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  • 2017.03.01

光と色と形が織りなす造形 写真家 中西敏貴さん


© Toshiki Nakanishi

自然の営みが生み出す瞬間の表情を捉える、写真家の目と心と技

© Toshiki Nakanishi

一見、他の惑星で撮られたように見える不思議な写真だ。小さく写る人の姿が、かろうじてこれが地球上の風景であることを知らせる。では、この人はいったいどこを歩いているのか──。

1枚目の作品は、北海道・美瑛町の砂糖大根の広大な畑の写真である。倒れている苗を手作業で起こすという気の遠くなるような作業を、畑の主人が黙々と続ける様子をカメラに収めた。

風景の「造形感」を表現したい。中西敏貴さんはそう話す。花、木、山、川、月といった対象を定めて撮るのではなく、自然が巧(たく)まずしてあらわにする色や形やパターンを捉えること。それが彼の築く美しさだ。

「例えば、山道を歩いていると、光と影が織りなす造形の美しさに心をつかまれることがあります。その『美しいと感じた気持ち』をストレートに伝えたい。そう思っています」

2枚目の写真は、その造形感がまさしく芸術表現の域に達した一枚と言っていいだろう。畑のため池に薄氷が張り、そこに雪が舞い落ちる風景である。氷の厚さの違いが色の違いとなり、水墨画のような幻想的な模様を生み出している。風景をつくり出すのは自然の営みだが、それを1枚の写真として切り取るのは写真家の目と心と技だ。「風景写真は"形"だけでも成り立つということを伝えたい」と彼は言う。

写真家を志したのは大学生の時だった。写真部に入部し、友人と訪れた北海道で自然を撮ることの面白さに魅了された。自分のテーマは風景、と思い定めたが、風景写真家として身を立てることができそうにはなかった。

大学卒業後、公務員となり、写真家への道を一度は絶った。しかし、情熱は収まってくれなかった。金曜の夜になると、車に飛び乗って写真を撮りに行く。そんな生活を18年間続けた。

思い切ってプロにチャレンジすることを決めた時には、40歳になっていた。「2年で物にならなかったら諦めて」という妻の言葉を背に、独り北海道を目指した。「1日500枚、一切捨てカットなしで撮れ」という師の言葉を守り、必死にシャッターを押し続けた。結果的に2年という短期間で職業写真家への扉が開かれたのは、がむしゃらな努力と情熱、そして写真への深い愛情があったからだ。

北海道の冬は長い。春になって雪が解けると、ため込んだエネルギーを爆発させるように、花々が一斉に咲き乱れる。3枚目のカタクリの写真は、その様子を収めたものだ。中西さんもまた、長い「冬の時代」に蓄えたあふれるような情熱を爆発させ、写真家の道を邁進する。プロとなって5年。彼の春は、まだ始まったばかりだ。

  • 写真:中西敏貴

    中西 敏貴(なかにし としき)
    1971年大阪府生まれ。独学で写真を学ぶ。大学卒業後、公務員生活を送りながら写真を撮り続け、2012年、撮影拠点である美瑛町に移住。光を強く意識した風景作品に取り組み、プロとしての活動を始める。これまで7冊の作品集を出版している。PHOTO OFFICE atelier nipek主宰。NPO法人 北海道を発信する写真家ネットワーク会員。日本風景写真協会指導会員。

  • 主な撮影機材

    • 写真:EOS 5D Mark IV

      EOS 5D Mark IV

    • 写真:EOS 5D Mark II

      EOS 5D Mark II

    • 写真:EF24-105mm F4L IS II USM

      EF24-105mm F4L IS II USM

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