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トップ > imagingS 「人々が生きる場所を見下ろす眼」 写真家 本城直季さん
© Naoki Honjyo
初めにあったのは「街」に対する強い興味だった。
「東京という街は不思議な場所だといつも感じていました。一つひとつの建物は別々に建てられたのに、遠くから眺めると、全てがまとまって一つの集合を形作っているように見えます。そして、その風景が延々とどこまでも続いています」
仮想空間のような街──。写真家・本城直季さんは、自分が生まれ育ち、現在も暮らす東京をそう表現する。
上の写真は、そんな東京の姿をデジタル一眼レフカメラで空から捉えた一枚だ。ビルが夕刻の光に映えて淡い色に染まる。完全な人工物でありながら、自然に増殖した有機物のようにかなたまで連なる建物の群れ。写真家の独自の感覚によって、東京という街の「不思議さ」を絶妙に表現した作品と言っていいだろう。
本城さんが写真を本格的にはじめたのは、大学の写真学科に入ってからだ。東京工芸大の大学院に在学している頃に、「シノゴ」と呼ばれる4×5インチの大判フィルムカメラを使って行うアオリという特殊な撮影手法に出合った。
「橋の上から川岸で釣りをしている人をその手法で撮影したら、偶然ジオラマのような面白い写真が撮れたんです」
ビルや街を行く人々のミニチュアを緻密に配した精巧なジオラマ。そう思って写真をよく見れば、それはミニチュアでもジオラマでもなく、実際の風景を俯瞰して撮影した不可思議な作品だった──。そんな経験をしたことはないだろうか。
通常はピントの合う範囲を広くしたり、画像のゆがみを補正するためにレンズの角度調整を行うアオリだが、あえて被写体の一部にのみピントが合うように角度調整することで、見る人が幻惑するような独特な作風の写真となる。その手法で撮影したのが、右の二つの作品だ。夜の街とたくさんの人々が集うプールが、まさしくミニチュアの模型のように表現されている。
最近は、デジタル一眼レフカメラを利用する機会が増えているという。
「日が傾きはじめた時間の風景をヘリコプターからシノゴで撮るのは、ほぼ不可能です。夕方の街の空撮写真は、デジタル一眼レフカメラだからこそ撮れた作品ですね」
ビルの上や展望台やヘリコプターから東京の街を見下ろし続ける。上空から東京を見ると、「自分はこんな場所で生きているのか」という驚きがいつもある、と話す。それはまた、彼の作品に触れる私たち一人ひとりの驚きでもある。夢は世界中の街を撮影すること。彼はこれからもきっと、新鮮な驚きを私たちに届けてくれるに違いない。
本城 直季(ほんじょう なおき)
1978年、東京都生まれ。東京工芸大学大学院芸術学研究科メディアアート専攻修了。大学院在学中から写真コンテストなどに応募し、卒業後本格的にプロの写真家として仕事をはじめる。写真集『small planet』(リトルモア)で木村伊兵衛写真賞を受賞。ほかに宝塚歌劇団の舞台を撮影した『TREASURE BOX』(講談社)や、『Shinkirou』(リトルモア)などの写真集がある。