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ビジネスの重要キーワードを読み解く マーケティングトレンド2022

新型コロナウイルス感染拡大の影響で「新しい生活様式」に対応していく年だった2021年。社会のトレンドや需要においては、大きな転換の年になったといえるだろう。では、2022年はどんなトレンドが予測され、どのようなマーケティングを行っていけばいいのか。ニューノーマル時代のトレンドキーワードと、それにまつわる先進事例、有識者へのインタビューから読み解いていく。

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  • 2022.03.01

ビジネスの重要キーワードを読み解く
マーケティングトレンド2022

general remarksデジタル活用で消費者の嗜好をつかみ、真のニーズを見つける企業が進化する

長引く新型コロナウイルスとの闘いの中でも、人々は前を向き、歩みを進めている。企業も新しい暮らしにマッチした製品やサービスを数多く提供する中で、2022年のマーケティングや技術のトレンドはどう変化し、それによってビジネスがどう進化していくのか。日経クロストレンド編集長の佐藤央明さんに聞いた。

サービスの垣根を越える「トークンエコノミー」

写真:佐藤 央明さん 佐藤 央明(さとう ひろあき)
日経クロストレンド
編集長
東京大学法学部卒。出版社勤務後、英国大学院で修士号取得。2004年日経ホーム出版社(現・日経BP)に入社。『日経トレンディ』『日経ビジネス』記者などを経て、10年より『日経トレンディ』副編集長、17年より編集長。毎年12月号恒例の「ヒット商品ランキング」デスク歴は約10年。20年より『日経クロストレンド』副編集長、21年より現職。

中長期的に注目すべきトレンド(技術、マーケティング、消費)について、日経クロストレンドがまとめた記事「トレンドマップ 2021下半期」では、技術分野の将来性における第1位は「トークンエコノミー」でした。22年を「トークンエコノミー元年」と予測する声もあり、私たちの生活にさらに浸透していくと考えられます。

トークンエコノミーとは、トークンと呼ばれるデジタルマネーや認証デバイスを利用した経済圏です。代表されるのが「NFT(非代替性トークン)」で、21年から国内企業でも参入が進んでいます。NFTはもともとブロックチェーン※1から始まった技術で、デジタル資産に取引履歴をひも付けることで改ざんが非常に困難になるというもの。米国でNFTのトレーディングカードが高値で取引されるなど、投機的な側面がクローズアップされがちですが、本来は、異なる企業のサービスを、ユーザーが横断的に利用(デジタル上でモノを保有)できることがトークンエコノミーの本質です。

例えば、今はLINEのスタンプはLINEの中でしか使用できませんが、10年以内にはサービスやプラットフォームの垣根を越えて使えるようになるだろうといわれています。リアルな資産との融合も可能で、アニメのセル画の真贋(しんがん)証明をした上で所有権をNFT化して流通させたり、経過年数そのものが価値となるウイスキーの熟成時間をブロックチェーンで管理したりする事例もあります。

個人的にはNFTとも関連の深い「メタバース」に注目しています。利用者はオンライン上に構築された3DCGの仮想空間にアバター(自分の分身)で参加します。その仮想空間では、世界中から集まった利用者が相互にコミュニケーションをとりながら、買い物や商品の制作・販売といった経済活動を行えます。職場や家庭とは異なる、もう一つの「現実」として誕生した技術です。

仮想空間というと、2000年代半ばに流行したものの、一過性のブームに終わった「セカンドライフ」を思い出す方も多いと思います。当時との大きな違いは、PCやサーバーの処理能力や3DCGの劇的な進化です。リアリティー度が増したことで多様なサービスへの実装が進み、メタバース内での経済活動に成長性が期待されるようになったのです。

技術分野で将来性において第2位となった「GNSS(衛星測位システム)」は、位置情報の精度を高める技術です。自動運転やドローンへの利用が期待される大本命の技術といえます。

コロナ禍でも思いのほか進まなかった「遠隔医療」は、将来性という観点では前回調査に続き高止まりしています。この流れが逆戻りすることは考えにくく、引き続き注目したい技術です。

※1 ブロックチェーン:暗号技術を用いて取引履歴〈ブロック〉を過去から1本の鎖のようにつなげ、正確な取引履歴を維持する技術

GNSSの概略図

図:GNSSの概略図

GNSS(衛星測位システム)は、米国のGPS、日本の準天頂衛星(QZSS)、ロシアのGLONASS、欧州連合のGalileoなどの総称。日本ではGPSとQZSSを組み合わせ、高精度で安定的に測位を実現するシステムを構築。2023年にQZSSは4機から7機に増える予定

売って終わりの時代から"売ることが始まり"の時代へ

メーカーなどでは、売り切り型のビジネスモデルからの転換が進み、売ってからスタートするカスタマーサクセスに注目が集まっている

マーケティング分野では「カスタマーサクセス」や「LTV(顧客生涯価値)」など、CRM(顧客関係管理)に関するキーワードが前回調査に続き注目を集めています。デジタル化が進み、顧客が誰で、どこに向かい、何を買っているか、といった情報をどの企業も把握できるようになりました。その結果、購入時や使用時の成功体験を積極的にサポートするようになりました。

カスタマーサクセスは、問い合わせなどに答えるカスタマーサポートとは異なり、顧客や利用者の成功体験を積極的に助けていく取り組みといえます。

カスタマーサクセスは、SaaS型とCX型※2の2種類に分けられます。SaaS型の例としては銀行系アプリがあります。単なる入出金だけでなく、例えば運用アドバイスや外貨預金、保険の申し込みなどの機能を加えることで、解約や離反につながる要因を取り除きながら顧客の選択肢を広げていきます。結果、顧客との接点を常に持ち続けることに成功しています。

顧客と接点を持ち続ける(製品やサービスを継続利用してもらう)ことを前提としたSaaS型に対し、CX型は製品やサービスの利用によって成功体験を得る(悩みが解決できたり、目的を達成できたりする)ことを重視するといった違いがあります。顧客の成功体験がファンを増やし、ファンが新たな顧客を呼び寄せることで、すそ野を広げていくわけです。

こうしたマーケティング手法の変化は、事業の在り方も変えています。例えば、これまではテレビCMを大量に流して認知度や好感度を上げ、「商品を買ってもらうこと」に注力したビジネスが主流でした。ところが、一度つながった顧客と長くお付き合いを続けることでLTVを上げていく方が、事業継続性が向上すると多くの企業が気付いた結果、「売ることが始まり」になったのです。21年はその変化が顕著で、22年以降も続くだろうと見ています。

顧客や利用者と接点を持つという意味では、SNSを活用した情報発信が重要になります。

例えば、イスラエルの化粧品メーカーSABON(サボン)は、かつては企業側から一方的なブランド観の発信を行っていましたが、試行錯誤の末、買った人たちがその使用感や体験を記録し、自ら発信したくなるような写真イメージを例示するアプローチに切り替えました。結果、利用者の参加意識が高まり、「UGC(ユーザー生成コンテンツ)」が増えました。顧客と接点を持ち、継続的な関係を築いた好例といえるでしょう。

※2 CX型:カスタマーエクスペリエンス(顧客体験)に軸を置いたカスタマーサクセス

意義あるものへの消費に前向き、Z世代の価値観が社会を動かす

情報感度が高いだけでなく、情報発信にも積極的なZ世代が、社会の消費動向に影響を及ぼしている

最後に、消費動向の傾向としてぜひ押さえておいていただきたいのが、「Z世代(1990年代後半から2010年ごろまでに生まれたデジタルネイティブな人たち)」です。日経クロストレンドでも、Z世代の記事は非常に多くの方たちに読まれています。

分かりやすいのは「TikTok売れ」という現象です。多くの企業にとってまだ主たる購買層ではない若い世代ですが、社会の消費動向に影響を及ぼす存在となりつつあります。Z世代の興味深い傾向としては、「多少金額が高くても、社会貢献できる商品を購入するか」という質問に対して、「購入する」と答えた率が他の世代よりも高かった点があります。

同様に、「SDGs」や「脱炭素」といったトレンドは、もはや一過性のブームではなく、企業も個人も、本気で取り組むべきテーマとなっています。エシカル※3消費や社会貢献といった価値観を大事にするZ世代が消費をけん引し、それが近接する世代にも影響を与える。やがて社会全体の動きに波及していくと推察しています。

※3 エシカル:エシカル(Ethical)は直訳すると「倫理的な」という意味。人間が持つ良心から発生した社会的な規範を指す

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    ケーススタディ1
    ファンベースマーケティングを実践、
    熱量の高いファンがUGCを生み新たなファンを呼ぶ
    「ヤッホーブルーイング」

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