作家インタビュー

内藤 さゆり

内藤 さゆり

Sayuri Naito

第98回展「Once in a Blue Moon」

Once in a Blue Moon

Once in a Blue Moon

【ごくまれなこと】を意味する慣用句「Once in a Blue Moon」。 今年の3月、内藤さゆりはロンドンの街を訪れ、そこでさまざまな光と出会った。そして、いくつもの光を集めた先に「Once in a Blue Moon」があると感じた。今回は、内藤がロンドンを旅して拾い集めた、さまざまな光に彩られた街のポートレートを紹介する。

街に残る人の気配を探して

大気中のちりの影響で月が青く見える現象や、ひと月に2度現れる満月のことなどを指す、“Blue Moon”。そこから転じて、【ごくまれなこと】を意味する慣用句となった、“Once in a Blue Moon”。今回の写真展では、この言葉をキーワードにロンドンの街を歩き、そこで出会った、さまざまな光をとらえた作品をまとめました。

Once in a Blue Moon

3月、まだ寒さの残るロンドンは、とても静かで、優しい光に照らされていました。撮影をはじめた当初は、一つ一つの光が、「ごくまれなこと」と感じてシャッターを切っていたのですが、撮り続けているうちに、それぞれの光は違っても、それは決して特別なものではなく、この街にとっては日常なのだと感じました。同時に、たとえ日常的な光であっても、たくさん集めることで、その先に「まれなこと」が見えてくるとも思ったのです。

寛大な街、ロンドン

私は、旅に出てその街を撮影するとき、訪れる前には一般的な情報しか調べません。詳しい歴史や情勢を知り過ぎてしまうと、そのイメージに引きずられてしまうからです。実際に街を歩き、自分の目で見て、肌で感じ取ったことを私は写真で表現したいと思うのです。多くの人と文化が集うロンドンは、すべてを受け入れる寛容さを持っています。不思議なことに、ここに受け入れられた人たちもまた、自然とこの街にふさわしい人間になろうとしているように思えたのです。そして、それが、ロンドンという街の佇まいを形づくっていると感じました。

  • Once in a Blue Moon
  • Once in a Blue Moon

私の作品は、訪れる場所によって、光のとらえ方が変わります。例えば、以前ポルトガルを訪れたときには、光と色彩に溢れた街並みに魅了されながらシャッターを切っていたので、明るく、まぶしさを感じる作品でした。

今回旅をしたロンドンは、大人の雰囲気を感じさせる佇まいに惹かれていたため、しっとりとした、静かな作品が多くなっています。中には、3月とは思えない明るい光のものもありますが、全体を通して、すべての作品に、私が感じたロンドンの街の表情が写り込んでいます。

Once in a Blue Moon

街のポートレート

これまでに、いくつもの街を訪れ、それぞれに趣の違う作品を撮影してきました。しかし、すべてに共通していることがあります。それは、どの写真からも、人が写っていないのに、そこに暮らす人の気配を感じさせるよう構成しているということです。

カメラを構えたとき、もし、その場に人がいたら、私は、その人が通り過ぎるのをずっと待っています。そして、その人が去り、かすかに気配が残るうちに、その光景を写し止める。人がいなくても、人の気配を残す風景。そこに、私は大きな魅力を感じるのです。

Once in a Blue Moon

また、私は、撮影するとき、常に「街のポートレート」を撮るつもりでシャッターを切っています。スナップのように、その場を通り過ぎる一瞬を撮るのではなく、一枚一枚とじっくり向き合い、静かに目の前の表情を写す。

光を見つけたら、ゆっくりと構え、ピントと露出を合わせます。すると、光を見つけたときと、セッティングし終わったときでは、微妙に空気が変わっているように感じるのです。だから、私は、そのままじっと待ち続け、発見したときと同じ空気を感じた瞬間に、シャッターを切ります。

人は写っていないけれど、かすかに人の気配を残す、街のポートレート。これからも、きっとたくさんの旅に出ますが、私の作品の根底にあるスタンスは変わらないと思います。街から感じ取った雰囲気によって光のとらえ方は変わっても、ポートレートを撮るように、一つ一つの景色と向き合い、心地よい空気を感じたときに、静かにシャッターを切る。それが、私の撮影スタイルであり、旅での歩き方なのです。

Once in a Blue Moon
Once in a Blue Moon

内藤 さゆり「Once in a Blue Moon」

2014.9.19 - 2014.10.28

展示情報

内藤 さゆり

内藤 さゆり (ないとう さゆり)

1978年
広島県生まれ。
2001年
フリーランスの写真家として活動開始。
2005年
コニカミノルタ主催フォトプレミオ入選。
2009年
日本の新進作家の一人に選ばれ、東京都写真美術館にて「4月25日橋」を発表。
「出発-6人のアーティストによる旅」と題されたこの展覧会は、2011年までにフランス・パリをはじめ、ポルトガル、メキシコの3カ国5都市で巡回。
2012年
写真集「TRINITY」を発表。同作品は、台北でも展示された。

[ 掲載記事について ]
こちらの記事はキヤノンフォトサークル月刊会報誌「moments」2014年9月号に掲載されたものです。

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