーと並び、ファストフード業界や小売業界で昨今注目を集めているのが事前オーダーサービスだ。米国では2017年にMcDonald'sとStarbucksがモバイルアプリを大幅改良し、事前の注文から決済までをモバイルアプリ上で完了できるようになった。店内、店舗の駐車場、ドライブスルーといった場所を指定してピックアップできる点が特徴で、待たずに素早く商品を受け取ることができる。こうした専門業者としてCurbsideやInstacartが存在するが、それだけ需要があることの証左だろう。

O2Oで重要なのは、顧客のニーズを埋めるきめ細かいサービスにある。コンビニ一つとっても都市部と住宅地では求められるものが違うだろうし、eコマースが全てではない。過大な投資は必要なく、できるところから手を付けていくのが、認知度や顧客満足度の向上につながるはずだ。

2020年の現金決済比率1%未満を目指して進む北欧のキャッシュレス事情

キャッシュレス先進国というと最近では中国を挙げることが多いようだが、浸透度という観点では北欧諸国を忘れてはいけない。アイスランドを含む北欧5カ国はもともと人口が少なく、経済規模も他の先進国と比較して小さいことから、通貨維持のためのコスト負担が大きいという問題があり、クレジットカードやデビットカードを活用する傾向が強かった。国土に対して居住エリアが極度に偏っているという事情も、インフラ整備の後押しとなった。

最新の調査報告によれば、中でもスウェーデンは全取引高における現金決済額の比率は2%で、2020年までには1%未満となることが予想されている。これは国内でのカード普及率の高さだけでなく、近年急速に利用が進むスマホを使ったモバイルウォレットの存在が大きい。同国の「Swish」をはじめ、デンマークの「MobilePay」、ノルウェーの「Vipps」など、地元銀行らが始めた決済サービスがここ3〜4年ほどで普及しつつあり、送金や料金支払い、店舗決済などの最後に残った現金決済シーンを塗り替えつつある。特殊な技術を用いないことも特徴で、スマホと現地の銀行口座さえあればすぐに利用できるため、現地でのキャッシュレス化の原動力となっている。その効果の最たるものは店頭での決済オペレーションの効率化だ。また、機会損失が少ないことから、同地域では現金を取り扱わない旨を掲示した店舗もあり、コスト面での導入メリットも大きい。

  • 写真: Kim Kristoffersen氏
    デンマークの「MobilePay」の現状について説明する同社オペレーショナルエクセレンスのトップ、Kim Kristoffersen氏
  • 写真: モバイルウォレット「Swish」
    スウェーデン中央銀行が中心となり同国の主要銀行が集まって2012年にスタートしたモバイル決済サービス「Swish」

外国人旅行者の多い大都市の交通系IC事情と「オープンループ」

「Suica」などの交通系電子マネーは現在、駅外への商圏の拡大が鉄道会社の戦略重点目標となっており、日本のキャッシュレス化を支える要素の一つとなっている。一方、交通サービスが電子マネーも兼ねているケースは、世界でもアジア周辺だけと限定的だ。しかも交通系ICカードは都市圏ごとに取り組みがばらばらとなっている。

英ロンドンでは交通系ICカード「Oyster」を運用しているが、国際都市で外国人の出入りが多い土地柄か、月間発行枚数が最大50万枚を突破しており、この発行負担が運営団体の経営を圧迫するという問題があった。そこで非接触対応クレジットカードや「Apple Pay」などのモバイル端末での乗車を可能にする「オープンループ」の仕組みを2014年から解禁した結果、半数近い乗客がこれを利用するようになった。シカゴやモスクワでの運用が始まっているほか、シンガポールでも一般公開直前の段階に入っており、ニューヨークでも間もなく取り組みが始まる。

決済手段増加は利用増が期待できる半面、交通系電子マネーによる店舗決済は専用の読み取り装置を要求するケースが多く、レジ回りに決済手段ごとに異なる読み取り機が何台も設置されることになる。オペレーションの煩雑化や店舗スペースの有効活用の点からはマイナスであり、中国の深圳にあるStarbucksでは、QRコード決済の導入を機会に交通系電子マネー対応をやめてしまった例もある。その点でオープンループ普及による決済手段のシンプル化は、店舗にとってもメリットが大きい。

  • 写真: 交通系ICカード「Oyster」
    ロンドンでTfL(Transport for London)によって運用される交通系ICカードの「Oyster」
  • 写真: Wall St.駅
    ニューヨークの地域交通MTAでは非接触ICに対応したオープンループの交通系システム導入が進みつつある。写真はWall St.駅のもの

個人間送金の普及が拡大(「Venmo」を含むいくつかの事例)

写真: 個人間送金サービス「Venmo」 PayPalの個人間送金サービス「Venmo」。チャット方式で友人間の送金履歴をSNSのようにチェックでき、交友関係やイベント情報も入手できるため、特に若年層での人気が高い

個人間送金(P2P送金とも呼ばれる)は、キャッシュレス化推進において最も重要な要素だ。日本ではまだ手軽な個人間送金サービスが広く普及していないものの、中国や東南アジアなどを含む世界の多くの地域では盛り上がりつつある。中でも米国ではPayPalのサービスである「Venmo」が牽引役となり、AppleやFacebookといったITベンダー、銀行が関連サービスを提供している。

もともと個人間送金では「特定の相手に送る」という性質から、特にモバイルでは「Facebook Messenger」のようなチャット系サービスのインターフェースが利用されることが多い。最近では、相手が人間ではなく「ボット」と呼ばれるAI自動応答システムとなるケースが出てきている。例えばBank of Americaが発表した「Erica」というAIでは、スマホに話し掛けるだけで送金や銀行口座の操作が行える。MastercardとKasistoが共同開発した「KAI」というAIでは、銀行サービスを含むさまざまな接客応答が可能になっている。「KAI」をソフトバンクの「Pepper」に組み込むことでロボットによる対人コンシェルジュのような仕組みも実現できる。このように応用範囲が広いため、ATMや現金の取り扱いなど、銀行との付き合い方が今後数年で大きく変化することが見込まれる。送金システム同様、決済システムもなるべくユーザーに"決済"というハードルを意識させないことが求められる。「Facebook Messenger」での決済は、小売りやサービス事業者にとっても注目すべきトレンドであろう。

鈴木淳也(すずき じゅんや)
モバイル決済ジャーナリスト/ITジャーナリスト。国内SIer、アスキー、@ITを経て2002年の渡米を機に独立。以後フリーランスとしてシリコンバレーのIT情報発信を行う。現在は「NFCとモバイル決済」を中心に世界中の事例やトレンド取材を続けている。近著に『決済の黒船 Apple Pay(日経BP)』がある。
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