バラエティ系番組の放送作家としても数々のヒットを生み出し、映画作品としても「亀は意外と速く泳ぐ」(主演:上野樹里)、「イン・ザ・プール」(主演:松尾スズキ)、近作「図鑑に載ってない虫」など、“小ネタ”と脱力系の世界観のコメディ作品で人気を博している三木聡監督。また最近ではTVドラマ『時効警察』(テレビ朝日、2006年)、『帰ってきた時効警察』(テレビ朝日、2007年)の脚本・演出でも話題となっているが、この作品と同じオダギリ ジョー主演の最新映画作品「転々」が、2007年11月に公開される。(原作は直木賞作家の藤田宜永氏)東京各所をブラブラと散歩するというこの映画、当然ロケも都内屋外ロケ中心の撮影となった。撮影場所は都内各所、しかも屋外で短時間、そして仕込みの多い小ネタの数々、という映画撮影にとってはかなり過酷で困難な状況だ。しかも最終仕上げは、キネコしてフィルム化するというクオリティを求められた。こうした様々な条件が交錯する最新のデジタルシネマ制作現場を、キヤノンXL H1が可能にした。映画「転々」の監督を務めた三木聡監督と、撮影の谷川創平氏、プロデューサーの代情明彦氏、アシスタントプロデューサーの伊藤太一氏に本作の制作現場エピソードなどを聞いた。
■東京中を屋外ロケ、 しっとりした喜劇映画に
―今回の「転々」では、これまでの喜劇映画作品とはまた違った、三木監督ならではの狙い所があった。そこをどう捉えることができるか? 求められた条件をいかにクリアできるか、そしてそれをクリアできる機材とは何か?
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監督:三木氏
三木: 前作の「図鑑に載ってない虫」では物量戦でハチャメチャなコントをやったので、今回の「転々」ではしっとりしたコントにしようと(笑)。映画っぽい画の中でのコントを撮りたかったので、谷川さんにも映画的なしっとりとした画が撮れるような機材とかレンズを選んでもらいました。HDVの画質など、ここ数年の進化はすごいですね。これまでもデジタルビデオでの撮影は「亀は意外と速く泳ぐ」はminiDVで、その前は大型のシネマ用HDカメラでも撮ったこともあります。TVドラマの「帰ってきた時効警察」でもキヤノンXH G1を使っていますが、いよいよここまで来たかという感じがあります。システムの問題など細かいことは色々ありましたが、今回谷川さんが組んで頂いたXL H1での撮影システムはこの「転々」という作品には合っていて、撮影もとても上手くいったと思います。
谷川: 今回は2台のXL H1を使用しています。演出上の効果映像として8mmフィルムで撮影している部分が一部ありますが、本編のほぼ全ての撮影はXL H1のHDV24F収録です。XL H1×1台をメインにして、もう1台はサブカメラで、レンズはmini35レンズアダプターを使用して35mmフィルム用レンズを使いました。僕自身もこれまでデジタルビデオ、特にminiDVの撮影が多いですね。大体僕が撮っているのはドラマが多いのですが、キヤノンXL1も昔使ったことはあります。個人的にはキヤノン製ビデオカメラには非常に好印象を持っていて、ボディのフォルムもカッコイイし好きですね。
代情: この作品を何で撮るかという最初の話し合い時点では、当然フィルムとかHDビデオとか様々な撮影方法の選択肢もあったのですが、その中で谷川さんからご提案のあったXL H1でHDV収録というフローが、コスト的にもクオリティ的にも今回の作品に合っているというところから、今回のHDV収録→ HD編集→キネコ→フィルムでのワークフローというところに落ち着きました。
伊藤: 制作機材を決定したのは昨年(2006年)の秋だったのですが、XL H1を選んだ経緯としては、最初にテストで撮ったものをキネコして試写してみたんですが、その画がとてもフィルム風で良かったのでこのカメラに決定しました。
また編集環境としてAppleのFinal Cut Pro(5.1.2)がキヤノンさんの24Fモードに対 応したことも決定の要因でした。ただし問題として、HDVは編集のときにモニターアウトが出来ないなど、編集作業に関しても色々と手探りの状況だったので、外部の専任スーパーバイザーの方に立っていただいて、最新のデジタル編集のフローを構築しました。
撮影:谷川氏
■フィルムに近い質感を目指した画作り
―映画製作者の誰もが求めるフィルムの質感。デジタルシネマにおいて、これにいかに近い質感が出せるか。これもいま多くの制作者たちの目指しているところだ。

谷川: 基本的に僕はビデオで色をいじるのはサチュレーションが上がったビデオの色、つまり薄っぺらな濃い色になってしまうのであまり好きではないんですよ。またポスプロでカラコレしても、(デジタルで撮ったものだと)デジタル的にしか色が変わらないですし。これがPOPな作品ならいいんですが、「転々」はそういう作品ではないので、質感もそういうモノにはしたくなかったんです。だからこの作品では、XL H1のカスタムプリセットでの調整はガンマぐらいで、他はほとんど変えていません。昼間のロケはシネガンマ2で、夜はシネガンマ1でというくらいです。映画の内容を考えると、この作品は、本当はフィルムで撮りたかったんですが、予算的にもそれが出来ない以上、それに近づけることが出来るカメラということで、XL H1を選んだのです。ビデオで撮影していてもフィルムの仕上がりに極力近づけるというか、仕上がりのフィルムを見て頂ければ分かると思いますが、今のIMAGICAレコーダーの色味の出し方に結構合っていると思いますね。とても落ち着いた良いトーンに仕上がっていて、XL H1で撮影したことで、全ていい方向に転がったと思います。

プロデューサー:代情氏
三木: たとえば同じカメラを使っても、その作品によって機材の使い方も変わってきます。今回は、谷川さんとは初めてだったこともあって、事前にカメラテストも綿密にできたのが良かったですね。都内の公園に行ってテスト撮影しながら、谷川さんと画質などをああでもないこうでもないと細かく決めていく作業ができたので、そこの設計さえ間違わなければ、ビデオでも充分フィルムに退けをとらない、良い質感の作品を作ることができますね。
■機動性と信頼性
― 屋内やスタジオセットではない屋外撮影、しかも東京内となると、とかく映画の撮影には厳しい現場が多い。様々な条件に阻まれる中で撮影していくのは困難な作業だ。しかし「転々」はそんな東京を散歩しながら進んでいくお話。撮影も都内各所で遂行された。
三木: 東京都内を転々とする話なので、とにかくロケハンが大変でしたね。あとは(都内の)路上で撮っていると、スタッフが人の通行整理などの規制はしてるんですが、レンズも良いものを使っている分、奥の方まで全部見えてしまうんですね。画的に逃げ場がなかった(笑)。その辺が撮影ではとても苦労しました。
代情: 撮影ロケは2006年の11月〜12月に行ない、撮影したテープは合計で22ロール、カット数も830カットもあり、ロケも東京中を転々とするので、一カ所のロケ現場もいちいちベースを組んでやっていると撮影時間も足りなくなってしまうことから、XL H1の機動性という部分も機材選択の大きなポイントになりましたね。
■これからの映画制作の スタンダードに成り得る ワークフロー
―デジタルシネマのワークフローはまだ発展途上だ。しかしデジタルでは新しい物を作れる魅力にも富んでいる。デジタルの制作方法が進化することで、より現場からの要求が明確化されてくるのも、デジタルの新たなメリットなのかもしれない。
三木: 三木:もちろんフィルムにはフィルムの思い切りの良さというか、失敗は出来ない緊張感みたいなものがありますし、ラッシュを観るときの楽しみを大切にしよう(笑)!というのがありますが、デジタルはまた違った意味で色々な可能性があると思います。
 「転々」で実践した方法は、ビデオのある意味の利点だろうなと、今後このシステムが構築されてくると、一気にそちらへシフトする人たちが多いだろうなと思いましたね。
 さらに編集室に大きなスクリーンがあれば、ハリウッド並みの編集も出来るようになって、さらにもう一歩レベルが上がるんじゃないかと思います。
 あとひとつ、今後のことを考えるとすれば、現場での撮影時にモニターアウトされる映像データをカメラ側でHDD等に別に収録できるようになっているといいなと思いました。ロケ現場で画像を確認するセクションって沢山あるじゃないですか。これが映像だけの話だったら谷川さんにお任せしておけばいいのですが、僕が見ているのはそういうところではないし、またそれぞれの部署でリプレイしたときに見たいところが違うわけです。例えば美術も照明もみな確認したい箇所が違うんですね。だから現場の演出サイドから言えば、これは別にダウンコンバートした画でいいのですが、こういうプレビュー用画像をカメラ外部で見られる仕組みが、XL H1にもついているともっと良い、理想的な現場になるなと思いました。
アシスタントプロデューサー:伊藤氏
谷川: 僕たちフィルム出身のカメラマンは、プレビューチェックということはあまり好きじゃないんです。プレビューしている時間があるのであれば、その間に次のセッティングとカメラポジションに時間をかけたい。でもビデオというかテレビの現場の場合、カメラでプレビューすることが慣例化しているので、現場が止まるんですね。そこにイライラ感が募りますから、できればこうしたプレビュー機能がカメラとは別で出来ると望ましいですね。
■喜劇をデジタルシネマで作る魅力
―これからも喜劇映画を撮って行きたいと語る三木監督。デジタル制作によって、これまでより、喜劇がまた作りやすい環境にもなったという。
三木: 僕の映画作りは、2000年にシティボーイズの短編作品を撮っていて、それが最初の作品になるんですが、喜劇をきっちり見せる場としてのメディアとして、映画はいま僕にとって一番魅力を感じているものですね。日本でも昔は多くの喜劇映画が撮られていましたが、ここに来てデジタルで低予算でも映画が作れる環境になって、喜劇がまた今年あたりも何本か作られるようになりましたね。でも喜劇って、役者も、コントロールする側のプロデューサーも作る側は実は大変で、制作も非常に難しいものがあると思います。でもテレビ番組とは違って、時間的、予算的な余裕のある中でじっくりとコントが撮れるというのは、作っているスタッフ側も楽しいですよ。映画というメディアの中でそれ(=喜劇)を表現するということに、いまとても魅力を感じていますね。次はシリアスな作品も撮らないのか、とよく聞かれますが、シリアスな作品を撮ってる人は僕の他に沢山要るし、僕が撮るとどうしても喜劇になってしまうので(笑)。
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『転々』
監督:三木聡 撮影:谷川創平
キャスト:オダギリ ジョー、三浦友和、小泉今日子、吉高由里子、岩松了 、ふせえり、松重豊、岸辺一徳、笹野高史、石原良純、鷲尾真知子、広田レオナ
配給:スタイルジャム
(C)2007「転々」フィルムパートナーズ
2007年11月10日 渋谷アミューズCQN、テアトル新宿ほか全国順次ロードショー
(印刷用PDFはこちら) 2.6MB
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