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  • 2016.09.01

「人々の表情を、農村風景に刻む」 写真家 公文健太郎さん


© Kentaro Kumon

いい写真とは“残る写真”。被写体と密接な関係を築き、最高の瞬間を記録する

© Kentaro Kumon

「おばちゃん、お久しぶりです。今年の収穫はどう? 3年前に写真を撮らせてもらったでしょう。あの場所で、もう一度、写真を撮らせてほしくて」

写真家・公文健太郎さんが、北は北海道紋別郡から、南は沖縄県八重山諸島まで撮り歩いた農村風景の写真集『耕す人』。鑑賞者の心を打つのは風景の美しさだけではない。ページをめくると、公文さんの温かな眼差しで捉えられた、農村で生きる人々の表情こそ彼の写真の本質だと気付く。

「じゅんさいを採っている女性の写真は、5年前にも撮影したことがあり、自分では満足できる仕上がりでした。でも、久しぶりに女性に会いに訪れたところ、彼女は『実はあまり好きな写真じゃなかった』と言うんです。体調が優れない時期だったので、自分が弱々しく見えるような気がする、という理由からでした。僕は彼女に喜んでもらいたくて、もう一度同じ場所で撮影をしました」

これは1枚目の写真のエピソードだ。公文さんは、自分の足を使い、同じ場所を何度も訪ね、コミュニケーションを大切にする。2枚目の写真も、道で偶然出会い撮影した女性を5年後に再び訪ねた時のもの。3枚目の写真は、公文さんが自ら稲刈りを手伝い、被写体の男性と多くの言葉を交わしながら撮ったものだという。

「いい写真とは“残る写真”だと思うんです。技術的に優れていても、多くの人に、長く見続けてもらわないと意味がない。眺めるたびにさまざまなことに気付かされたり、人によっていろいろな見方ができたりする写真こそ、時代を超えるのだと思うんです」

写真人生の原点は、ネパールにある。高校3年生の時、訪れたネパールのカトマンズ郊外に、公文さんを魅了する農村風景が広がっていた。

「子供の頃から農村風景は見慣れていましたが、ネパールには原風景のような、何か記憶に引っかかるものがあった。そこで写真を撮った時、『これだ』と感じたんです。翌年から何度もネパールを訪ね、父親からもらったカメラで撮影に明け暮れました」

その後、公文さんはプロの写真家として歩んでいくことを決意。幅広いメディアで活躍する一方、旅を続け、農村風景の撮影をライフワークとして選んできた。

「自分の作品撮りも、仕事として依頼された撮影も、本質は同じ。どちらも人とのコミュニケーションが要です。僕の幸せは、長く付き合える人々との出会い。撮影で知り合った農家の方から、定期的にダンボールいっぱいの野菜が送られてくる。箱を開けた瞬間、本当に幸せだなって感じますね」

  • 写真:公文健太郎

    公文 健太郎(くもん けんたろう)
    1981年、兵庫県生まれ。本橋成一さん、山口規子さんの下で写真を学び、雑誌、書籍、広告で写真家として活動しながら、国内外で作品を制作。主な写真集に『大地の花』(東方出版)、『BANEPA』(青弓社)、『耕す人』(平凡社)、フォトエッセイに『ゴマの洋品店』(偕成社)、写真絵本に『だいすきなもの』(偕成社)。2012年、日本写真協会新人賞を受賞。

  • 主な撮影機材

    • 写真:EOS 5Ds

      EOS 5Ds

    • 写真:EOS-1v

      EOS-1v

    • 写真:EF35mm F1.4L II USM

      EF35mm F1.4L II USM

    EOS 製品情報

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