ドキュメンタリー × CINEMA EOS Vol.2「Flee Solo」監督・撮影監督 ジミー・チン
独占インタビュー #1

今年の米アカデミー賞最優秀ドキュメンタリー賞受賞という世界最高の栄誉に続き、9月15日(現地時間)には、米国TV関係の祭典、エミー賞でもなんとノンフィクション部門7部門全賞を受賞するという前代未聞の快挙を成し遂げた映画『フリー・ソロ』。この偉大なドキュメンタリー作品を撮影するまでの道程とはどんなものだったのか?ジミー・チン氏への独占インタビューとともに、ジミー・チン氏の前作『MERU/メルー』の国内配給会社であるピクチャーズデプトの代表、汐巻裕子さんに『フリー・ソロ』成功までの軌跡を綴って頂いた。

  • Text & Interview:汐巻裕子(ピクチャーズデプト)

前作『MERU/メルー』から、今回の『フリー・ソロ』で、撮影やカメラ技術的に違ったこと、進化したと感じた部分は?

『MERU/メルー』で2008年の最初の遠征で撮影した時は、コンパクトデジタルカメラとCanon HF10のカムコーダーを使用しています。メルーの初遠征は最初からカメラに収めようと決めていたので、当時のテクノロジーで最適なカメラを選び使用しました。

2008年当時と次の2011年の2回目の遠征時を比べると、DSLRシネマトグラフィーの進化が目覚ましく、現場でのインパクトは大きかったです。ヒマラヤという極限での撮れ高に大きな進歩がありました。この2011年の遠征では、Canon EOS 5D Mark IIを使用していますが、これまでにないシネマルックと、私が求めていた絵のフィーリングを表現でき、初登攀時のコンデジとは明らかに完成度が違いました。

さらに、『MERU/メルー』の撮影時と今回の『フリー・ソロ』の撮影の間には、技術的に新しい波が起こっています。

『フリー・ソロ』の撮影現場で使用したCanon EOS C300 Mark IIには、撮影陣全員が大変満足していて、特に4Kの表現が素晴らしいと思います。なんと言ってもビッグ・ウォールのクライミングシーンから、シネマ・ヴェリテに至るまで、様々なドキュメンタリーのシナリオを、一つのカメラで収めることができるんですからね。

撮影機材を選ぶ際にもっとも重要視していることは?

『フリー・ソロ』の撮影機材を選ぶ際に最も重要視したのは、多機能、多才なカメラであることです。EOS C300 Mark II は、求めるクオリティをすべて兼ね備えていました。クライミング・シーンの撮影から、薄暗いアレックスのバンの中での撮影まで、広いレンジのシーンに、柔軟かつ簡易に対応してくれています。レンズは主にシネマレンズを使用し、明るさが必要な時はEFレンズを使用しています。オーディオはカメラにインプットしていますが、これもクライミングのドキュメンタリーの撮影現場では重要なポイントです。

『フリー・ソロ』で一番多用したレンズは?またレンズを選ぶ基準は?

17-120mmのCN7×17 KAS Sの出番が一番多かったですね。CN-E35mm T1.5 L FとCN-E50mm T1.3 L Fも多く使いました。
選ぶレンズは撮影するシーンによります。CN7×17 KAS Sの出番が多かった理由は、岩壁でのクライミングシーンはダイレクト・シネマの手法であり、一方でカメラが積極的にアレックスに関わることで浮かび上がるストーリーをアレックス本人に語らせるシネマ・ヴェリテのスタイルも取り入れたかったからで、その両者の表現に対応可能なレンズを選んでいます。本番撮影では二度と来ない一手一手のモーメントを逃さないために、AF(オートフォーカス)も多用しています。

フッテージのLog設定は?

ほとんどのCanonでの撮影素材は、XF-AVC 4k @23.976fps Log2とLog3で撮影しています。
『フリー・ソロ』の編集は、Avid Media Composer 8.8.5と DaVince Resolve for online/conformを使用しているので、EOS C300 Mark IIでのLog収録が大いに役立っていますよ。

Pre-Production(事前準備)、Production(撮影)、Post-Production(編集仕上げ)と進んでいくうちに、監督の感情に変化はありましたか?

『フリー・ソロ』の企画を考え始めたときから、ずっと頭の中にあったのは「撮影隊が密着することで、アレックスのクライミングに危険性を増すことになるのではないか?」という葛藤でした。僕自身もクライマーですから、撮影クルーが周りにいることで、アレックスがフォールする可能性が高まることを最も懸念しました。チャイ(エリザベス・チャイ・ヴァサルヘリィ=ジミーの妻であり、本作の共同監督)と僕は常に自問自答していたのです。「僕たちはアレックスの岩の上での意思決定を信じることができるか?」「映画撮影のプレッシャーがあることで、アレックスは普段だったらしない判断をしてしまうのではないか?」。

そして撮影が進むにつれ、毎日、ベストからワーストまであらゆるシナリオを想定して、すべてに対応すべく準備をしなければならないのですから、僕らの感情にも連日のように相当な変化がありました。だけどアレックスは日々、僕らが最初に信じた通りの結果を持って地上に帰ってきてくれたのです。

友人の死の瞬間を記録してしまうかもしれない、というこの作品の緊迫した撮影現場は我々には想像しがたいが、それをやり遂げることができた一番の理由は?

プロジェクトの間は、一日たりとも「ワースト・ケース・シナリオ」について考えなかったことはありません。残酷に聞こえるかもしれませんが、そう考えることで、逆にワーストケースが起こらないという確信が持てたのです。アレックスと僕の間には10年以上に渡るクライマー同士の強い信頼関係があります。アレックスは、私のことも他のクルーのことも、「自分のクライミングを最も安全に撮影してくれる仲間」として、心から信頼してくれていました。そして私は、アレックスが“本当に自分が登りたい時”、“心の底から準備が整ったと思える時”にしか、自分にGOサインを出さないことを、しっかり理解していました。