特集 第4回 ハービー・山口 「写真展の悦び」

写真家 ハービー・山口

インタビュー:2015.1 Update

写真展の悦び 写真家 ハービー・山口

ハービー・山口
1950年、東京都生まれ。大学卒業後、写真家を目指し渡英、約10年間を過ごす。パンクムーブメントを実体験しながら、生きたロンドンの姿を写真に収め、ロックミュージシャンの撮影で高い評価を受ける。エッセーの執筆、ラジオのパーソナリティーなど、ジャンルを超え幅広く活躍中。主な写真集に『LONDON AFTER THE DREAM』、『代官山17番地』、『HOPE 311 陽、また昇る』ほか多数。2011年、日本写真協会賞作家賞受賞。

自分の原点を知ってもらえた

2010年にキヤノンギャラリー Sで行った写真展、「1970年、二十歳の憧憬」。このとき展示したのは、本格的に写真を撮り始めた19歳からロンドンへとわたる23歳までの4年間で撮影した未発表作品、つまり、僕の原点ともいえる作品群です。写真家になりたいという強い意志を抱きながら、何を撮ればよいか模索していた当時、僕は、あらゆるものにレンズを向けていました。ポートレート、ドキュメンタリー、ネイチャー、そして、スナップ。ただ、被写体はさまざまでも、すべての写真に共通していたのは、被写体に対する憧れや共感であり、好奇心でした。

幼少のころ病弱だった僕は、さまざまな不自由を感じながら生きていました。でも、体が元気になったとき、あたかも鳥かごから小鳥が放たれたように、僕はカメラを持って外の世界へ飛び出したのです。かつて憧れを抱いていた世界のすべてにカメラを向け、自分もその仲間に入るために、シャッターを切るごとに距離を縮めていきました。写真を撮ることで、自分自身、そして見る人が、幸せになれるような写真を撮りたい。その思いは、40年以上経った今でも、変わらずに持ち続けています。

この写真展は、僕にとって非常に重要な意味を持つものとなりました。長年写真家として活動していても、自分の原点を多くの方に知ってもらえる機会など、そうあるものではありません。実際、いつかは発表したいと思いつつも、そんな昔のものに興味を抱いてもらえるか、展示させてくれるギャラリーなどあるのだろうかという不安もありました。それをキヤノンギャラリー Sは、快く引き受けてくださったのです。しかも、大きな会場だったために、当時身の回りで目にした情景や恋した女性を写したもの、さらには、返還前の沖縄や学生運動をドキュメントしたものなど、多くの作品を発表することができ、たくさんの人に来てもらうことができました。翌年、日本写真協会賞作家賞を受賞させていただきましたが、この写真展を行えたことが、少なからず影響していると思います。

あるミュージシャンが、「デビューアルバムには、生まれてからそれまでの夢がすべて詰まっている」と語っていましたが、僕にとってこの写真展は、プロとして本格的に活動する前の、いわばインディーズ時代のデビューアルバムのようなものです。中学2年のときに写真をはじめてからロンドンにわたるまでの夢や希望がすべて詰まった写真展。それを発表する機会をいただけたキヤノンギャラリー Sには、本当に感謝しています。

人と人とが出会う場所

写真家にとって写真展とは、自分の作品を発表する場だけではなく、その作品を見てくれる人と直接出会える貴重な場でもあります。だから、僕は、時間の許す限り会場にいるように心がけています。訪れた人と会話して、自分を知ってもらう。そうすることで、僕が写真を通して届けたいものが、より強く伝わると思うのです。また、写真展は、写真家と鑑賞者がつながるだけでなく、鑑賞者同士もつながれる場所だと思っています。僕の写真が気になって訪れた人同士なら、きっと仲良くなれるはず。そう思って、初めて会った人同士を引き合わせたこともあります。中には、その後、本当に仲良くなり、グループ展を行った若い写真家たちもいました。写真展に来るときは一人だったのに、二人、三人が一緒に会話をしながら帰っていく。そうした光景が見られると、写真展を開いて、本当によかったと思えます。

写真展の悦び。僕にとってそれは、多くの人と出会えること。そして、人の輪が広がること。これまでに何度も写真展を行い、たくさんの人と出会い、人の輪がどんどん広がっていきました。ときには予期せぬ出会いもあり、うれしい驚きを経験したこともあります。幼いころに孤独を感じていた僕は、写真をはじめたことで世界とつながることができました。そうした思いがあるから、写真展でも、単に作品を発表する場としてではなく、人と出会い、仲間を見つける場にしたいと願っているのです。

写真家の夢が叶う「おとぎの国」

これまでに100回もの写真展を開催してきた、キヤノンギャラリー S。そこは、写真家にとって、自分の夢を叶えられる場所だと僕は思っています。あれだけの広さの会場を自由に使える。やりたくてもできなかったことに挑戦できる。もし、これだけの規模の写真展を個人でやろうとすれば、莫大な労力と多くの予算が必要になります。それを、写真家のため、写真文化のために援助してくれるというのは、写真家にとって、本当にありがたいことなのです。

僕は、キヤノンギャラリー Sで写真展が開けたことで、写真家としてさらなる飛躍ができたと感じています。きっと、僕以外にも、同じような思いを抱いている方がいるでしょう。もちろん、キヤノンギャラリー Sで写真展を開くには、小さなギャラリーで行う何倍もの覚悟が求められます。それでも、今まではできなかったこと、ずっと抱き続けていた夢が叶えられるのならば、写真家として新たな可能性の扉を開けることにつながるのではないでしょうか。

広い会場を使って、写真家が自由な表現を行える場所。そこで開かれる写真展は、写真家によってまちまちで、これまでの活動の集大成を発表したいという方もいれば、今できる最高の表現をしたいという方も、これから進む道を示したいという方もいるでしょう。そして、それらの写真展が行えるということは、写真家の夢の一つが叶うことにほかならないのです。また、そうした写真家の夢が見られる場所は、写真を愛する人すべてにとっても、かけがえのない場所といえるでしょう。

写真家の夢が叶い、その写真家の夢を誰もが体感できる「おとぎの国」。これからも、キヤノンギャラリー Sは、そうした写真を愛する人にとっての「おとぎの国」であり続けてほしいと思っています。

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