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時代をつくった業界イノベーション物語

今や雑誌に付録が付いてくるのは当たり前。2001年に付録の基準が大幅に緩和されたことで付録のクオリティーが上がり、雑誌業界は付録競争を強いられてきた。しかし近年は「付ければ売れる」段階は過ぎ去った感もある。雑誌付録の過去と現在を追った。

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  • 時代をつくった業界“イノベーション”物語
  • 2016.09.01

[Vol.3] 雑誌の付録

雑誌の付録は、明治時代までさかのぼる。1877年創刊の児童雑誌『穎才新誌』が、投稿文など本誌では収まりきらない企画を別冊付録で紹介したのが始まりだ。1889年創刊の『小国民』は「すごろく」を付録に。少年雑誌の創刊ラッシュを受け、各誌、付録を付けることで差別化を図った。

昭和に入ると雑誌が大量創刊され、付録は豪華さを増していく。1931年『少年倶楽部』の「紙模型」(ペーパークラフト)はドイツの大型飛行艇ドックス号を付録に。組み立てで作れる付録の域を超えた精巧さが話題になり、38万部を完売した。その後も名古屋城、エンパイア・ステート・ビルディングなど、さまざまな紙模型を考案した。

大人向けの雑誌では、婦人誌が付録に注力。1917年には『主婦之友』が先駆けて、別冊付録で占いを添付。次第に添付回数や種類が増え、1934年に「十五大附録」で勝負に出る。新聞広告に「主婦之友をお買いになる方は、風呂敷をお持ちください」と載せ、世間を驚かせた。

高度経済成長期を背景に、大ヒットを放ったのが、学年誌『1~6年の科学』の付録だ。雑誌とセットで付けていた付録の中心は、「望遠鏡」「顕微鏡」「カメラ」といった本格的な実験器具。おまけとして添付するのではなく、雑誌の内容を補完する付録として唯一無二の存在になった。

実は雑誌には、日本雑誌協会の自主基準(雑誌作成上の留意事項)があり、配送を考慮して付録のサイズや重量、使える材質などが細かく定められている。『1~6年の科学』は学校で直接販売していたため、流通ルールに従う必要がなかったのだ。

1990年代に入り、パソコンが家庭にも普及すると、付録にフロッピーディスク、CD-ROM、DVDなどの記録メディアが登場する(付録の基準から外れるためムック扱いで刊行した時代も)。もっとも、それ以前もカセットテープやビデオテープ、その昔はソノシート(薄いレコード)といったメディアは付録に多用されていた。1959年「音の出る雑誌」を謳い文句に発行されたソノシート付き『月刊朝日ソノラマ』は、後にテレビアニメの主題歌などを収録し、子どもたちの支持を得た。

  • 写真:小国民 穎才新誌

    1877年/1889年
    穎才新誌えいさいしんし/小国民

    1877年創刊の『穎才新誌』は、日本初の児童雑誌。読者の投稿文などを別冊にまとめたのが日本初の付録だった。一方、読み物ではなく、初めて物品を付録にしたのは1889年創刊の『小国民』で、中身は「すごろく」だった。
    (写真:東京都立多摩図書館 児童・青少年資料担当所蔵)
  • 写真:少年倶楽部 (講談社)「大飛行艇ドルニエ ドックス号」

    1931年
    少年倶楽部 (講談社)「大飛行艇ドルニエ ドックス号」

    それまでの絵図や絵巻といった付録に替え、工作の楽しみもある紙模型を付録にした同誌。発案者は、百貨店のおもちゃ屋で見た、当時のドイツが世界に誇る「大型飛行艇ドックス号」にヒントを得て、組み立てで作れる紙模型を設計した。
  • 写真:主婦の友 (主婦の友社)「15大付録」

    1934年
    主婦之友 (主婦之友社)「十五大附録」

    婦人誌の付録競争は、この時すでにスタート。『婦人倶楽部』(講談社)と熾烈な争いを繰り広げていた『主婦之友』は、新年号に、家庭作法宝典(512ページ)、童話絵本、新式の姓名判断、皇室の御繁栄、といった15種もの付録を同梱。
  • 写真:1~6年の科学 (学研)「カメラなどの実験器具」

    1969年
    1~6年の科学 (学研)「カメラなどの実験器具」

    雑誌と付録をセットにした学習誌で、学年別に発行していた。付録にしたのは、カメラや顕微鏡など、実際に使える実験器具。新素材を積極的に用いてきた同誌は、当時、子どもの憧れだったプラスチックを素材に製作。
  • 写真:電撃ホビーマガジン (KADOKAWA)「MG Gガンダム バージョンアップパーツ」

    2002年
    電撃ホビーマガジン (KADOKAWA)「MG Gガンダム バージョンアップパーツ」

    2001年の基準緩和により、フィギュア系の付録も付けられるように。02年、同誌はバンダイが発売するガンダムのプラモデル用改造パーツを考案。“限定版”がマニア層の支持を受け、以降もさまざまなプラモデルのパーツを付録にした。
  • 写真:sweet (宝島社)「Cherビッグトート& パスケース」

    2009年
    sweet (宝島社)「Cherビッグトート& パスケース」

    2004年から全ファッション雑誌にブランドアイテム付録を付けた同社は10年1月、『sweet』が100万部を突破。今まで雑誌を買っていなかった読者もターゲットに、付録は一つのコンテンツと捉え、編集部が企画から工場選びまで行っている。
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    付録の基準緩和を機に付録付き雑誌が増加

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