古賀 絵里子のふるさと Vol.02 「一期一会」 東京・浅草

写真家としての原点、処女作『浅草善哉』の舞台である下町、浅草。

2003年、昭和の匂いを色濃く残すこの長屋で、私はある老夫婦と出会った。
善さん、はなさん。二人の日常やその存在から、言葉にならない大切なものを感じ、
最期の六年間を写真に託した。

心に描くと色んな想いがよぎる「ふるさと」だけれど、今日は一期一会を胸に、
当時お世話になった方々を訪ねる旅に出た。

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Vol.02 古賀 絵里子

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昼過ぎ、谷中の路地をお墓参りに歩く。門前にあるギャラリーで、ご主人が猫に餌をあげながら一言。「屋上、眺め良いから登ってごらん。」見上げると空飛ぶラクダが。居合わせた若者たちも、はしゃぎながら階段を上ってきた。みんな、素直で輝いている。

レンズ:
EF24-70mm F4L IS USM
Tv(シャッター速度):
1/320
Av(絞り数値):
9.0
ISO感度:
200
GPS:
緯度: 35° 43' 44.4" N
経度: 139° 45' 57.02" E

二人が同じお寺に眠って以来、年に数回お墓参りに来ている。いつものように花束と線香を供え、墓石に水をあげる。善さん、はなさん、仲良く暮らしていますか。今日は良い写真が撮れますように。また来ます。手を合わせ、浅草へ向かった。

レンズ:
EF24-70mm F4L IS USM
Tv(シャッター速度):
1/200
Av(絞り数値):
9.0
ISO感度:
200
GPS:
緯度: 35° 43' 44.56" N
経度: 139° 45' 58.63" E

田原町駅を出ると、焼きそばの香ばしい匂いが鼻をくすぐる。仏具屋、レコード屋、和菓子屋。当時とほとんど同じ情景。通りからはスカイツリーが見晴らせる。善さんが生きていたら、自転車に乗って毎日見に行くに違いない。広角側で引きの絵も十分に撮れた。

レンズ:
EF24-70mm F4L IS USM
Tv(シャッター速度):
1/160
Av(絞り数値):
20
ISO感度:
100
GPS:
緯度: 35° 42' 40.8" N
経度: 139° 47' 31.78" E

ご近所の中野さん。体の不自由な奥さんと手を繋ぎ、散歩をしている時に知り合った。亡くした今でも奥さんを心から大事に想っている。話の途中、仏さまにあげる良い酒を買ったと一升瓶を見せてくれた。見せる相手が悪かった。二杯目のお茶がコップ酒に代わる。

レンズ:
EF24-70mm F4L IS USM
Tv(シャッター速度):
1/640
Av(絞り数値):
4.0
ISO感度:
12800
GPS:
緯度: 35° 42' 45.01" N
経度: 139° 47' 28.21" E

「のろけにのろけて。」そう言い残し、二階から抱えてきたアルバムにはさまれた、若い頃の奥さんの写真。「十一も年上でね、惚れさせられちゃったという感じかな。大事な女房でしたね。今になってみれば余計そう思う。」照れながら、満面の笑みでそう呟いた。

レンズ:
EF24-70mm F4L IS USM
Tv(シャッター速度):
1/320
Av(絞り数値):
4.0
ISO感度:
3200
GPS:
緯度: 35° 42' 44.4" N
経度: 139° 47' 27.6" E

長屋で「甚平」を営む千葉さんご夫婦。江戸っ子の気風の良さで、皆に親しまれている。二人へもよくお裾分けをくださった。夫婦円満の秘訣は、「相手を思いやる気持ち。夫婦でも感謝の気持ちを忘れないことかな。」ちゃんと生きてきた大人の言葉が心に届く。

レンズ:
EF24-70mm F4L IS USM
Tv(シャッター速度):
1/160
Av(絞り数値):
5.6
ISO感度:
12800
GPS:
緯度: 35° 42' 45.6" N
経度: 139° 47' 27.6" E

千葉さんの料理は幸せになる。何を食べても美味しいし、仕入れにこだわる刺身の鮮度も最高。とっさのマクロ撮影もレンズ交換なしに対応できて、このレンズの良さを実感できた。

レンズ:
EF24-70mm F4L IS USM
Tv(シャッター速度):
1/640
Av(絞り数値):
4.5
ISO感度:
25600
GPS:
緯度: 35° 42' 43.8" N
経度: 139° 47' 30.02" E

今日、アメリカから帰国したばかりという常連さん。「ここはいいよ、情があって。いい店はね、人も店もあったかい。だから人が集まる」女性の常連さんも入って賑やかに。千葉さんは三社祭で頭をつとめるほどの祭好き。女将さんも粋な浴衣姿がよく似合う。

レンズ:
EF24-70mm F4L IS USM
Tv(シャッター速度):
1/160
Av(絞り数値):
8.0
ISO感度:
20000
GPS:
緯度: 35° 42' 45.01" N
経度: 139° 47' 28.81" E

お孫さん達が夕飯を食べに来た。料理人の真剣な顔が一気におじいちゃんの顔になる。男前の浅草っ子に成長した中学二年の大和くん。私が初めて会ったのは幼稚園の頃。鮭にたらこに卵かけご飯。おじいちゃんの愛情こもった料理に、妹の雅ちゃんと「お代わり!」

レンズ:
EF24-70mm F4L IS USM
Tv(シャッター速度):
1/100
Av(絞り数値):
5.0
ISO感度:
25600
GPS:
緯度: 35° 42' 44.4" N
経度: 139° 47' 28.42" E

夕飯を終え、外へ遊びに出た子供たち。私もEOS 6Dを持って後を追う。子供って本当に逞しい。今ある環境のなかで、明るく生きている。暗い夜でも感度を上げれば手持ち撮影ができる。速い動きの一瞬も写せて、超高感度ならではの表現の広がりを感じた。

レンズ:
EF24-70mm F4L IS USM
Tv(シャッター速度):
1/40
Av(絞り数値):
6.3
ISO感度:
25600
GPS:
緯度: 35° 42' 43.8" N
経度: 139° 47' 30.02" E

常連さんに連れられて、近くにあるバー「フラミンゴ」へ。浅草、今夜の締めくくりに、一期一会の扉を押した。

レンズ:
EF24-70mm F4L IS USM
Tv(シャッター速度):
1/20
Av(絞り数値):
4.0
ISO感度:
25600
GPS:
緯度: 35° 42' 43.62" N
経度: 139° 47' 28.43" E

ジャズが心地よく響く趣ある店内。「バーは癒されに来る場所」そう常連さんは言う。穏やかな微笑みをたやさないマスター。「ここに店を始めて五十年。自分の店を愛することで、今まで続けて来られた気がします。」丁寧な仕事に夢中でシャッターを切った。

レンズ:
EF24-70mm F4L IS USM
Tv(シャッター速度):
1/15
Av(絞り数値):
5.6
ISO感度:
25600
GPS:
緯度: 35° 42' 43.62" N
経度: 139° 47' 28.43" E

話が弾み、マスターに渡された小冊子。幼少の頃からの写真を綴ったという。はからずも中野さんとマスターから見せて頂いた想い出の写真。それらは時を越え、記憶を呼び起こし、今に生きる力を与えてくれるのだろう。静かにNat King Cole ”Love is The Thing” が流れた。

レンズ:
EF24-70mm F4L IS USM
Tv(シャッター速度):
1/100
Av(絞り数値):
4.0
ISO感度:
25600
GPS:
緯度: 35° 42' 43.62" N
経度: 139° 47' 28.43" E

ふるさとをEOS 6Dでとらえて。

人がある場所へ向かうのは、そこに会いたい人がいるからだろう。誰かに会いに、あるいは誰かと過ごした記憶に会いに、人はある場所へ向かう。この旅で、私は懐古的な気分に浸るのではなく、今の自分が感じる「ふるさと」浅草を写したいと思った。そして今回の撮影で二つだけ自分に課したことがあった。ひとつはレンズ一本で行くこと。標準ズームにマクロ機能が付いたこのレンズは、接写が好きな私には魅力的だった。特別なことはしない。このレンズで出来ること、撮れるものを大事にしたい。もうひとつは、できるだけ写真を見ないこと。その場で写真を確認できるのはデジタルカメラの良さなのだけれど、今回は原点に還りフィルムカメラの気分で撮りたかった。

谷中のお墓参りから始まって、最後は浅草のバーで終電まで飲んだ。すべて一期一会の、人との出会いが結んでくれた一日だった。これは同時に、写真が運んでくれた出会いであったとも感じる。写真という要素がなければ、見過ごした感動が多く存在しただろう。
そして、偶然の連続に「今、生きている」という思いを新たにした。人情をたっぷり吸った「ふるさと」浅草。今回の旅でもっと好きになった。

古賀 絵里子
古賀 絵里子
1980年生まれ。上智大学フランス文学科卒業
フリーランスの写真家として広告写真や講師等で活動しながら、
2009年より和歌山県高野山へ通い新作撮影を続けている。東京都在住。
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