作家インタビュー

市橋 織江

市橋 織江

Orie Ichihashi

第96回展「Interlude」

Interlude

Interlude

日本語で【幕間】や【間奏曲】を意味する「Interlude」。市橋織江は、普通なら脚光を浴びない幕間や間奏曲のような光景にも、誰にも気付かれない物語が潜んでいると語る。今回は、市橋がこれまでに撮りためてきた作品の中から、そうした物語が感じられる作品を集めた写真展「Interlude」の一部を紹介する。

物事のはざまにあるもの

写真の魅力にはさまざまなものがありますが、私が普段から感じているのは、“一瞬”を切り撮れるということです。ただ、その“一瞬”は、何も特別な瞬間である必要はありません。

写真に写し止めた“一瞬”のことを、「決定的瞬間」とか、「ある物事が凝縮された瞬間」と表現することがありますが、私が求めているのは、そうした意味のある瞬間ではなく、旅をする中でふと目に止まった光景や、流れ行く時間の中の何げないひとときです。だから、私は、ある場所と対峙して、じっくり撮るという撮り方はせず、自分がその場所を通り過ぎる間の、ほんの一瞬をカメラに収め、すぐに立ち去ってしまうという撮り方をしています。

  • Interlude
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そういう意味では、私が撮り続けているのは、たとえ被写体が風景だとしてもスナップ写真であり、カメラで記録したいのは、私が通り過ぎる間に目にした場所の空気や、そこに流れているわずかな時間なのです。そして、それを積み重ねることが、私にとっての写真であり、その一枚一枚が、私の大切な記憶と言えます。

シャッターを切るとき、人は何かに誘発されてシャッターを切るものだと思います。その誘発されるものは、人によってまちまちで、そのときの気分や体調によっても変わるでしょう。私の場合、その一つが「美しいもの」です。もちろん、その美しさは、私なりの解釈なので、ほかの人が同じ光景を見ても、違った印象を抱くかもしれません。それでも、私なりの感覚で、少しでもマイナスの感情を抱くものは、決してシャッターを切ろうとは思いません。

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「偏らない」ということ

また、私が写真を撮るとき、常に意識しているのは、「偏らない」ということです。これを言葉で説明するのは難しいのですが、例えば、目の前の光景を写真にするとき、仕上がった写真が「カッコイイ写真」や「かわいい写真」など、ある言葉でくくれるものになると想像できると、途端にその光景に魅力を感じなくなってしまいます。

ふと気になった光景でも、その場にいる人の服の色でポップな写真になると思ったら、シャッターを切るのを辞め、一度決めたアングルでも、このままだとクールな写真になってしまうと感じたら、少しだけアングルをずらして「クールな写真」という枠にはまらないアングルを探します。
つまり、私が写したいものは、どんなジャンルにも当てはまらない、一言では言い表せない、「はざま」の写真です。カッコイイ写真でもかわいい写真でもなく、ポップでもクールでもない、「はざま」。もちろん、写真にしたとき、「はざま」になるかどうかは、自分だけにしか分からない微妙な差異です。ただ、そのわずかな差異が、私にとって、とても重要なことなのです。

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物語と物語の間に

今回掲載した作品は、写真展『Interlude』の一部ですが、この写真展では、これまでに撮影してきた作品の中から、未発表のものを多く選びました。その中には、プリントしたときに、わずかな違和感を覚えたものがあります。撮影時とプリント時の気持ちの違いから生じるズレや、撮った自分でさえ「何でこの写真を撮ったのだろう」と思った写真。けれど、それらの作品も、シャッターを切るときは、自分がよいと思った瞬間を切り撮ったはずです。それならば、撮ったときの自分を信じてみようと、違和感のある作品を見直してみました。そうして選んだ作品を中心にまとめると、今までの写真展と写っているものは変わらないのに、少し印象の異なる展示になりました。

タイトルの『Interlude』とは、日本語に訳すと【幕間】や【間奏曲】という意味です。これまでに発表してこなかった作品たちは、言ってみれば、物語と物語の間、つまり「幕間」にあるものたちなのかもしれません。そして、普段は脚光を浴びるわけでもなく、取り上げられもしないような、それらのものでも、よく見ると、そこにも物語があり、多くの人や、自分でさえも見落としていた“一瞬”が写っているのです。

物語と物語の間にあり、どんなジャンルにも当てはまらない「はざま」の一瞬。それは、決定的瞬間でも、何かが凝縮された瞬間でもなく、流れ行く時間の中のほんのひとときですが、私の記憶を彩る、かけがえのない一瞬です。

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市橋 織江「Interlude」

2014/6.19(木)ー7.28(月)

展示情報

市橋 織江

市橋 織江

1978年、東京生まれ。
2001年に独立後、広告や雑誌、アーティストの写真などを幅広く手がける。主な写真集に「PARIS」「Gift」「BEAUTIFUL DAYS」などがある。
2014年冬に「市橋織江展 2001-2013」を彫刻の森美術館にて開催。
映画「ホノカアボーイ」(2009年)の映像撮影、TVCMなどムービーカメラマンとしても活動。

[ 掲載記事について ]
こちらの記事はキヤノンフォトサークル月刊会報誌「moments」2014年7月号に掲載されたものです。

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