光学技術

非球面レンズ

写真レンズの宿命を突破するもう1枚のレンズ

一枚のベールがはがされ、目に映る世界は眠りから冷めたように鮮鋭さを帯びる。Lならではのシャープな描写性能を実現した、もう一枚のレンズ。それは実現が大変難しいとされ、長年、光学設計者の間で“夢のレンズ”と呼ばれていた「非球面レンズ」(Aspherical Lens)である。通常、カメラ用レンズは光軸上に球心をもつ球面の一部を切り取った「球面レンズ」の組み合わせでできている。しかし、これらの球面レンズには「平行光線を完全な形で一点に収束させられない」という理論的宿命があった。この課題を克服するために、光を一点に集める理想的な曲面、つまり球面でない曲面を持った「非球面レンズ」が考え出されたのである。

非球面といっても一目でわかるほど極端な物は少なく、一見したところ球面レンズとほとんど変わらない。それだけに、計算に基づいた微妙な曲面がレンズの形に再現されるには、0.1マイクロメートル(1万分の1ミリメートル)以内の精度が要求される加工技術、そしてさらに高い精度が要求される超精密測定技術を確立しなくてはならなかった。ガラス素材を設計値通りの形状に、そして高速で磨き上げる技術を確立すること。この課題が完全に解決されないまま、1971年、ミラーアップなしで撮影が可能な一眼レフカメラ用レンズにおいて、世界初の研削非球面レンズ「FD55mm F1.2AL」が誕生した。工場に増産要請が次々と舞い込む中、研究は続行され、世界で初めてのナノメートル(百万分の1ミリメートル以下)オーダーの量産加工機が完成したのは、それから2年後。

光の波長の1/32、すなわち0.02マイクロメートル(10万分の2ミリ)の誤差も許さず、正確に磨き上げられたレンズは、Lだけの研ぎ澄まされた描写性能を実現している。現在の非球面レンズ製造技術は進化を続けている。1980年代に入ると、大口径ガラスモールド(GMo)非球面レンズの研究開発が進められ、1985年には実用化に成功。超精密加工によって製作された非球面の金型で、高温のガラスを直接成型するガラスモールド技術は、2007年にレンズの凹面への高精度な非球面加工までを実現。この技術により、超広角レンズ「EF14mm F2.8L II USM」が生み出された。

非球面レンズ金型