カテゴリーを選択

トップ > imaging S 心地よい一瞬を切り取る 写真家 tsukaoさん

  • Twitter
  • Facebook
  • imaging S
  • 2018.06.01

心地よい一瞬を切り取る 写真家 tsukaoさん


© tsukao

五感で感じたままに愛おしい瞬間を腹を据えて切り取る

© tsukao

子どものころから表現するのが、好きだった。小学生の時、お年玉をためて買ったトイカメラで、近所に生まれた子犬の写真を撮影し、記事を書くなど手製の新聞作りに熱中していたという。

大学時代には写真部に所属。卒業後は、レコード会社でデザインアシスタントに就くが、仕事で写真を扱うにつれ、「もう一度写真をしっかりと勉強してみたい」という衝動に駆られるようになった。実践を通して技術を身に付けようと、アシスタントを募集していた菅原一剛氏の下で修業を始めた。

「経験もゼロ、重い物を持つのも苦手。私が師匠なら雇いたくないと思います」とtsukaoさんは苦笑する。

その分時間はかかったが、技術はもちろん作品コンセプトの突き詰め方や展覧会の手法など、写真家のノウハウを3年間で貪欲に吸収した修業時代だったと振り返る。

「ある時、私の写真を見た師匠から『チョコマカと動かず腹を据えて撮れ』と言われたんです」。その一言が転機になった。それまでは、感性を頼りにシャッターを切っていたが、被写体に対峙(たいじ)する意識を持つようになったのだ。研ぎ澄ました目で、心を動かされた一瞬を射抜く鋭さが、写真に表れ始めた。

そんな刹那を逃さない強い思いを内奥に宿しながらも、tsukaoさんの視点はあくまで優しい。1枚目の写真、タイ・クラビの海岸の風景は、バカンスを楽しむ人々の表情や会話、波音など、視覚だけでなく、五感で感じるその場の空気感までも切り取っている。

「嫌なことも多い世の中。でも、こんな愛すべき場面が世界のどこかで起きているなら、生きることって楽しい。そんな瞬間を切り取るのが、私のテーマ。"かわいい"でも"面白い"でも"心地よい"でも。見た人の感情が動き、心が軽くなるような愛おしい瞬間をうまく捉えられた時小躍りしたくなるんですよ」

今年、初めて行ったケニアで撮影した2枚目のキリンの写真にも、その視点は表れている。旅立つ前までは動物を撮るつもりはなかったが、象やキリンたちが家族でじゃれ合う姿がほほ笑ましく、気付けばカメラを向けていたという。3枚目の写真は、公園の池の水しぶきの、一瞬のきらめきを捉えたものだ。

人物、旅先の風景、動物……tsukaoさんの写真のジャンルの多彩さに驚く人は多いだろう。しかし、その根底にあるのは、全ての物事や事象を愛おしいと感じるまなざしだ。日常にスポットを当てる姿勢は、子どものころに無心に子犬を撮った時から変わらない。生きているとこんなに素敵なことがある。何げない日常のそんな瞬間に立ち合うために、彼女は人に、風景に、物に、腹を据えて向き合い続ける。

  • 写真:tsukaoさん

    tsukao(つかを)
    1977年、神戸市生まれ。神戸大学卒業後、2003年より菅原一剛氏に師事。06年に独立。広告、雑誌、書籍、音楽など、幅広く活動。著書に『東京空気公園』(主婦の友社)、写真詩集『〈どこかの森〉のアリス』(LD&K)、写真集『ALL L/Right』(リブロアルテ)、『雪の国の白雪姫』(PARCO出版)など。主に写真や映像を担当し、監督も行った。

  • 主な撮影機材

    • 写真:EOS M5

      EOS M5

    • 写真:EOS Kiss M

      EOS Kiss M

    • 写真:EF-M55-200mm F4.5-6.3 IS STM

      EF-M55-200mm F4.5-6.3 IS STM

    EOS 製品情報

C-magazine サイト トップページに戻る

PDFで閲覧する場合は、デジタルアーカイブスへ

このページのトップへ