ふるさと定期便|第3回:広島県東広島市西条から
酒どころ 西条

東広島市西条は、広島県のほぼ中央に位置する高原盆地で、周囲を標高400~700m程度の山々に囲まれ、古代に堆積した西条湖成層が良質の地下水を生み出しています。その良質な地下水と酒米の栽培に適した寒暖差の大きい気候は、江戸時代から続く日本酒づくりに活かされ、兵庫の灘、京都の伏見と並ぶ「日本三大銘醸地」の一つに数えられています。
東広島の産業に欠かせない「水」を育む山々は、かつてはアカマツ林が大半を占めていましたが、松枯れの被害と、管理者不足から荒廃が進んでいます。また近年、市の発展に伴い都市化と人口増加(1995~2005年に約2万人)が急速に進むことで、高層建築物が増え、水田が減少するなど都市全体の水質・保水力、地下水水量が低下しています。
山づくり、水づくり、美しいふるさとづくりを目指して~「山のグラウンドワーク」~

西条・山と水の環境機構では、保水力の高い里山林を育てることで、山を保全し、きれいな水を守ること、そして美しい風景づくりを目指し、住民、企業、行政の三者が協力して行う地域環境改善活動「山と水のグラウンドワーク」を実施しています。
西条の水源の山となっている龍王山・憩いの森を拠点に、高校生・大学生、企業までさまざまな団体が参加し、下草刈りや除伐などの山の手入れを行い、作業で発生した除伐材をウッドチップ堆肥にして酒米づくりに利用したり、炭やペレットに活用するなど地域循環型の取り組みを行っています。2010年からは、キヤノンMJグループの従業員が、ボランティアで「山のグラウンドワーク」に参加し、共に活動しています。
取り組みを支える皆さんの声
「山に入ろう、手入れをしよう」これが出発点です

西条酒造協会 理事長
前垣 壽男 氏
(西条・山と水の環境機構 理事)
子供の頃、学校から帰ると山でちゃんばらごっこをして遊んでいました。とても楽しかったです。今、周りの山は荒れています。山を守ることは、私たちや市民にとっても命の源である水を守ることです。まず、山に入ろう、できるところから手入れをしよう。こうしたことが出発点になり、西条酒造協会として2000年の秋、「山づくり、水づくり、酒づくりシンポジウム」を主催し、森林の手入れを実施したのが「山のグラウンドワーク」の始まりです。そして、2001年5月に西条・山と水の環境機構が正式発足、それ以降も継続して山の手入れを行ってきました。キヤノンMJグループの方々と一緒に活動していると、地域の文化や環境をとても大切にしていこうとするメッセージが伝わってきます。山、川、田んぼなど日本の美しいふるさとの風景を一緒になって保全し、小さいけれど大事な日本の文化を世界へ伝えることができればと願っています。
循環型社会モデルの構築を当地で実現します

広島大学大学院 教授
中越 信和 氏
(西条・山と水の環境機構 運営委員会 委員長)
松枯れで荒廃した里山を、生物多様性が高く豊かな生態系サービスを供給する広葉樹の里山に林相転換する目的で、「山のグラウンドワーク」を始めました。ボランティア、一般市民、学生(広島大学、西条農業高校など)、企業(キヤノンMJグループなど)の10年間に及ぶ組織的な活動のおかげで、森林構造の再生、生物多様性低下の阻止、外来種の排除、物質循環の向上など、私が設定した当初目標は果たせました。森林整備による雨水の土壌浸透率の向上で地下水の涵養にも貢献したと考えています。今後、機能の高い里山林の育成、カーボン・ニュートラルの循環型社会モデルの構築を当地で実現します。
活動に参加して生徒たちの研究が深まっています

広島県立西条農業高等学校
垣 幸宏 氏
西条農業高等学校は、園芸・畜産・生活・農業機械・緑地土木・生物工学・食品科学の7学科がある農業高校で、「山のグラウンドワーク」には2004年度から参加しています。本校は、2008年度から3年間、文部科学省より「目指せスペシャリスト」研究開発の指定を受けています。
研究テーマの一つである「環境保全ボランティアプロジェクト」の一環として、地元の環境保全に関する研究とボランティア活動および水の浄化に関する研究を行い、「山のグラウンドワーク」への参加を基盤にして研究活動を深めています。さらに、2011年の6月に東広島で開催された「第10回ひろしま『山の日』県民の集い」には、全校生徒が参加。午前の記念講演では、里山と生物多様性について学習し、午後から「山のグラウンドワーク」および清掃登山を行いました。
定例の「山のグラウンドワーク」は、本校の緑地土木科の生徒が中心に参加しており、山の手入れや講義などを通して、環境学習の充実や生徒の環境保全のための行動力の源となっています。
この活動の輪を広げて多様な参加者の集う取り組みに

西条・山と水の環境機構 事務局
畝崎 辰登 氏、船本 昌義 氏
この活動には、小学生から高校生、大学生といったこれからの地域の担い手が数多く参加しています。地元企業や行政で活躍されてる方々の中には、「学生時代、山のグラウンドワークに参加した」という人が見受けられるようになりました。一番若い運営委員も、大学生時代に授業で参加しています。私たちの活動は地味な作業が中心で、市民の方の興味を引くようなプログラムではありませんが、地道にこの活動の輪を広げて多様な参加者の集う取り組みにできればと考えています。ここ数年増えてきたキヤノンMJグループをはじめとした企業の参加は、マンパワーのみならず、活動のPR、多様な参加者の交流の場づくりなどに貢献しており、今後はこうした企業の専門技術、開発力などを活かした連携、提案にも期待しています。
社会や地域の“絆”を大切にしていきたい

キヤノンマーケティングジャパン
中村 元軌
広島に赴任して5年近く経ち、地元になにか貢献できるボランティアを探していたところ、このプロジェクトの存在を知り、すぐに申し込みました。
山の斜面で木を切る作業は、“漆の木には触れてはいけない”など、知識が身についてくると、作業を楽しめるようになり「爽快感」を感じます。なにより森に親しんでいると、おいしいお酒は、森やその水源を守ることで成り立っていると実感します。
西条には、市民、学生、地元自治体が一体となって開催される「酒まつり」があります。今年は、「頑張ろう」という意味の東北弁「けっぱる」と広島弁の「~しょうや」を合わせた「けっぱろうや!」をキャッチフレーズに、“絆”をテーマにして開催されました。
私自身、今年は、社会や地域の“絆”を強く感じた年であり、今後もこのようなボランティア活動に積極的に参加していきたいと考えています。
