特集 第3回 本橋 正義 「写真文化のために」

フォトキュレーター 本橋 正義

インタビュー:2014.12 Update

写真文化のために JCIIフォトサロン フォトキュレーター 本橋 正義

本橋 正義
株式会社写真弘社を経て、現在、一般財団法人日本カメラ財団に勤務。
JCIIフォトサロンのフォトキュレーターを務める。

キヤノンギャラリー Sの魅力

私が所属している「日本カメラ財団(JCII)」は、1954年に日本写真機検査協会として創立され、もともとは日本で製造されたカメラの輸出検査を行う機関でした。1989年にカメラが輸出検査の対象から外れたのを機に、現在では、カメラ博物館やギャラリーの運営、貸しギャラリー、写真関連書籍の蔵書など、写真文化発展のための事業を行っています。その中で私は、ギャラリー「JCIIフォトサロン」の運営を担当しており、写真展ごとの作品の選定から展示、収蔵までを行っています。

このような仕事柄、これまでに多くの写真家と接し、さまざまなギャラリーで開催されている写真展を見てきました。キヤノンギャラリー Sも例外ではなく、これまで100回行ってきた写真展のほとんどを見てきたと言っても過言ではないでしょう。

写真展を開催するのは、決してたやすいことではありません。しかも、キヤノンギャラリー Sのように広い会場を一人の写真家でやるとなると、写真家はもとより、企画するスタッフの苦労も大変です。それを12年間、100回も行ってきたということは、自信を持ってよいことだと思いますし、写真文化のためにも、重要な役割を果たしてきたと言えるのではないでしょうか。

キヤノンギャラリー Sが、ほかの企業系ギャラリーと大きく異なるのは、その会場の広さです。写真専門のギャラリーとしては、東京都写真美術館に次ぐ広さと言えるのではないでしょうか。あれだけのスペースを写真家一人に与えるのは、写真家にとっても非常に有意義なことです。このギャラリーで写真展を開催できることが、写真家にとって大きな励みになっているに違いありません。 また、その広さを生かして大きな作品を展示できるのも魅力の一つです。写真の大きさも、写真家の表現の一つ。小さなギャラリーでは不可能な展示ができる。それだけで、写真展での表現の幅が大きく広がります。

ギャラリーが果たすべき使命

これまで長年にわたり、数多くの写真展を見てきました。その中で感じることは、デジタルのプリント技術の進化です。キヤノンギャラリー Sで開催されているものは、そのほとんどがインクジェットプリンターでプリントされた作品ですが、今では、フィルムから焼いたものと遜色がないように感じます。「インクジェットでもこれほどの表現ができるのか」と感じることも増えてきました。
ただ、最近、少し気になるのが、軽い作品が増えてしまったという印象があることです。それは、プリントが変わったからではなく、写している題材や、作品としての質に重みが感じられなくなってしまっているのです。
これは、キヤノンギャラリー Sで開催されている写真展に限らず、今の写真界全体に言えることだと思います。おそらく、写真家をとりまく環境が大きく変わったからなのでしょう。昔ほど、写真家がストイックに自分の表現を突き詰める環境にはなっていない。写真家として活動を続けるには、ある意味割り切って「仕事」もしなければならない。今の写真家たちは、昔と比べて厳しい時代を生きているのかもしれません。

そうした理由もあって、今、全国各地で行われている写真展の多くは、いわゆる大衆向けの作品展が多くを占めています。文学でいう「純文学」のような、昔から続く「写真の証言」ともいえる作品展を見る機会は少なくなりました。しかし、今でも「純文学」を貫いている写真家は数多くいます。ただ、発表の場が少ないだけで、その写真家たちは、自らの表現を、今も突き詰めているのです。

写真文化にとってギャラリーの果たすべき役割は、そうして埋もれている写真家たちの発掘です。今は日の目を見ていないけれど、骨太の作品を撮り続けている写真家たち。また、過去の写真家たちの作品だとしても、再評価すべき傑作の数々。それらを探し出し、多くの人に知らしめる。それが、ギャラリーの使命でもあるのです。

キヤノンギャラリー Sに期待すること

これまで、キヤノンギャラリー Sは、あの大きな会場で100回もの写真展を行ってきました。それは、賞賛すべき事柄です。しかし、過去を振り返るばかりではなく、大事なのはこれからです。101回目以降、キヤノンギャラリー Sがどのような写真展を開催するのか。

私の望みとしては、大きく分けて2つあります。まずは、もっと幅広い写真家たちの作品展を見たいということです。先ほど述べた「純文学」を貫いている写真家たちの作品や、再評価すべき写真家たちの作品。それらの作品は、今は小さなギャラリーでしか見ることができません。それを、キヤノンギャラリー Sのような大きな会場で見てみたいのです。
どんな人の写真展を見てみたいのか。それを決めるのにアンケートを取ってみても面白いのではないでしょうか。写真学校に通っている若き写真家の卵たちが見たい写真展はどのようなものか。そうすれば、これまでの100回とは傾向が異なる写真家たちの名前が挙がるかもしれません。
もう一つの望みとしては、もっと若い写真家の作品も見たいということです。2014年には、「She’s」と題し、若い女性写真家の作品展を開催していましたが、そのような試みをもっとやって欲しいと願っています。あの広い会場を2つに分け、会期も1ヶ月ではなく1~2週間で構いません。公募を募り、若い写真家たちの写真展を年に一度開催する。若い写真家たちにとって、あれだけ大きな会場で写真展を開催する機会など、めったにあるものではありません。そのチャンスを与えることは、これからの写真界を担っていく人材を発掘、育成するためにも大切なことだと思います。

自分が好き勝手なことを言っているのは分かっていますし、実際にこれらを企画するのは、並大抵のことではないと重々に理解しています。けれど、キヤノンギャラリー Sに通い続ける「応援団」の一人として、これからも素晴らしい写真展を楽しみにしている者としての希望です。

写真文化の発展のため、多くの写真愛好家を楽しませるため、キヤノンギャラリー Sでしか成し得ない写真展の数々をこれからも楽しみにしています。

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