
社会に立脚する私立学園として、積極的に社会と関わりながら教育と研究の発展を担っている立命館大学。その伝統ある理工学部機械システム系に属するファブリケーション研究室では、精密機器に不可欠な精密加工に関する工具の研究開発を行っています。研究室長でもあり、2011年ZYGO技術セミナーで座長を務めていただく理工学部機械工学科 教授の谷泰弘様にお話を伺いました。
-----先生の研究室のミッションや役割をお聞かせください
私の研究室では加工技術を研究しています。立命館の機械工学科は材料関係の方が多く、加工をやっている方は少ないのが現状で、現在は加工の授業はすべて私が受け持っています。加工というのはものづくりの基礎ですので、加工を知らないと設計もできません。そのため非常に重要な分野です。近年は自動車関係の業界が好業績でしたので、機械工学科の人気が高まっており、我々としても嬉しい限りですね。
機械システム系には機械工学科以外にロボティクス学科、マイクロ機械システム学科の2学科があります。そのためMEMS製造のためのリソグラフィ装置をはじめ、杉山先生のところにはさまざまな工作設備もあり、研究用の設備はかなり整っている方ではないでしょうか。私立大学は学生に来てもらえなければ運営できませんので、学生が来たくなるような内容の教育、そして企業が欲する人材を育成するためにさまざまな努力を行っています。

-----最近、NEDOのプロジェクトによる研磨関連の成果をTVでも拝見しました。
私の前任の田中先生をはじめ、研磨について力を入れていこうとしているのは大学の意図でもあります。実はNEDOのプロジェクトで先進研磨研究拠点を立命館につくるのですが、そのオープン記念シンポジウムをちょうど10月26日に開催することになりました。私が研究しているダイヤモンドワイヤーが太陽電池関連の産業につながっているのですが、そういった産学連携を学内連動でさらに広げていこうとしています。
ありがたいことですが、NEDOのプロジェクト関連ではTVのインタビューも何度か受けさせて頂きました。サイエンスZERO、ワールドビジネスサテライト、朝ズバなどが一例です。メディアへの露出ではNEDOだからこそ取り上げてもらえるということを感じます。特にNHKは世界中のメディアと連携していて海外でも衛星放送で受信できる地域がかなりあります。中国、韓国、台湾の友人からTVを見たという連絡が来るのも嬉しいですね。

-----先生のご専門について、もう少し詳しく教えていただけますか。
東京大学の生産技術研究所に在籍していたころから、加工工具や研磨パッドの研究を行ってきました。具体的には固定砥粒工具、なかでも研磨砥石が専門となります。研磨の工程を砥石に置きかえることができないか、という着目点から研究を進めてきました。一般的な砥石、酸化ケイ素やアルミナの汎用砥石は自生発刃、つまり自分も削られながら相手も削るものです。それが切れ味を維持するために非常にうまく作用します。一方研磨パッドにはそういう機能がないので、研磨を続けると砥粒や切り屑がつまったりして切れ味が悪くなります。そこで研磨パッドの中に摩耗しやすい硬めのアクリル樹脂を入れれば、それがぼろぼろととれて自生発刃し、うまくいくのではないかと考えてやってみたところ、意外なことが起こりました。プラスチック微粒子に砥粒がくっついて研磨していたのです。これを複合粒子研磨と名付け、研究を進めてきました。
-----企業との共同研究も活発にされていらっしゃいますよね。
複合粒子研磨では、当時日本ミクロコーティングさんが東大の生産技術研究所に寄付研究部門を設置するお金を出してくださったので、プロジェクトとして共同で研究開発を進めることができました。日本ミクロコーティングさんもZYGOの測定機をかなり活用されていましたね。
ZYGO Metrologyセミナーで詳細をお話しする予定ですが、現在は酸化セリウムの使用量を減らすための研究開発を企業の皆さまと共同で行っています。元々経済産業省のプロジェクトであった希少金属代替材料開発プロジェクトをNEDOが受託していたのですが、鉱物の種類を増やす意見の中からセリウムが出てきたのがきっかけでした。
-----NEDOのプロジェクトでもZYGOを活用いただき、ありがとうございます。
クリスタル光学、アドマテックス、九重電気、立命館大学の4機関で研究開発を進めていますが、共通言語として各社でZYGO”NewView”を活用しています。研究開発においては、同じ装置で評価した結果を使わないと結果に対する正確な議論ができませんので、各社が同じ装置を所有し、同じ装置で評価することは大事ですね。
-----ところで、ZYGOはいつごろからご存じでしたでしょうか。
キヤノンの生産技術研究所に知人がおりまして、その知人経由でZYGOの話を聞いたのが最初ですね。かなり昔の話です。学会でも研究者たちの共通言語としてZYGOのデータが活用されていましたので、ZYGOの名称と装置自体は以前からよく知っていました。ただ昔は非常に高価でしたよね。近年は研究室でも十分手に入れられるくらいまで価格がこなれてきたので嬉しく思っています。
-----先生はZYGOをどのように活用されていらっしゃいますか。
私は加工、特に複合粒子研磨では仕上げ加工をやっていますので、研磨後の鏡面をすぐに3次元で評価するために活用しています。3次元(面)がキモですね。2次元(線)では加工面の加工マークが見えないので不足があります。その点、ZYGOは3次元でしかも高速に精度良く測定でき、私の研究に最も適した測定ツールです。近年は光学関連をはじめとした端部まで使いたいという用途があります。複合粒子研磨はこのふち形状にも特徴があり、ふちが制御できる、つまりふちダレがないのですが、この部分の測定もZYGOが最も正確に測定できるツールでした。粗さとふちダレの両立は非常に重要なところで、この両点に対して優位性を持つZYGO製測定機の活用は研究に必須と感じています。
ZYGO Metrology Seminar 2011の詳細は以下のURLからご確認ください

-----ぜひ先生のご講演予定の内容についても簡単にお聞かせください。
先ほどもふれました酸化セリウムの使用量を減らせる新しい研磨方法とその計測についてお話しする予定です。研磨用の酸化セリウムはさまざまな材料から選別されて勝ち残った素材ですので、代替品を探すのは容易ではありません。そこで砥粒である酸化セリウムはそのままに工具を変えることに着目しました。歯磨きに例えれば、歯磨き粉はそのままに歯ブラシを変えるイメージですね。
先の寄付研究部門のときに複合粒子研磨にはエポキシの研磨パッドが最も相性がいいと判明していました。そのエポキシについてつきつめてみたら、ガラス研磨に非常にマッチすることがわかりました。エポキシは粘着性のある材料なので、研磨剤のスラリーをしっかり保持してくれるのです。おかげで酸化セリウムであれば今まで濃度10%だったものを1%へ減らしたり、もしくはジルコニアなどの他の材料への置き換えることが視野に入ってきました。
セミナー当日には、そのほかにもエポキシに関する面白い内容をいろいろとお話ししたいと思っています。
-----酸化セリウムに関するプロジェクトについてもう少し教えていただけませんか。
現在のプロジェクトに取り掛かる前に、2008年頃に企画委員会でセリウムの話題が出たころから準備を始めていました。そういう意味では時期としてはラッキーでした。セリウムというのはレアアース輸入量の半分を占めていたのですが、2008年当時で400~500円/kgと安価で、しかも用途が研磨剤くらいでした。1万円/kgしていた磁石用のネオジムなどに比べたら重要性が低かったのです。
しかし、研磨は消耗材も研磨パッドも日本が弱いという認識をもっていたこともあり、強く申し入れをした結果、今回初めて研磨をテーマとした国のプロジェクトとして行うことができました。しかも国家プロジェクトとしてセリウムを減らす動きになりましたので、今までの経緯から私が研究のストーリーを描くことができたのも僥倖でした。
本プロジェクトは7月に中間評価があったのですが、非常に良い評価をいただくことができました。実用化にも非常に近いところまできています。
-----最後に先生の今後の活動や目標をお聞かせください。
固定砥粒工具という砥石で仕上げ研磨に近い状態とできるような工具の開発が永遠のテーマです。直近では、粗研磨と電着工具がテーマですね。粗研磨とは梨地面を作る研磨で、現在の砥石では研削マークと呼ばれるスジのある面ができてしまう問題があります。電着工具ではダイヤモンドワイヤーを高速に作る装置です。特にダイヤモンドワイヤーは太陽電池やLEDのインゴット切断に使われ始めているのですが、切断に使う速度よりも製造速度の方が遅い状況で、1年間の工具使用額が装置の金額を超えてしまうというアンバランスな状況を改善するための研究開発を急いでいます。
以前の東京大学の生産技術研究所時代は学生が少なくてフラストレーションがたまることも多かったのですが、今は大勢いますのでやりたいことを色々と手掛けられる状況にあります。とても生き生きしていると両親にも言われているんですよ(笑)。生産技術出身ということもあり基礎研究よりも応用の方が好みでして、自分の開発した物が商品となって世の中に出ることほど嬉しいことはありません。これからも、実需のある研究テーマで、大学でなければできない研究活動に取り組んでいきたいと思っています。

谷 泰弘 様 (たに やすひろ)
- 現職
- 立命館大学 理工学部機械工学科 教授
- 学歴
- 1976年3月 東京大学 工学部機械工学科 卒業
1981年3月 東京大学 大学院工学系研究科機械工学 博士課程 修了 - 職歴
- 1981年4月 東京大学 生産技術研究所 講師
1982年4月 東京大学 生産技術研究所 助教授
1997年4月 東京大学 生産技術研究所 教授
2006年4月 立命館大学 理工学部機械工学科 教授 - 受賞
- 2010年3月 精密工学会フェロー
2005年4月 日本機械学会論文賞
2001年4月 日本機械学会論文賞
- ※ 一部のみのご紹介です。






