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トップ > imagingS 「ファインダーの中に溢れる命」 写真家 福田幸広さん
© yukihiro fukuda
テレビドラマが全ての始まりだった。1980年代初頭に放映されていた『池中玄太80キロ』。その劇中で西田敏行扮する通信社のカメラマンがライフワークとして撮り続けていたのが、タンチョウの写真だった。
「こんなにきれいな鳥がいるんだ、ここに行ってみたい──。そう思ったのが最初でした」
福田幸広さんは中学生だった当時をそう振り返る。しかし、タンチョウの生息地である北海道は、東京に暮らす中学生にはあまりにも遠い場所だった。必死にアルバイトをしてためたお金でカメラと寝台車のチケットを買い、単身北の大地を目指したのは、高校一年の冬になってからだ。
真冬の釧路駅で駅員にタンチョウがいる場所を聞いて、乗客のまばらなバスに乗った。目的地で目にすることができたツルはわずか二羽のみだったが、それで十分だった。雪原に舞うツルの姿を前に、夢中になってシャッターを押し続けた。
「ファインダーに生き物を捉えると、躍動感が枠の中に凝縮されて、完結した世界がそこに生まれる。そんなことを感じました。それから動物写真にのめり込むようになりましたね」
撮影に先んじて徹底した観察とデータ収集を行うのが、現在の福田さんのスタイルだ。対象となる動物がどこにすんでいて、いつ姿を見せるのか。どの個体がより近づきやすいか。どのようなルートでそこに近づいていけばいいか──。その「仕込み」が撮影の成否を大きく左右すると福田さんは言う。
そんな十分な準備をして撮影したのが、1枚目のウォンバットの写真である。撮影地はタスマニア州の国立公園。柔らかな光を浴びてゆっくりと草を食む愛らしい姿が捉えられている。
「時間をかけて、動物がリラックスするのを待つことを心掛けています。こちらが石のようになってひたすらじっとしていると、向こうから近づいてくるんです。それを待って、静かに一つひとつシャッターを切っていきます」
2枚目の写真は、警戒心がとりわけ強いといわれるカンガルーの求愛の場面を写した一枚だ。横たわる雌のうっとりとした表情が幸福感を伝える。
一方、3枚目は現在も撮影を続けているアナグマの写真。なかなか姿を見せず「これまでで一番撮影が難しい」というそのアナグマの子どもを至近距離で撮影することに成功している。
動物の生態に疑問を持ち、時間を厭わずにその一つひとつを解決していくことが自分にとっての撮影なのだと福田さんは言う。自分が愛するものを深く知りたいと願うその心の力によって、彼は命の確かな姿を捉え続ける。
福田 幸広(ふくだ ゆきひろ)
1965年東京生まれ。日本大学農獣医学部を卒業後、1年弱の会社員生活を経て動物写真家となる。ニホンザル、マナティ、オオサンショウウオなどに密着した撮影の成果は、写真集や写真絵本として出版されている。米国「Nature’s Best International Photography Awards 2003」にて動物写真部門最優秀賞受賞。第64回(2015)「小学館児童出版文化賞」受賞。