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  • 2023.12.07

写真を楽しむことこそが、原動力 写真家 立木義浩さん


© Yoshihiro Tatsuki

地道にきちんと撮り続けることが自分の支えになる

© Yoshihiro Tatsuki

半世紀以上にわたり、一線で活躍し続ける写真家の立木義浩さん。現在も新たな表現を生み出し続ける立木さんの原点は、故郷の徳島県。写真館を営む両親の元に生まれ、写真は幼いころから身近な存在だったが、大きな影響を受けたのは中学生の時に出合った映画だという。

「洋画専門の映画館ができて、『波止場』や『エデンの東』は何回も観に行った。自分の日常にはない"別の世界"への憧れが、写真に導いてくれたのかもしれないね」

東京写真短期大学(現・東京工芸大学)卒業後にグラフィックデザイナーの草分けでもある堀内誠一氏が設立の一員だった広告会社アドセンターに入社。一人写真部で、カメラマンとしての一歩を踏み出した。

「写真部といってもたった一人で、師匠や先輩はいない。技術を身に付けるのには時間がかかったけれど、任せっぷりの良い会社だったから、どんどん面白いことをやってやろうと思った。時代を背負っている感覚もあったね」

その後フリーランスになってからも、さらに活動の幅を広げていく。ファッション誌、著名人のポートレートなど、目まぐるしく変化する時代とともに、あらゆる仕事を精力的にこなしていった。

「でも、ある時、ふと仕事に対する丁寧さが欠けていると感じ、自分が消費されていくような感覚に陥った。その時、表舞台の仕事だけではなく、きちんと写真に向き合い、地道に撮ることの大切さにあらためて気付いたんだ」

東日本大震災後は石巻へ何度も足を運び、石巻の"今"を撮り続けた。現地の人々と継続的に触れ合い、写真を撮ることが、立木さんの支えにもなっているそうだ。

2022年から2年にわたり、キヤノンマーケティングジャパン企画の「日本再発見プロジェクト」の撮影のため、沖縄の八重山諸島を何度か訪れた。

「八重山には、まだ見ぬ風景があり、すてきな人たちがいる。今まで気付かずにお恥ずかしい限りという気持ちで、頭を下げて撮らせていただいた」

軽トラックに乗る男性と犬が海辺の風景に溶け込む1枚目の写真は、まるで短編映画の一シーンのよう。

「自分があまりに自然から離れたところに住んでいるから、こういう瞬間を敏感に感じ取るのかもしれない。島の人がこの写真を見て、自分の故郷がいかに素晴らしいかに気付いてもらえたらいいね」

2枚目は、石垣島から西表島へのフェリーの中から撮影した風景だ。

「波が高くて外には出られない。窓からカメラを向けていると、ちょうど雲のところに光が当たった。それが、沖縄の人々が信じるニライカナイ(海の彼方の理想郷)のようで、シャッターを切ったんだ」

西表島の租納(そない)集落では、島の人々を招待して記念写真を撮影。3枚目の写真はその時の一枚だ。

「胸にコサージュをつけて来てくださったご婦人は、記念撮影を"ハレの日"にしようという気持ちだったのだと思う。はにかんでいる表情から含羞(がんしゅう)が感じられて、撮影している自分もうれしくなったよ」

「今でも撮り続けているのは、やっぱり写真が面白いから」。そう笑顔で教えてくれた立木さん。その想いはこれからも、立木さんを突き動かす原動力となるはずだ。

  • 写真:立木義浩さん

    立木義浩(たつき よしひろ)
    1937年徳島県生まれ。65年の『カメラ毎日』(毎日新聞社)に掲載された『舌出し天使』でデビュー。著名人や市井の人々を数多く撮影するとともに、世界を巡り、現地の日常と光と影を捉えてきた。初めて使ったキヤノンのカメラは、1970年発売の「キヤノデートE」。「日本再発見プロジェクト」は「your EOS.」公式サイトで公開中。

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