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デジタルカメラの分野で長年高い支持を得ているキヤノンは、そのキーデバイスである撮像素子「CMOSセンサー」のメーカーでもある。これまで自社製品のために開発・生産してきたキヤノンだが、その販売をついにスタートさせた。その狙いはどこにあるのだろうか。

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  • 2019.03.01

Episode.24 「CMOS SENSOR」

キヤノンが続けてきたCMOSセンサーの革新

写真:井上俊輔 キヤノン(株)でCMOSセンサーを含むデバイス開発全体を率いるデバイス開発本部長の井上俊輔 写真:小泉徹 キヤノン(株)で長年CMOSセンサーを含む半導体の開発に携わってきた小泉 徹

IoT、宇宙・天文、セキュリティ、医療、自動運転。新しい技術の登場と革新が続くこれらの分野では、"あるデバイス"がキーとなっている。それが撮像素子の「CMOSセンサー」だ。デジタルカメラやスマートフォンのカメラなどで使われてきた"機械の眼"は、新たな領域でその力を発揮し始めている。

キヤノンは、デジタルカメラの分野で大きなシェアを持つメーカーであると同時に、そのキーデバイスであるCMOSセンサーのメーカーでもある。

「撮像素子として初めてCMOSセンサーを搭載したキヤノンのデジタル一眼レフカメラは2000年発売の『EOS D30』ですが、キヤノンのCMOSセンサーの歴史はずっと前から続いています」

そう話すキヤノンのデバイス開発本部を率いる井上俊輔は、開発者としても長くCMOSセンサーに携わってきた。

「当時、デジタルカメラの撮像素子にはCMOSセンサーとは方式が異なるCCDセンサーが使われるのが一般的でした。しかしCCDセンサーは消費電力が大きく、動作速度が遅いというデメリットがありました。そこでオートフォーカス用センサーとして利用していた、信号の読み出しにCMOS回路を利用するCMOSセンサーに注目しました。消費電力や動作速度の面で優れており、大きな可能性を秘めたセンサーだと感じていました」

ただし、当時はCMOSセンサーを撮像素子に使うのは難しかった。

「CMOS回路によるノイズが多くなるという弱点があり、美しい映像の撮影には不向きだというのが大方の見方でした。しかし、デジタルカメラを進化させるには、省電力化や動作速度の向上は避けられません。そこで、CMOSセンサーの弱点を克服する方法を探りました」

ノイズ問題を解決するために開発部門のメンバーが選択したのは、CMOS回路のノイズを下げるのでなく、いっそCMOS回路技術でノイズを引いてしまう方法だった。そう振り返るのは、井上と共に長く開発に携わってきた小泉 徹だ。

「CMOSセンサーには、光を捉えるフォトダイオードとその信号を読み出すCMOS回路が並んでいますが、CMOS回路のノイズの量はそれぞれまちまちです。そこで、撮影の直前にCMOS回路だけの信号を読み出してノイズだけを記録する。その後すぐに光の分を上乗せした信号を読み出して、ノイズの記録を元に、後から読み出した信号からノイズ分を引き算して、ノイズの少ない画像を作ったのです」

「EOS D30」に搭載されたCMOSセンサーは約325万画素でISO感度は最高1600。現在ではスマートフォンのカメラにも及ばないスペックだが、そのセンサーが捉えた画像の美しさは、当時、新しい時代の幕開けを告げるには十分だった。それから約20年。CMOSセンサーは驚くほどの進化を遂げた。例えば『EOS 5Ds』では約5060万画素、『EOS-1D X Mark II』のISO感度は最高5万1200まで向上している。こうした技術革新の背景には、キヤノンならではの体制があると井上は話す。

「キヤノンにはCMOSセンサーの製品開発を行う部門だけでなく、CMOSセンサーを使ったカメラを開発する部隊、CMOSセンサーを工場で製造する部隊まで同じ社内にそろっています。キヤノン内でカメラ開発、センサー開発、センサー生産が完結できることが、革新性を生む源泉の一つになっているのです」

CMOSセンサーは半導体の一種だが、他の半導体と同様に、開発と生産それぞれの部門の連携が不可欠だと小泉はいう。

「設計図に込められた技術を生産現場が知らなければ高品質な製品はできません。逆に生産の現場を知らなければ実現可能な設計ができないのがCMOSセンサーです。その連携が緊密であればあるほど性能を最大限まで引き出せ、革新的で高品質な製品を世に送り出せるのです」

こうしてデジタルカメラの分野でCMOSセンサーを進化させてきたキヤノンが今、CMOSセンサーが鍵となる新しい市場に目を向けている。

画像:「EOS」と共に進化を続けてきたキヤノンのCMOSセンサー

「EOS」と共に進化を続けてきたキヤノンのCMOSセンサー
CMOSセンサーの撮像素子としての可能性に注目して開発を進め、2000年発売の「EOS D30」で撮像素子として採用。以後「EOS」シリーズの進化に合わせて開発を続け、多画素化、高感度化、大型化を進めてきた。15年発売の「EOS 5Ds」では、有効画素数約5060万画素という多画素化を実現。高感度化では、16年発売の「EOS-1D X Mark II」の常用ISO感度は51200にまで向上している。自社のビデオカメラや産業カメラなどにも搭載されているだけでなく、17年にはCMOSセンサーの外販もスタートさせた。

画像:成長が続くCMOSセンサー搭載カメラの世界市場

成長が続くCMOSセンサー搭載カメラの世界市場
矢野経済研究所が2017年に行った調査によると、世界における2016年のCMOSセンサー搭載カメラのメーカー出荷台数ベースは、前年比10%増の約40億600万台と推計され、2020年には51億9000万台に達するものと予測されている。

CMOS SENSOR 【 シーモス センサー 】

写真:EOS R SYSTEM

キヤノンは、デジタルカメラなど自社製品のキーデバイスとして開発・生産してきた技術とノウハウを生かした、産業向け撮像素子「CMOSセンサー」の販売を始めた。2019年3月現在、約1億2000万画素という超多画素の「120MXSC」「120MXSM」、低照度環境下でもカラー動画の撮影が可能な超高感度の「35MMFHDXSCA」、高速で動く被写体を歪みなく撮影できるグローバルシャッター機能搭載の「3U5MGXSC」「3U5MGXSM」の3種類をラインアップしている。

CMOS SENSOR 製品情報

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    "新しい領域"への挑戦と市場からの多様なニーズ

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