キヤノン Xシリーズ 導入事例

XF305:怒濤のコマ撮り作品。田辺秀伸監督による Superfly「Roll Over The Rainbow」。

田辺秀伸監督(イメージ)

田辺秀伸監督

フリーランスの映像作家、田辺秀伸氏は、現在注目を集める、MV業界でホットな監督である。ここでは田辺監督が手がけた話題のMV、Superflyの「Roll Over The Rainbow」を紹介しよう。怒濤の物量をコマ撮り撮影によって実現したユニークな映像作品である。この映像の制作の裏側を聞いてみた。
(white-screen.jpより転載)

Superflyの「Roll Over The Rainbow」動画ページ:外部リンクを開きます

制作者情報

コマ撮りのカット(イメージ)

「Roll Over The Rainbow」のコマ撮りのカット

――田辺監督はディレクターですが、編集から撮影までなんでも手がけられますね。

もともと監督を目指していて、実践的なものはモーショングラフィックスに強いteevee graphicsに入って学びました。代表はモーショングラフィックスを基盤とした企画で有名な小島淳二監督が務め監督の谷篤さん、長添雅嗣さん(現在フリー)がいて、その下で4年間ぐらいアシスタントを経験しました。その間、企画演出からグラフィックスのデザイン、アニメーション、編集、コンポジットまですべて自分でできるようになりました。現在はフリーランスとして活動をしているので、一人でやれる限界があります。できるだけ演出に集中するために制作を手がけることは減ってきていますが、予算が限られている企画の場合は自ら撮影をすることもあります。

――物量に圧倒されるコマ撮りに驚きましたが、企画段階でクライアントからのオーダーやイメージはあったのでしょうか?

当初クライアントは、モーションキャプチャを使ったMVを要望していました。ただ、モーションキャプチャになると3Dになるのでキャラクターのデザインをしなければいけないし、レンダリングにも時間がかかります。また、Superflyは本人をきれいに撮って歌をしっかり聞かせるMVが多いのでかみ合いそうもなかったり、マンパワー的な問題もありました。そこで考えたのが、コマ撮りです。バナナが出てきてその中からジェリービーンズがでてくるような「1つのあるものからずっと連鎖をしていく」という面白いコマ撮りの企画が通りました。これならば女性らしいかわいいものができるし、大型イベント「お台場合衆国」テーマソングとして子供の気を引くような映像ができる気がしていました。

合成(イメージ)

空中に浮いているオブジェクトはXF305で撮ったものを合成

――今回のMVはどのような機材で制作されていますか?

屋外で行ったロケのコマ撮りはすべてキヤノンEOS 7Dのスチル機能を使い、アーティスト本人のロケのムービーはEOS 7Dの動画撮影機能を使いました。さらに、スタジオでの合成を前提としたカットの撮影はクロマキーがきれいに抜けるキヤノンXF305を使うことにしました。ロケの映像のカットで空中に浮いているオブジェクトも、XF305のコマ撮りで撮ったものです。

スタジオ撮影(イメージ)

屋内のカットはスタジオ撮影のコマ撮りによって行われた

――XF305で、合成の際クオリティーは変わるものでしょうか?

今までのクロマキー撮影はいろいろな作品でやってきましたが、エッジのノイズが目立ってしまうのには悩まされてきました。XF305ならば、カラーサンプリングは4:2:2で色のデータ量は4:2:0と比べて2倍もあります。合成の際エッジは確かに目立ちません。合成ものの映像でエッジが目立ってしまうと、視聴者はいっきに冷めてしまいます。合成はウソをつくという事なんですが、ウソに見えないようにすることが大事です。

グリーンバック撮影(イメージ)

XF305で撮ったグリーンバック撮影のエッジの拡大。エッジににじみは感じられない

――画面の一体感みたいな感じですね。XF305を使って特にエッジが目立たなくなった素材はありますか?

例えば、グリーンバックのリンゴ撮影の場合ですね。赤と緑は通常凄いエッジが目立ちます。今まではバリッと出てくる感じでした。

撮影する前の現場(イメージ)

撮影する前の現場でまったく手を入れていない状態

撮影(イメージ)

グリーンを置いて撮る

撮影(イメージ)

After Effectsに標準搭載されているキーヤーで抜く

撮影(イメージ)

マスクを切って被写体だけ残す。影だけ上手く残すようにする

撮影(イメージ)

ベースの空舞台はこのような状態

合成終了(イメージ)

ベースの空舞台に配置してリンゴの合成は終了

――スタジオ撮影はXF305を使ってどのように撮影を行ったのですか?

スタジオで行ったコマ撮りは、20点ぐらいの物が同時に動くシーンです。このシーンは、各物単体をバラバラにコマ撮りをして、After Effectsで各素材を合成をします。このカットはまず最初にすべての物を並べて、それをガイドのベースにするための撮影をします。XF305のクレイアニメーションなどに便利なフレーム記録機能を使い、1,920×1,080の解像度で撮影していきます。個々の物は寄って撮ることはありません。寄って撮るとパースがズレまてしまうからです。あくまでも、最初に広角のアングル全体を決めて、カメラはフィックスのまま個々の物を撮っていきます。最初に手前のリンゴの裏にグリーンバックの板を配置して撮り、撮り終わったらリンゴを排除して、今度は次の手前の別のオブジェクトを撮っていきます。前のレイヤーから撮影をして、どんどん削っていくイメージです。

CFカード(イメージ)

CFカードで撮影データのやり取りが可能

――映像をCFカードに記録するというところの使い勝手や編集ソフトとの相性はいかがでしたか?

使用ソフトは、Premiere Pro CS5とAfter Effects CS5です。撮影素材をAfter Effectsに取り込み、展開して作業をしました。After Effectsでコマ撮りのシーケンスを組んで、そのコンポジションをPremiere Proで読み込む形で進めます。

ちなみに、いろいろな企画でよく使う動画撮影機能は ProResに変換してから編集ソフトで作業するのが一般的で、合計30~40分ぐらいの撮影素材を変換するのに、丸一日ぐらいは時間がかかります。変換に使用するマシンの速度によりますが、だいだい撮影日の次の日はいつも待ちになる感じです。XF305もファイルベース記録形式ですが、ファイルフォーマットはいろいろなシステムと互換性のあるMXFで、Premiere Pro CS5とAfter Effects CS5ならばプラグインをインストールすることもなく、変換しないでネイティブのまま読み込み編集することが可能です。初めて使ったときは、「あっ、そのまま作業ができるんだ」という驚きでした。特に今回の作品の場合は撮影が終わってからその2日後にオフライン、土日もフルに含めて9日後には納品という非常に厳しいスケジュールでした。何の合成もなければ2日後のオフラインも可能ですが、がっつりとした合成作業もあってこのスケジュールは非常に厳しいのです。もし、変換に1日かかっていたら締め切りに間に合わなかったかもしれません。ファイルベースで変換も必要ないからこそ締め切りに対応できたともいえますし、その1日があるだけでクオリティアップもできます。

撮影(イメージ)

空中で浮くものはテグスで上から吊るして撮る。コマ撮りというと、数mmで細かく動かして撮るように思えるが、結構ざっくりと動かして撮っていくとのことだ

――田辺監督はどのような環境で作業をしていますか?

iMacのIntel Core i5を搭載したモデルです。一般的に使われるような普通のMacですね。メモリーは12GBに増設したのですが、現在トラブルで4GBしか認識しません。ソフトメーカーのAdobeはPremiere Pro CS5やAfter Effects CS5は16GBぐらい搭載するのが理想だといっていました、その1/4だけですよ。しかし、今回の企画はコマ撮りなので、メモリーが4GBだけでもそれほどストレスなく作業をすることができました。

――実際にカメラを手にして撮影をしたときの使い勝手はいかがでしたか?

ボディーが小型なのとワイド端が29.3mmなのには助かりました。コマ撮りの撮影現場は非常に狭く、被写体とカメラの距離をとるためにカメラが壁にぶつかるほど限界まで下げる必要がありました。ズームのワイド端で撮影をするほどぎりぎりでした。また、カメラを真下に向けて真俯瞰のカメラアングルを組む撮影があったのですが、テキパキと対応できたのもこのサイズだからですね。あと、カメラによってはワイド端で撮ると端にいくほど画質の劣化が起きてマスクが抜きづらくなるものもありますが、XF305はワイド端で撮った画面の隅にあるものでも特に問題を感じることなく抜くことができました。

――EOSムービーとXF305の色合わせなどは行いましたか?

各シーンごとにカラーコレクションや合成したものに対しての馴染ませ作業は行いましたが、カメラごとの色を馴染ませるようなことは特にしていません。もしかしたらコマ撮りなので色味が変わっても気がつかないのかもしれません。雰囲気のある自然の絵をつなげている状態であれば気になるかもしれません。

――今後、EOSとXF305の2種類をどのように使っていきたいと考えていますか?

企画の内容に合わせたカメラの選び方があると思います。例えば、背景がバキバキのグラフィックスでしたらば、エッジが黒く浮いてしまっても許容範囲内です。高品質でないLo-Fiな合成をあえて制作することもあります。この場合は4:2:0のEOSムービーでいいと思います。逆に凄くリアルな背景を合成したいときはエッジが目立っていると、冷めてしまいます。僕としては、クロマキーで気になるところはエッジだけです。エッジを気にしたい場合は4:2:2 対応のXF305を使いたいです。

今後は、世界観のあるミュージックビデオや合成、きれいな実写の世界など演出によってカメラの使い分けが進むと思います。このような使い分けで、XF305は頼りになるカメラです。

各放送業務メーカーの4:2:2対応のカメラといえば上位シリーズのものが多く、購入しづらい価格帯のものばかりであった。しかし、XF305は個人のクリエイターでも手の届くほど、画期的な価格を実現しているのが魅力だ。

また、レンズの交換は未対応だが、ズームのワイド端は35mmフィルム換算時の焦点距離で29.3mmと広角な仕様を備えている。このレンズはHi-UD レンズとUAレンズといった歪みや収差を抑えたLレンズだ。ここまでワイドかつ高性能なレンズでこれほどコンパクトなボディーを実現しているところも見逃せない。XF305はローコストとハイクオリティを両立したカメラだ。特に、個人のクリエイターならばクロマキーとAfter EffectsとXF305で、ますます面白い映像ができるのではないか。

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