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トップ > imaging S 人馬一体となる瞬間に光をあてて 写真家 中西祐介さん
© Yusuke Nakanishi
高校生のときに「自分が見て感じたことを人々に伝えたい」という思いを抱き、写真家になることを決意した。大学でドキュメンタリー写真を学ぶ中で関心を持ったのは、表舞台に立つまでの"裏側"のストーリーだ。卒業制作ではボクサーに密着。出版社に就職してからも同じボクシングジムに通い、10年間、試合の裏側を撮影し続けた。
転職先ではスポーツ写真の部署に配属され、数多くの国際大会を撮影した。
「場数を踏んでも全然うまくならなくて、上司に『写真が変わった』と認められたのは入社して5年がたったころ。それまでは会社に撮らされているという意識がどこかにありました。でも、責任を意識して能動的に撮ることを心掛けるようになると、今まで見えていなかったものが見えてきました」
写真が変わったことを評価してくれたエディターからの、「これからも謙虚であれ」という言葉を胸に撮影を重ねる中で出合ったのが馬術だ。
「初めて馬術を撮影したのは2008年。繊細でありながらダイナミック。人馬一体となって挑む素晴らしさに圧倒されましたが、日本ではほとんど報道されません。だったら競技の迫力や美しさを写真にして、一人でも多くの人に知ってもらおうと思ったんです」
1枚目の写真は、JRA馬事公苑で開催された全日本障害馬術大会2020でのもの。まるで馬が大空を羽ばたいているかのようだ。
「160センチを超える障害物を跳ぶこともあります。その高さを表現するために背景とのバランスを予測してカメラを設置して撮影しました」
2枚目の写真は、全日本総合馬術選手権で撮影した中島悠介選手&クレジットクランチ。
「人馬一体となり、障害物に果敢に挑む様子を正面から捉えました。馬の美しさや競技の醍醐味が感じられる最高の瞬間を狙うようにしています」
表舞台の裏側にもカメラを向ける。3枚目は、つま恋乗馬倶楽部の上野きり選手&クワコート。馬の体温を感じられる位置に立ってもらい、ポートレートを撮影した。
「自然に穏やかな表情を見せてくれました。選手と馬の信頼関係があるからこそ、捉えることができた瞬間です」
選手と馬の絆なしには競技で結果を残せない、と中西さんは話す。
「選手は馬と何年も同じ場所で生活し、毎日コミュニケーションをとりながら、信頼関係を築いていく。だからこそ馬は選手を信用して障害物を跳ぶことができるんです。華やかな表舞台の裏には、馬と人が培ってきた強い絆がある。そのことを、今後も作品を通して伝えていきたいと思っています」
中西祐介(なかにし ゆうすけ)
1979年東京都生まれ。東京工芸大学芸術学部写真学科卒業。講談社写真部、アフロスポーツを経て2018年よりフリーランスフォトグラファー。これまでに数多くの世界的なスポーツイベントを撮影、報道媒体に写真を発表。近年は馬術競技を題材にした「馬と人」をテーマに、ライフワークとしてドキュメンタリー制作活動を行っている。