

主な仕事は自然ガイド、環境調査、展示やイラスト制作。大学では歴史を学び、山とスキーとカヌー三昧。その後ニュージーランドのアートスクールで学び、帰国後はNPOスタッフとして岐阜でネイチャーガイドを始める。動物カメラマン平野伸明氏の助手を経て、現在は環境コンサルタントの研究員と大学講師を務める。

朝7時、高尾山の登山道入り口は早くも夏の暑さ。ケーブルカーには乗らず、水辺を好む動植物が多く生息する6号路を歩く。
【1/600sec F8 ISO320 露出補正-0.3 焦点距離24mm】
梅雨の合間に久しぶりの快晴を迎えた撮影日当日は、平日だと言うのに登山客で賑わっていた。朝7時。高尾山は、富士山と並びミシュラン三つ星に指定されている名山だ。都心から最も近い登山スポットということもあり老若男女が気軽に訪れ山頂を目指すが、実は、足元に目を落としてみると小さな生き物が多く生息する、動植物の宝庫でもある。
初夏のこの季節は特に、トンボやチョウなどの昆虫が活発に活動を始める時期。当初はケーブルカーを使って山頂近くを調査しようと考えていたが、朝7時からすでに気温は30度近かったこともあり、涼やかな沢沿いを歩く6号路へ歩みを進めることにした。
普段は、鳥や昆虫、樹木など撮影する対象物に合わせて、単焦点レンズを複数持ち歩いている。だが今日はこの1台のみ。どれだけ撮影することができるのか、動植物を見つけるのと同じぐらい楽しみだ。
そう思いながらふと、空を見上げてみると、青々と葉をつけたイロハモミジが目に入る。少し距離があったが、ズームで葉に近づいてみると、肉眼では確認できなかったプロペラをつけた種が、実に見事にチルト液晶モニターに映し出された。ここまでスムーズに、かつ鮮明にズームができるとは正直驚いた。幸先のよいスタートに、心は高鳴った。
登山道も多くの人が見られたが、ケーブルカーにも多くの観光客が乗り込む。6号路はケーブルカー乗り場すぐ横の道から始まる。
【1/125sec F5 ISO500 露出補正+0.7 焦点距離約97mm】
スギの大木やさまざまな種類のカエデなどが生息する森。苔や太い根が張り巡らされた登山道には多くの動植物が生息する。
【1/80sec F5 ISO1250 露出補正0 焦点距離約54mm】
細く、体長わずか5㎝ほどのアジアイトトンボ。尻部分の色や形で種類を見分けるのだが、しっかり写せたのですぐに見極められた。
【1/500sec F5.6 ISO320 露出補正-0.7 焦点距離600mm】
早々にG3 Xの性能に驚かされてしまい、ついつい歩みも慎重になってしまう。ひとつでも多くの動植物を撮りたい、という欲張りな気持ちが高まってしまったためだ。足早に通り過ぎる登山客の多くに追い越されつつも、慎重に葉の茂みに目を凝らす。小さな生き物は、豊かな緑に上手に紛れこんでいるため見つけづらいが、すぐに活発に動き回るバッタや蝶、イトトンボ、アマガエルなどがひょっこりと姿を見せた。生き物は気まぐれで動くため、思い通りの撮影をすることはとても難しい。しかし、G3 Xはタッチパネルでピントが素早く合わせられるため、被写体を迅速に捉えることができる上、600mmズームで極限まで寄ることができる。通常ならば、その撮影の難しさゆえ、撮影後パソコンで画像をトリミングし拡大することで生体の確認を行うことが多いのだが、今回はその場ですぐにその細部まで見ることができた。さらに、ピントが合った部分に色づけしてくれるMFピーキング機能のおかげで、後でピントが合っていなかった……などという失敗もないのはとてもありがたい。

【1/500sec F5.6 ISO320 露出補正0 焦点距離600mm】
コミスジ(蝶)は、その羽の模様で種類を見分けることが多いので、これだけボケずに撮影できるのは嬉しい。目の模様までくっきり。
【1/500sec F5.6 ISO320 露出補正0 焦点距離600mm】
6号路では、沢の周りに苔むした石や木々などが見られ、夏でも涼しく歩くことができる。琵琶滝と呼ばれる滝も見所のひとつ。
【1/15sec F5 ISO1600 露出補正-0.3 焦点距離24mm】
アスファルトの登山道が終わると、道はスギやモミの天然林へと変わる。強い陽差しは緑のカーテンに遮られ、ひんやりとした空気が広がる道中には苔の生えた石や木々が多く見られる。この季節は鳥の声も少なく、沢の流れる音だけが響き渡る、荘厳とした雰囲気が広がっている。しっとりと水分を含んだ苔にカメラを向けてみる。苔は拡大してみると、肉眼で見るだけでは分からない、新たな表情を見られる繊細な植物。その小さな葉の細部にまで、確実にズームすることができるG3 Xは、研究者にとって非常に頼もしい存在だ。他の登山者の方々も熱心に観察していた人気のイワタバコは、この季節に咲く数少ない野草の一つ。このような花や、屈まないと撮影が難しい被写体も、チルト液晶モニターに角度をつけて楽に撮影することができた。
木肌に生えた苔。繊細な葉の一本一本にしっとりと水分を含んでいて、触れるとひんやり、そして、ふわふわ。
【1/13sec F5.6 ISO1600 露出補正-0.3 焦点距離600mm】
6号路には、動植物と同様に、多くのクモの巣も見られた。実は、標本を作るほどに、その姿形に興味を持っている私。頭上高くにも、足元にも、水面や木漏れ陽の光を受けてキラキラと輝くさまざまな形のクモの巣を発見するたびに、足を止めて見入ってしまう。頭上数メートル上にある巣さえも、カメラはその線の一本一本を捉える。崖下には、中心に細かく糸を張って身を潜めるウズグモの巣を発見。まるでレースのような、はたまた宇宙のような姿に、吸いこまれるようにそっとカメラを向けた。
頭上高くの木と木の間に巣を張ったクモ。ひっそりと身を潜め、虎視眈々と獲物がひっかかるのを待っている。
【1/320sec F5.6 ISO1250 露出補正-1 焦点距離600mm】
クモの巣に夢中になりふと気が付くと、あっという間に予定していた時間が過ぎていた。そろそろ切り上げようとしていると、鳥達の声が騒がしく聞こえてきた。正直、今日の撮影では鳥の撮影は難しいだろうな、と出発当初は考えていた。なぜなら、そもそも今は鳥の子育てもひと段落し、種ごとに個性がある“さえずり”をしないため、葉の生い茂った森で姿を捉えることは困難だからだ。また昆虫以上に動きが素早いために、この短い時間内では撮影できないと思ったのだ。しかし、ここまでの撮影でG3 Xの使い勝手の良さを体感したことから、姿さえ見えれば撮影はうまくできる自信があった。
夏鳥として南からやってきて、日本で子育てをする渡り鳥のオオルリ。まさに最後の最後に捉えることができた幸せの青い鳥。
【1/320sec F5.6 ISO320 露出補正+2 焦点距離600mm】
この声を聞いた以上、何としてもその姿を捉えたい衝動に駆られ、ギリギリの時間まで鳥を待つことにした。待つこと約1時間。やっと数羽のメジロやオオルリが姿を見せる。このチャンスを逃すまいと、素早くチルト液晶モニターにその姿を捉え、すかさずズーム。操作している間に、鳥の居場所を見失ったが、フレーミングアシスト機能のおかげで、ちょうど小枝にとまった瞬間のオオルリを撮影することができた。この機能は、ボタンひとつで倍率が下がり、被写体を確認し、再度捉え直してくれるのだ。これが手動であったなら、時間がかかってしまい鳥を撮影することは難しかっただろう。大満足の気分で時計を見ると、予定していた下山の時刻となっていた。
こんなに多くの出会いがあった。1台でこれだけの動植物を、今までにないぐらいの鮮明さと美しさで捉えることができたのは、嬉しい驚きだった。何台も持ち歩いていた私も、この1台で撮影は十分だと確信した。もう少し、この感動の余韻に浸りたいと、高尾山名物の蕎麦に舌鼓を打ち、高尾山を後にした。
※焦点距離は35mmフィルム換算の数値です。