光学技術

SWC

それは、光を吸い込むように導く、反射防止膜

レンズの表面に施された可視光の波長よりも薄い膜。“蒸着”という手法が使われることから蒸着膜と呼ばれるこの薄膜は、レンズ表面での光の反射を抑え、透過率の向上とフレア・ゴーストの低減に貢献してきた。しかし、蒸着膜には、光の入射/射出角度が大きくなるに従い、反射防止効果が低下するという問題があった。一方レンズの高画質・高性能化を追求するためには、これまで以上に厳しい条件で光を入射/射出させる必要があるが、蒸着膜では十分な反射防止効果を得ることができず、新しい光学系の開発を断念せざるを得ない状況だった。

そこでこの限界を突破すべく、新たに開発された反射防止膜が“SWC(Subwavelength Structure Coating)”である。この技術を使用すれば、蒸着膜では反射防止効果が望めないレンズ面であっても、劇的なフレア・ゴーストの抑制が可能になる。“SWC”による反射防止の原理、それは屈折率の連続的な変化によるものである。そもそもレンズ面の反射とは、空気とガラスの屈折率に差があるために発生する。しかし、ガラスと空気の間に連続的に屈折率を変化させる層があれば、光はその層で反射を起こすことなく、「空気→ガラス」または「ガラス→空気」とスムーズに進むことになる。この理論を実現するカギは、意外にも自然界に存在していた。

蛾の眼の表面にあるナノレベルの微細な凹凸。この構造物は、低屈折率の層として機能することで、反射防止効果を発揮していたのである。この原理を発展させ、キヤノンの技術者は数えきれない試行錯誤を繰り返した結果、レンズの表面にナノメートル(nm)※単位の構造物を形成するという画期的な手法にたどりついた。具体的には、可視光の波長(約400〜700nm)よりも小さい、約200〜400nmの楔(くさび)状の構造物が、尖った方を空気側に向けた状態でレンズ表面に均一かつ適切な密度で配置されている。この構造を採用することで、屈折率は構造物の頂点から根元にかけて段階的に変化することとなり、入射した光はいわば「吸い込まれるように」反対側に導かれることになる。この画期的な新技術は、まず「EF24mm F1.4L II USM」に採用され、広角レンズの新領域を担うことになった。

※1nm=100万分の1mm