作家インタビュー

森本 美絵

森本 美絵

Mie Morimoto

第106回展「去りながら」

去りながら

去りながら

目の前の光景を切り撮り、ニュートラルでフラットな立ち位置から、時間や場所、感情という制約のない世界を再構築する、森本美絵。今回は、キヤノンギャラリー S 2015 特別展「She’s~3人の写真家。彼女たちの写真展2~」の最後を飾る「去りながら」の中から、その一部の作品を紹介する。

言葉にできないものを写真にして考察する

写真をはじめたばかりのころ、人の作品を見ても、どのようなものがよい写真なのか分かりませんでした。それでも撮ることは好きで、なぜ分からないのに撮るのが好きなのだろうという疑問を抱きつつ、ずっと写真を続けてきました。自分が好きなもの、嫌いなものを客観的に見られるようにはなりましたが、何がよい写真なのかは、今も明確に答えられません。ただ、分からないからこそ、写真を続けていられるのかもしれません。

去りながら

写真の面白いところは、よい意味で自分を裏切るところです。何げなく撮ったものでも、後で見返すと素晴らしい瞬間が撮れていることがあり、一方で、シャッターを切る瞬間は完璧と思えても、それがよい写真になるとは限りません。また、私は、できるだけパンフォーカスで撮るように心掛けているのですが、それは、私がその場で見えていなかったものも写し込むことができるからです。風景の一部に目を留めて切り撮ったものを後で見返したとき、その背景に面白い光景が広がっていたり、画面の隅の人物が予想もできない物語を紡いでいたりして、そうした発見が面白いのです。

私は、自分で撮ったものを眺め、なぜその瞬間に惹かれたのかを考えるために、写真を撮っています。人が見れば、地味な写真と思うかもしれません。何を目的に撮ったのか、何を伝えたいのか、それが分かりやすいとは決して言えないでしょう。しかし、そうした視点とは別のところで、世界を客観的に見つめたいのです。言葉では言えないものだからこそ、写真で表現することで考えられる。逃げ口上に聞こえるかもしれませんが、それが、私の正直な気持ちです。

今回の写真展では、これまで撮り溜めてきたものを、もう一度見つめ直し、今の私がいいと思えるものを集めました。コンセプトを決めて撮ったものではなく、歩きながら目に留まった瞬間をカメラに収め、後で振り返るために拾い集めた写真たち。タイトルの「去りながら」には、過去を振り返るという意味ばかりではなく、自分が前に進んでいるという意味も含まれています。「去る」とは、自分の周りの風景が後ろに流れていくことですが、視点を変えれば、自分が前に動いているように見えるということです。移動しながら、その瞬間瞬間に見えているものを集め、自分の理想の世界を構築する。その世界は、決して美しいものばかりではなく、汚いものもあります。それらを含めて、私が見つめ直し、考えてみたい世界なのです。

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自分の存在を消し、ありのままの世界を見つめる

写真について考えるとき、必ず蘇る一つの記憶があります。それは、小学生のときに遠足でバスに揺られながら見た光景です。前の方の席に座り、何げなくバスの前方を眺めていたら、真っすぐ伸びる一本道にきれいな光が差し込み、そこを一人のおばあさんが歩いていました。とても美しい光景だと感じたのですが、バスの中のみんなはバスガイドさんと一緒に歌っていて、その光景に気付いていません。そのとき、この美しい瞬間を見ているのは自分だけかもしれないと感じたのです。そうした瞬間を写真に収めることを、今も続けているように思います。

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私が撮る写真は、風景写真のように見えるものでも、スナップ写真の感覚でシャッターを切っています。何げなく見える光景でも、いくつもの偶然が重なり合ってできた世界や、その光景と私が出合った瞬間が、私にとっての決定的瞬間であり、残しておきたい、見つめ直してみたいと思える瞬間です。そして、できることなら、その光景を眺めている自分という存在も消し、目の前の風景と自分とが一体化しているような、そこにあるものをありのままにとらえた写真を撮りたいと思っています。

写真を並べるときは、小説や音楽と同じように、起承転結やリズムに変化があった方が、見る人に思いを伝えやすいでしょう。ただ、私は、短い一定のリズムが連続してループする、始まりも終わりもない世界を構築したいと考えています。今回掲載した作品は、撮影時期も場所もバラバラですが、起承転結がないために違和感なく見ることができると思います。それもまた写真の面白さではないでしょうか。撮ったときの感情に左右されて起承転結をつくり、写真家の視点で語りかけるのではなく、写真家が存在しない、ありのままの世界を淡々と並べる。それが、言葉にできないものを写真にするという、私が表現したいものなのです。

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去りながら

森本 美絵 「去りながら」

2015.9.26 - 2015.11.2

展示情報

森本 美絵

森本 美絵(もりもと みえ)

1974年岡山県生まれ
1997年東京造形大学卒業
現在、東京を拠点に活動を行う
主な展覧会に、「pH」MISAKO&ROSEN/2013、「FAMILY COMPLEX」gallery TRAX/2012、「夢の饗宴 歴史を彩るメニュー×現代のアーティストたち」SHISEIDO GALLERY/2008、「共鳴する美術 2008」倉敷市美術館/2008、など

[ 掲載記事について ]
こちらの記事はキヤノンフォトサークル月刊会報誌「CANON PHOTO CIRCLE」2015年10月号に掲載されたものです。

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