"S"の記憶

41

会期 : 2008.2.15 - 2008.3.25

第41回展 大石 芳野 
「黒川能の里 - 庄内に抱(いだ)かれて -」

山形県鶴岡市(庄内)に500年にわたって伝わる民俗芸能で、国の重要無形民族文化財に指定されている「黒川能」。
ドキュメンタリー写真家の大石芳野氏は、この「黒川能」に魅せられ、10年間庄内へと通い、郷土芸能を大切に守り伝える人々の生活を撮影してきた。薄暗い民家の座敷で能や狂言を演じる里人、先祖重代保存・使用されてきた能面、「黒川能」を育んだ雪深い山里の風景など、大石氏がとらえた作品約50点を展示。

  • 黒川能の里 - 庄内に抱かれて -
  • 黒川能の里 - 庄内に抱かれて -
  • 黒川能の里 - 庄内に抱かれて -
  • 黒川能の里 - 庄内に抱かれて -
  • 黒川能の里 - 庄内に抱かれて -
  • 黒川能の里 - 庄内に抱かれて -
  • 黒川能の里 - 庄内に抱かれて -
  • 黒川能の里 - 庄内に抱かれて -
  • 黒川能の里 - 庄内に抱かれて -
  • 黒川能の里 - 庄内に抱かれて -

作家メッセージ

黒川の里には五百年もの間にわたって伝承され続けてきた能がある。それを観てきたわたしは、例えていえば障子に開いた小さな穴から覗いた程度にしか分かってはいないのだが、不思議な魅力の虜になった。ひとつには演じる人びとが総て里人であることが大きかった。
雪が降りしきる2月1日の王祇祭では、当屋となった民家の座敷に設置された舞台で、一晩中、能や狂言が演じられる。そのことにわたしは驚嘆し身震いを覚えた。舞台の照明は日頃、家族が使っている電灯と何本もの太い蝋燭だけ。薄暗いともいえるその舞台で、歴史ある面や装束をつけた「農民」が粛々と舞う。演じる相手はわたしたち人間ではなく大地の神である。
民家の舞台をぎっしりと取り囲んだ人たちに交じって能を見つめていると、面の喜怒哀楽にこれまで行き合ってきた戦禍のなかの子どもや女性たちが重なっては消え、また現れたりする。日本の原風景のような暮らしや風土、伝統が息づく雪深い黒川の一軒家にいながら、そこにいることを忘れそうな錯覚にたびたび陥った。

村の祭りや行事に深く関わったことがないままわたしは歳を重ね、今でも知識に乏しい。それでも1997年からこの10年間、引き寄せられるようにして庄内一円に足を運んできた。
写真は黒川とごく周辺の集落のほか、庄内を広く歩くなかで出会った人びとの姿や暮らしの一端、風土などを並べた。日本中の随所に存在する似たような光景、暮らしや習慣、伝統などをそこに重ね合わせながら見ていただけたらと願っている。

ここに展示した写真は総てポジ・カラー・フィルムにより撮影したものである。本来ならば印画紙でプリントするのだが、このたび、展覧会場に合わせてキヤノン・インクジェットプリンターでプリントした。銀塩とは違う調子の仕上がりだが、未来へ向かう技術の最先端のひとつとして感じ取っていただければと思っている。

大石 芳野 (おおいし よしの)

写真家。東京生まれ。日本大学藝術学部写真学科卒業。
学生時代に行ったベトナムに強い衝撃を受け、卒業後ドキュメンタリー写真家として精力的に世界を単身で取材を行う。ドキュメンタリー写真に対して最高の愛情と敬意をもって記録し続けている。
1982年、写真集(無告の民)で日本写真家協会年度賞受賞。
1989年、「夜と霧は今」で日本写真家協会年度賞を受賞。
1993年度芸術選奨、日本ジャーナリスト会議奨励賞。
2000年より東京工芸大学教授。
2001年、「ベトナム凜と」で土門拳賞を受賞。
2007年、紫綬褒章受章。
主な著書に、『隠岐の国』(くもん出版 1984年)、『沖縄に活きる』(用美社 1986年)、『ベトナム凜と』(講談社 2000年)、『子ども 戦世のなかで』(藤原書店 2005年)などがある。

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