GOTO AKIのふるさと Vol.09 「水の記憶 光の記憶」鳥海山

世界一周の旅から20年。
大人になってから訪れる京都が味わい深いように、日本という風景そのものが、いま僕の心に語りかけてくる。

「ふるさと」の撮影で、真っ先に頭に浮かんだのは、父の出身地、山形県、鳥海山。
神奈川県で生まれ育った僕にとっては田舎の原風景。
出身地でないにも関わらず、「帰って来たな。」と感じる数少ない場所のひとつだ。

「あれはどこだったのだろう?」
子供の頃の記憶は曖昧で、夏の眩しい光と断片的な思い出だけが輪郭をもたないまま残っていた。

心のどこかで気になりながらも、長い間その想いが膨らんでくるのを待っていた。
昔、大人たちが言っていた「田舎には何もない。」という言葉。今だから言える「そんなはずはないだろう」と。

父の実家の前には、今も鳥海山の雪解け水が流れている。
冷たく透明な水を触ったあの日を求めて、旅へ出た。

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Vol.09 GOTO AKI

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酒田に住む従兄が言う。「お客さんが来たらここに連れて行くんだ。」何も無い田んぼを抜け、覆い茂る樹木の中へ入ると、突如、神秘的なエメラルドグリーンの色と光が広がっていた。静かな池の畔で、蝉の鳴き声が遠い記憶を呼び起こす。

レンズ:
EF17-40mm F4L USM
Tv(シャッター速度):
1/80
Av(絞り数値):
16
ISO感度:
3200
GPS:
緯度: 39° 4' 19" N
経度: 139° 53' 36" E

丸池の水は、鳥海山からの湧水100%。純度が高く、池の中の木々が長い期間腐らずにいるという。水深5メートルの池を観察していると、底から水が沸き上がる様子を観ることができる。心を誰かに触れられたような、何かがざわめく瞬間。

レンズ:
EF70-200mm F4L IS USM
Tv(シャッター速度):
1/100
Av(絞り数値):
4.5
ISO感度:
1600
GPS:
緯度: 39° 4' 18" N
経度: 139° 53' 27" E

撮影日、日本海側が集中豪雨に見舞われた。鳥海山の登山を諦め、麓へ車を走らせた。途中立ち寄ったのが数河の池。誰もいない静寂に包まれた空間に幾重にも重なる雨の音。人に表情があるように、雨の風景にも顔がある。

レンズ:
TS-E17mm F4L
Tv(シャッター速度):
1/20
Av(絞り数値):
13
ISO感度:
800
GPS:
緯度: 39° 0' 29" N
経度: 140° 2' 0" E

数河の池を眺めながら、幻想的と呼ばれる写真に思いを巡らせていた。雨が降り、池に注ぎ、山に染み込み、時を経て大地へ湧き出す水。写真は時間を写す鏡。心を奪われるままに静かな時が過ぎて行く。

レンズ:
EF24-105mm F4L IS USM
Tv(シャッター速度):
13
Av(絞り数値):
16
ISO感度:
100
GPS:
緯度: 39° 0' 29" N
経度: 140° 2' 0" E

子供の頃、背伸びをして眺めていたひまわり。夏休みの記憶を辿りながらひまわり畑を歩いていると、何故か人に見られているような不思議な感覚が訪れる。「ここだよ。」と何百ものひまわりから目が合ったこの子を一枚。

レンズ:
EF200-400mm F4L IS USM エクステンダー 1.4×
Tv(シャッター速度):
1/160
Av(絞り数値):
9.0
ISO感度:
400
GPS:
緯度: 38° 59' 32" N
経度: 140° 0' 19" E

鳥海山は山形県と秋田県をまたがる信仰の山。鳥海山北部にある獅子ケ鼻湿原にはブナの原生林が広がる。湿原にはブナと共生するオオカメノキの葉が、光とともに緑の屋根を作っている。虫に食われてぽっかりあいた穴に、小さな命を感じる。

レンズ:
EF24-70mm F4L IS USM
Tv(シャッター速度):
1/60
Av(絞り数値):
11
ISO感度:
800
GPS:
緯度: 39° 9' 28" N
経度: 140° 1' 17" E

「湧水・葉・木・土」と森に入ればふつうに出会える風景に、光というスパイスが加わり、二次元の写真に重層的な空間を作り出す。輪郭があるようでないような森の中、記憶と重ね合わせて、視線の旅をする。

レンズ:
EF24-70mm F4L IS USM
Tv(シャッター速度):
1/125
Av(絞り数値):
16
ISO感度:
25600
GPS:
緯度: 39° 9' 26" N
経度: 140° 1' 21" E

田んぼの脇に咲いていたヒメイワダレソウの花。懐かしい想いでシャッターを切ったが、後で調べると90年近く前に東南アジアや南米から旅をして来た外来種ということがわかった。当たり前に咲いている花も、沈黙の旅人。

レンズ:
EF24-70mm F4L IS USM
Tv(シャッター速度):
1/645
Av(絞り数値):
5.6
ISO感度:
400
GPS:
緯度: 39° 9' 29" N
経度: 140° 1' 23" E

30年ぶりに訪れた玉簾の滝。周囲に人がいなかったためか、滝の迫力を一身に受け止め、畏怖にも似た感覚が沸き上がる。「ただの滝」だと思っていた子供が、時を経て、自然を愛でるようになっていた。

レンズ:
EF17-40mm F4L USM
Tv(シャッター速度):
2.5
Av(絞り数値):
11
ISO感度:
125
GPS:
緯度: 38° 59' 50" N
経度: 140° 3' 12" E

滝に到着すると、最初はその音の迫力に圧倒されるばかりだが、しばらく滞在しているとその音が意識から外れ、静寂に変わる。ゆっくり滝を観察すると、刻一刻と変化を続ける水しぶきの表情に目が吸い寄せられていく。ふと人の気配を感じて振り向いたら年配のご夫婦が優しい表情で見守っていた。

レンズ:
EF70-200mm F4L IS USM
Tv(シャッター速度):
1/800
Av(絞り数値):
10
ISO感度:
8000
GPS:
緯度: 38° 59' 49" N
経度: 140° 3' 13" E

霧で数メートルの先も見えない鳥海山から、遊佐町へ降りて来た。夕方、厚い雲の間から顔を覗かせた太陽の光。光を引き立てるのはいつでも影だ。

レンズ:
EF200-400mm F4L IS USM エクステンダー 1.4×
Tv(シャッター速度):
1/4000
Av(絞り数値):
16
ISO感度:
400
GPS:
緯度: 39° 4' 29" N
経度: 139° 52' 12" E

遊佐の沖合へ視線を送ると、光と影が手を取り合って移動しているように見えた。風が吹いて波頭が立ち、光が注いで海の表情を瞬間に形作っている。日常的な光景の中にも地球規模の運動を感じながら撮ると、また別の表情がイメージとして立ち上がる。

レンズ:
EF200-400mm F4L IS USM エクステンダー 1.4×
Tv(シャッター速度):
1/1600
Av(絞り数値):
16
ISO感度:
400
GPS:
緯度: 39° 4' 32" N
経度: 139° 52' 11" E

鳥海山の登山口の一つである象潟口で、雲の行方を追っていた。ほんのわずかの間、霧が晴れて万年雪が見えてきた。
さぁ登ろうと思ったところ、地元の登山ガイドさんに「今日はやめておいた方がよい。」と言われて断念。15分もしない内に空は雲に覆われ、豪雨がやってきた。

レンズ:
EF24-105mm F4L IS USM
Tv(シャッター速度):
1/800
Av(絞り数値):
11
ISO感度:
400
GPS:
緯度: 39° 6' 46" N
経度: 139° 59' 1" E

鳥海山の湯ノ台登山口近くに残る万年雪の上を歩いてみた。真夏に雪を触れるというだけで興奮し、雪の上へ飛び出した瞬間、滑ってひっくり返った。目の前の氷には葉だけでなく気泡も閉じ込められ、狭い世界に、星空のような広い空間を感じた。

レンズ:
EF24-70mm F4L IS USM
Tv(シャッター速度):
1/80
Av(絞り数値):
8.0
ISO感度:
200
GPS:
緯度: 39° 4' 9" N
経度: 140° 2' 47" E

今回の旅は、悪天候で鳥海山の山頂へは登ることができなかった。寝転んで万年雪の斜面を観ていたら、雪の形が、見えるはずだった山々の尾根に見えて来て、ついつい撮影。
神奈川で育った僕は、雪は特別なものという意識が今も強く残っている。

レンズ:
EF24-70mm F4L IS USM
Tv(シャッター速度):
1/500
Av(絞り数値):
10
ISO感度:
400
GPS:
緯度: 39° 4' 8" N
経度: 140° 2' 46" E

海抜0メートルから、1100メートルへ一気に登る山岳道路、鳥海ブルーライン。ブナ林が生い茂るエリアへと一気に登ったものの視界は数メートル。これはこれで美しいのではと、宙を漂う霧に水を感じてシャッターを切り続ける。

レンズ:
EF17-40mm F4L USM
Tv(シャッター速度):
1/80
Av(絞り数値):
5.6
ISO感度:
800
GPS:
緯度: 39° 6' 6" N
経度: 139° 56' 52" E

湯ノ台登山口へと伸びる公園道路に「のぞき」というポイントがある。そこから霧に包まれた鶴間池を観察していると、雲の隙間からディフューズされたやわらかな光が降りて来た。晴ればかりが天気ではない。神秘の湖と言われる鶴間池の意味を知る。

レンズ:
EF70-200mm F4L IS USM
Tv(シャッター速度):
1/500
Av(絞り数値):
5.0
ISO感度:
200
GPS:
緯度: 39° 3' 53" N
経度: 140° 2' 59" E

自然の中で、何でもなさそうな風景に目線を奪われることがある。どうやってそうなったのか、これからどうなっていくのか、目に見えない時間に想いを馳せるとき、そこは写真で輝く風景だ。

レンズ:
EF70-200mm F4L IS USM
Tv(シャッター速度):
1/100
Av(絞り数値):
5.6
ISO感度:
400
GPS:
緯度: 39° 9' 16" N
経度: 140° 0' 57" E

鳥海山はスポンジのような多孔質の地質で雪や雨が染み込みやすい。今、目前に涌き出す水は、ぼくが生まれる40年も前に地中へ入り込み、80年もの時を経て、濾過されて出て来たものだという。物理的な横軸の移動に時間の移動が重なり、心を揺さぶる光景として現れた。

レンズ:
EF200-400mm F4L IS USM エクステンダー 1.4×
Tv(シャッター速度):
1/320
Av(絞り数値):
5.6
ISO感度:
3200
GPS:
緯度: 39° 9' 18" N
経度: 140° 1' 9" E

写真作品をつくりはじめた頃はモノクロのストリートスナップで、その頃から被写体との偶然的な出会いを大事にしている。山の中でグラフィカルな光と造形のバランスに出会い、緑の中に緑を観る。

レンズ:
EF200-400mm F4L IS USM エクステンダー 1.4×
Tv(シャッター速度):
1/60
Av(絞り数値):
4.0
ISO感度:
400
GPS:
緯度: 39° 9' 37" N
経度: 140° 1' 4" E

鳥海山の北にある獅子ケ鼻湿地帯には多様なブナ科の植物が群生している。アカガシのつるっとした葉の表層にスポットライトが差し込み、命を讃えているように感じた。光と影のコントラストが写真に強さを与えてくれる。こんな光を観ていたはずだが、記憶なし。

レンズ:
EF24-70mm F4L IS USM
Tv(シャッター速度):
1/40
Av(絞り数値):
9.0
ISO感度:
200
GPS:
緯度: 39° 9' 23" N
経度: 140° 1' 21" E

約2600年前、鳥海山の山体崩壊で流れ出した岩石の堆積層が、獅子ケ鼻湿原の土台となっているという。地球的な時間軸の中で、この水が循環し続けていることを思うと気が遠くなる。湧水100%の水は、年間を通じて水温が10度以下。少し手を入れているだけで、冷たいから痛いに変わる。

レンズ:
TS-E17mm F4L
Tv(シャッター速度):
1/800
Av(絞り数値):
5.6
ISO感度:
1600
GPS:
緯度: 39° 9' 33" N
経度: 140° 0' 53" E

山は毎日曇りと雨。天候を伺いながら、山荘に泊まっていた。遠景が見えないので、山荘前に咲くユリを眺めていた。花の色も形も美しいが、水滴が小さな存在感を引き出している。開く前の花も、何かいいなぁ。

レンズ:
EF24-70mm F4L IS USM
Tv(シャッター速度):
1/200
Av(絞り数値):
4.5
ISO感度:
1600
GPS:
緯度: 39° 1' 49" N
経度: 140° 1' 57" E

100%湧水の牛渡川は、水があるのかと思う程透明。
水中に咲く可憐な花は、清流に咲く夏の花、バイカモ(梅花藻)。地元の方が言うには、「この川は昔はもっと透明だった」とのこと。そんなこと言われると観たくなるではないか。

レンズ:
EF24-70mm F4L IS USM
Tv(シャッター速度):
1/50
Av(絞り数値):
11
ISO感度:
400
GPS:
緯度: 39° 4' 17" N
経度: 139° 53' 33" E

湿原の中でオオカメノキの葉を発見。大小さまざまな円盤が宇宙空間に浮かんでいるようにみえて、子供の頃に観たアニメを思い出していた。遠くへ行ってしまう「銀河鉄道999」、遠くから来る「ウルトラマン」など、振り返るとみんな旅と繋がっている。

レンズ:
EF24-70mm F4L IS USM
Tv(シャッター速度):
1/250
Av(絞り数値):
16
ISO感度:
12800
GPS:
緯度: 39° 9' 23" N
経度: 140° 0' 55" E

森の中へ入る時は心の中で「お邪魔します。」と必ず挨拶するようにしている。だから何だという訳でもないが、つい笑ってしまいそうな、いい奴と出会った時には「ありがとう。」

レンズ:
EF70-200mm F4L IS USM
Tv(シャッター速度):
1/2500
Av(絞り数値):
5.6
ISO感度:
25600
GPS:
緯度: 39° 9' 31" N
経度: 140° 1' 6" E

夕方の森は暗い。遊佐町の一ノ滝から二ノ滝へと登っていくと、水の音と虫の声だけが体を包む。子供の頃感じた「背後が怖い。」という根源的な恐怖を思い出しながら。

レンズ:
EF17-40mm F4L USM
Tv(シャッター速度):
2
Av(絞り数値):
20
ISO感度:
125
GPS:
緯度: 39° 3' 26" N
経度: 139° 59' 29" E

神奈川県の厚木で育った僕は、空を飛ぶ戦闘機でアメリカを知り、父のふるさと、山形の海では当時のソビエトを知った。この海で聞いた「この冷たい風はソ連の方から来ているんだよ。」という父の一言は今も脳裏に焼き付いている。その後の旅は、だから必然。

レンズ:
EF17-40mm F4L USM
Tv(シャッター速度):
1/25
Av(絞り数値):
16
ISO感度:
100
GPS:
緯度: 39° 3' 42" N
経度: 139° 52' 12" E

父の実家には、曾祖父母の肖像画が掛かっている。僕のルーツは山形と新潟で間違いなく農民出身だ。田んぼをみるとほっとするもの。

レンズ:
EF24-105mm F4L IS USM
Tv(シャッター速度):
1/160
Av(絞り数値):
5.0
ISO感度:
3200
GPS:
緯度: 38° 59' 29" N
経度: 139° 57' 32" E

ふるさとをEOS 6Dでとらえて。

撮影最後の夜、酒田の従兄の家に泊まり、撮れたての写真を数枚見てもらった。

「うわぁ~、綺麗だの~。これ遊佐?」

そう、子供の頃聞いた「田舎には何もない。」という大人たちの言葉は、あまりにも豊かな風景が身近すぎて「観えていなかった」だけなのかもしれない。水と光の溢れる大地、鳥海山を前に「こんな綺麗な場所で遊んでいたんだな。」と、「ふるさと」を再発見して驚いたのが他でもない僕自身だ。

旅先の撮影で一番大切にしているのが「初期衝動」。撮りたいと思った瞬間に反応してくれるカメラが良きパートナーとなる。EOS 6Dは、軽量で上位機種と同じように操作性がよく、暗い場所でもAFの合焦が素早い。驚いたのが夕方から夜にかけての手持ち撮影。暗い山道でもISO25600の高感度で風景を緻密に描写。以前より一時間は長く撮影できるようになった実感で、ストリートスナップのように反応しながら撮るという軽快なスタイルで風景を楽しむことができた。旅をしながら決心した。今回の撮影をスタートに鳥海山をまた撮りに来よう。次は秋。

GOTO AKI
GOTO AKI
1972年川崎生まれ。1993-94年世界一周。上智大学、東京綜合写真専門学校卒業。1995年丸紅入社、天然ガスパイプラインの仕事でトルクメニスタン、イラン、ウズベキスタンへ。現在、ANA機内誌「翼の王国」「SCAPES」など旅・写真雑誌を中心に活躍の他、キヤノンカレンダーの撮影、日本を地球的な視点で捉えた「LAND ESCAPES」の続編を撮影中。 個展「LAND ESCAPES」(キヤノンギャラリー 2010)「LAND ESCAPES 2 -Japan-」(同2013)。写真集「LAND ESCAPES」(traviaggio publishing)。映像インスタレーション「water silence」(IID・佐賀城・逗子メディアアートフェスティバル)。受賞 平間至写真賞ハミングバード賞(2005)

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