作家インタビュー

竹沢 うるま

竹沢 うるま

Uruma Takezawa

第114回展「Kor La」

Kor La

写真1
EOS 5Ds・EF24-70mm F2.8L II USM・F5.6・1/1600秒・ISO200

Kor La

2012年に1021日・103ヵ国を巡る旅を果たした写真家、竹沢うるまが、次の旅の舞台に選んだチベット文化圏。そこは、世界のさまざまな光景を見た後にたどり着いた「祈りの世界」。日常の中で日々祈りが行われ、そこに身を置く中で氏が見つめたものとは――。今号はチベット文化圏を「Kor La(コルラ)」した巡礼の旅の記録。

巡礼の旅で見つめた祈りが宿る心

『Kor La(コルラ)』とは、「Kor=廻る」「La=峠・山」を意味し、チベット仏教徒が祈りを捧げるために聖地を時計回りに廻り、巡礼することを指す言葉です。旅をはじめる前に「Kor La」というタイトルをあらかじめ決めておき、チベット自治区を巡礼の対象に位置づけ、周辺にあるブータン、インド、ネパール、中国と、チベット文化圏を廻りました。

3年弱をかけて南米大陸、アフリカ大陸、ユーラシア大陸を旅した前作の『Walkabout』で、旅を終えるきっかけとなったのが、チベットで「祈りの姿」を垣間見たことでした。その祈りの強さには「もうこれ以上の心の振幅は得られない」と感じさせる何かがあったのです。

Kor La

EOS 5D Mark III・EF70-200mm F2.8L IS II USM・F32・1/4秒・ISO50

しかし、帰国してから写真集を作るにあたり撮った写真を振り返ってみると、僕は祈りの姿に触れただけで本当の祈りの意味を理解していないのではないかと思い直すようになりました。では、祈りの意味とはいったい何なのか。それを知るために、2014年春、「Kor La」の旅が始まったのです。

チベット文化圏と日本を行き来しながら続けた巡礼の旅。それは険しい山を越え、深い谷を渡り、薄い空気に喘ぎながら旅を続けた日々でした。最も過酷だったのは、2月の真冬に訪れた標高4000mにあるインド・ザンスカール(写真1)。厳冬期は雪によって外界との接触が閉ざされ、そこに行くにはマイナス25度の中、一週間をかけて凍結した川、チャダルを歩くしかありません。気温が上がれば轟音とともに激流が現れ、何度も迂回を繰り返す、まさに死と隣合わせの状況です。夜は崖のくぼみにある洞窟で眠り、夜中に寒さで何度も目が覚めました。その過酷で美しい道のりは、今でも脳裏に焼き付いています。

チベット文化圏といっても国が違えば文化も風俗も違いますが、旅の途中では日々、大地の上で祈りを捧げる姿を目にしました。そして、その都度、「祈りとは何か」という大きくて深いテーマに頭を悩ませました。しかし、旅を重ね、彼らが暮らす大地を見つめる中で、一つだけ分かったことがあります。それは、人の心があって初めて祈りが存在する、ということ。祈りにはさまざまな形があり、それぞれの思いが込められています。それを一括りにとらえることはできません。それぞれの祈りは、それぞれの人の心に宿るのです。

Kor La

EOS 5Ds・EF24-70mm F2.8L II USM・F8・1/5000秒・ISO800

写真に明確に表れる自分の心の流れ

『Kor La』をまとめるにあたり、僕が大切にしたのは旅の過程を編むということ。「祈りとはこういうものだ」と一つの点として提示するのではなく、旅の起点から終着点まで、そのプロセスを“線”で見せたい。

僕は旅の最中、写真の仕上がりのイメージを持たずにただカメラを持って歩き、そこで目にした光景、出会った人々の心に共鳴したときにシャッターを切りました。その写真には撮った被写体が写っていても、否応なく撮影者である僕の存在が写り込みます。旅で僕がどんな人々や風景に心動かされたのか。それが写真に明確に表れるのです。つまり、僕が旅で撮った写真の集積は、そのまま僕の心の流れを表しているといえると思っています。僕がこのシリーズでやりたかったことは、祈りと密接に関わりながら生きる人々の写真を撮り、祈りが宿る心の流れを提示することでした。

  • Kor La

    EOS 5Ds・EF17-40mm F4L USM・F4・1/40秒・ISO1600

  • Kor La

    EOS 5Ds・EF24-70mm F2.8L II USM・F4・1/125秒・ISO3200

「祈り」をテーマにチベット文化圏を周った巡礼の旅。そこで出会った人々も、見つめた大地も、それらすべてが僕の旅を形作る大切な記録です。

Kor La

竹沢 うるま「Kor La」

2016.10.14 - 2016.11.21

展示情報

竹沢 うるま

竹沢 うるま(たけざわ うるま)

1977年生まれ。在学中、沖縄を訪れたことがきっかけで、写真をはじめる。その後、アメリカ一年滞在を経て、独学で写真を学ぶ。卒業後、出版社のスタッフフォトグラファーとして水中撮影を専門とし、2004年より写真家としての活動を本格的に開始。2010年~2012年にかけて1021日103カ国を巡る旅を敢行。帰国後、写真集「Walkabout」と、対なる旅行記「The Songlines」を発表。その他、詩人谷川俊太郎との写真詩集「今」、キューバ写真集「Buena Vista」などの著書がある。日経ナショナルジオグラフィック写真賞 2014グランプリ受賞。

[ 掲載記事について ]
こちらの記事はキヤノンフォトサークル月刊会報誌「CANON PHOTO CIRCLE」2016年11月号に掲載されたものです。

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