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必ずしも期待に応えなくていい当たり前のことを表現する大切さ

そもそも服部さんが「あるがまま」の魅力に気づいたのは、学生時代のころ。カメラを趣味にしていた先輩の影響で写真を撮り始め、最初に興味を抱いたのは報道写真だった。
「先輩が現地にベルリンの壁の崩壊を現地に撮りに行っていて、その写真を見たときに、衝撃を受けました。写真という方法なら、ニュースでしか知らない世界を、自分の手で人に伝えることができる。自分もそんな写真を撮ってみたい、そう思うようになったんです」

そうして少しずつドキュメンタリーフォトの世界に足を踏み入れ、世界を代表する国際的な報道写真家のグループ『マグナムフォト』への憧れもあって、アイルランドや内戦終了間もないユーゴスラビアへと長期撮影へ。ところがそこで服部さんははっと気付いたという。
「そこで生活する人々の暮らしや文化とか、どこへ行っても僕が撮っているのって、何気ない場面だったんですよね。ただそれで、当たり前のことを当たり前のように撮るという表現方法がボクは好きなんだとわかったんです」

『ただのいぬ。』に学ぶ飼い主が信じるべき写真の価値

「ボクにとって写真って不思議なものなんです。あんまり肩ひじ張って狙ってしまうと、それでは評価されなかったり。逆に、ただただ純粋になったら、予期せぬ反応をもらえたり。写真は正直で伝わりやすいものだから、その可能性は強大なのでしょうね」あるがままを大事にする服部さんが信じているのは、写真は伝わるということ。ともすると犬の写真は、「かわいい」や「ステキ」、「賢い」や「すごい!」を狙ってチカラが入ってしまいがちだ。しかし服部さんが『ただのいぬ。』で示したのは、特別な状況でなくても、日々の暮らしの中の何気ない瞬間に、人の心を動かす写真は無数に存在するということ。常に人とともにある犬という存在がドキュメンタリーの対象としても純粋に素晴らしいということなのだ。

では、愛犬にとってのドキュメンタリーとはなんだろうか。朝何時に、どんなテンションで起こしにくる? 「散歩」という声に、どんな顔で反応し、留守番中は、どこでどんな格好で寝てる? 帰ったときのお迎えは? あなたの好きな愛犬のしぐさは? カラダのなかで好きなところは? 残しておきたい幸せな時間は? それは、飼い主にとって本当に残したい写真にも通ずるのではないかと思う。

「写真には、ありのままを映し出せるっていう、文章や絵にはないチカラがあるんです」15年以上経ついまでも現在動物保護活動にかかわる人にとって心の指針であり続けている『ただのいぬ。』だが、その理由を写真のチカラだと語る服部さん。もしそれが本当なのだとしたら、愛犬家なら誰もがその言葉を信じてみたくなるはずだ。

愛犬のこと。愛犬のいた時間。そのすべてを、あるがままに残したい。
それこそが、すべての愛犬家に共通の願いなのだから。

プロフィール

服部貴康(はっとりたかやす)カメラマン

1970年、愛知県生まれ。大学時代より独学で写真を学び、雑誌専属カメラマンを経て、現在はフリーで活動している。2001年、保健所や動物愛護センターに収容され、飼い主が迎えに来なかった犬たちを撮る「ただのいぬ。プロジェクト」を始動。クリエイテイブディレクターの小山奈々子とともに、『ただのいぬ。』(プエブックス刊)を発刊するほか、全国で展示会を行う。

【Instagram】@takayasuhattori83
【Facebook】@Takayasu Hattori
【Web】http://takayasuhattori.com/
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