作家インタビュー

上田 義彦

上田 義彦

Yoshihiko Ueda

第107回展「Materia 2015」

Materia 2015

写真1

Materia 2015

ポートレートや広告写真のほかランドスケープでも独自の世界を構築し、新たな表現を模索し続ける上田義彦。誰かが写した写真で世界を知るのではなく、自分の目で見つめ直すために世界を巡り、さまざまな自然の姿を写し止めてきた。今回は、写真展『Materia 2015』の中から、その一部を紹介する。

知らないものを知るために自分の目で世界を眺めたい

ランドスケープを撮るようになったのは、写真家として独立してから10年ほど経った1991年のことです。それまでは撮りたいという欲求を抱いたことがなく、たとえ自然の中に入っても、木の幹や葉のディテールばかりに目を向けていました。世の中にはアンセル・アダムスなどランドスケープを専門に撮る写真家が大勢いる。私は、彼らの作品をなぞるようなことはしたくなかったのです。

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ある日、森の中にいた私は、いつものように葉や幹のディテールを見るため、下ばかり向いて歩いていました。しかし、ふと何かの気配を感じ、振り返ったのです。すると、そこに1本の木がそびえ立ち、私はおもむろにシャッターを切りました。その写真は、今までに見てきたランドスケープの写真とは明らかに違う「新しい写真」でした。何と呼べばよいか分からないその写真を、私は「木の肖像」と呼び、同じように気配を感じる瞬間を待ちながら、幾度も森の中を彷徨い歩き、木の肖像を集めました。そして発表したのが、写真3の「QUINAULT」というシリーズです。

Materia 2015

写真2

ただ、それ以降ずっとランドスケープを追い続けていたわけではありません。再び興味を持ちはじめたのは、東日本大震災がきっかけでした。人間に限らず、地球上のすべての命の儚さと、それでも再生する命の強さを知り、そうした思いを抱いた自分が再び森を訪れたらどのような作品が生まれるのか気になったのです。さらに、その興味は森だけに留まらず、海や陸など、この地球のすべてを自分の目で見て、知りたいと考えるようになりました。

ランドスケープを撮るとき、私を突き動かしているものは、知りたいという欲望です。多くの写真家がとらえた作品を見れば、地球上の至るところの自然を知った気になることは可能です。けれどそれはあくまでも、それぞれの写真家の目を通してとらえた世界であり、自分の目で見たら、まったく異なる世界が広がっているかもしれない。他人の撮った世界ではなく、自分の目で見た世界。その場に立ったときに沸き立つ感情の理由。見慣れた景色の中に潜む自分なりの発見。そうした自然の秘密に触れるため、私はカメラを手に世界を巡っています。

知らないもの、知ったつもりになっていたものを眺め、そのときに自然から発せられる気配に敏感に反応する。そうして撮り集めたのが、今回の写真展で発表する作品です。

その場で抱いた感情も写し込む自分なりの「新しい写真」

ランドスケープを撮りはじめたころ、私は大判カメラをよく使っていました。しかし、最近、被写体によってはデジタルカメラの方が適していると感じるものがあります。例えば、写真1のように遠くまで見渡せる眺めのときは、デジタルカメラの方が感覚的にしっくりくるのです。その理由はいまだに分かりませんが、今まで撮れないとあきらめていた光景や状況をデジタルカメラが可能にしてくれました。その喜びは、私にとって計りしれないものがあります。写真2の海中写真はEOS 5Dsで撮影したものですが、フィルムでは人工的な光を当てない限り写せない光景です。もちろん、フィルムにはフィルムのよさもあり、さまざまな被写体を前に、フィルムとデジタルを使い分けられる今の撮影は、以前より数段面白くなっています。

Materia 2015

知らないものを知るために、カメラを手に世界を旅する。その先々で、純粋な感動や驚きなど、さまざまな感情が芽生え、それを写真に収めてきました。

ランドスケープを撮影するとき、私は自然と対峙するのではなく、自然の中に溶け込むことを意識しています。何も考えずに目の前の景色を眺め、自然が発する気配を感じ、シャッターを切りたくなる瞬間を待つ。そして、そのときに芽生えた感情ごと写真に切り撮るのです。そこでは、誰もが美しいと感じる、いわゆる定型の美意識は必要としていません。それよりも、その場に立ち、沸き起こった感情が目の前の景色とともに写し出されているかが重要なのです。

定型の美意識にとらわれ、誰かが見た世界をなぞるのではなく、自分の目で確かめ、体感したからこそ知り得る自然の姿。それをとらえることが、自分なりの「新しい写真」を生み出すのです。

Materia 2015

写真3

Materia 2015

上田 義彦「Materia 2015」

2015.11.14 - 2015.12.12

展示情報

上田 義彦

上田 義彦(うえだ よしひこ)

1982年に独立。写真家、多摩美術大学教授。
東京ADC賞最高賞、ニューヨークADC賞、カンヌグラフィック銀賞、朝日広告賞、日本写真協会 作家賞など国内外のさまざまな賞を受賞。
代表作として、ネイティブアメリカンの神聖な森を撮影した『QUINAULT』(京都書院、1993)、「山海塾」を主宰する前衛舞踏家・天児牛大のポートレート集『AMAGATSU』(光琳社、1995)、自身の家族に寄り添うようにカメラを向けた『at Home』(リトルモア、2006)。屋久島で撮り下ろした森の写真『Materia』(求龍堂、2012)。ガンジス川の人々を撮った『M.Ganges』(赤々舎、916Press、2014)。
2015年4月には数多くのポートレートや自然、スナップ、広告などを撮りつづけてきた自身の30有余年の活動を集大成した写真集『A Life with Camera』(羽鳥書店、2015)を発表。現在Gallery916にて『A Life with Camera』展を開催中(2015年12月27日まで)。
また作品は、Kemper Museum of Contemporary Art (Kansas City)、New Mexico Arts (Santa Fe)、Hermès International (Paris)、Stichting Art & Theatre (Amsterdam)、Bibliothèque nationale de France (Paris)などにそれぞれ収蔵されている。

[ 掲載記事について ]
こちらの記事はキヤノンフォトサークル月刊会報誌「CANON PHOTO CIRCLE」2015年11月号に掲載されたものです。

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