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トップ > imaging S 自然を、自然のままに 写真家 米美知子さん
© Michiko Yone
写真との出合いは、ちょっとした好奇心からだった。電子オルガンの講師として働いていた時、カメラに詳しい友人の薦めで一眼レフを借り、同僚との旅行に持参した。初めて訪れた北海道の雄大な自然を目の当たりにし、気付けばシャッターを押し続けていた。
「幼いころから何かを表現することが好きで、音楽がその手段でした。でも教える立場になり、自身で表現することから遠ざかってしまっていたんです。そんな時カメラを手にし、写真が自分の新しい表現方法になるのではと感じました」
そして長年続けた職を辞し、プロの写真家になるための道を歩み始めた。
「音楽と写真は似ているんです。演奏家によって曲の世界観が変化するように、撮る人の感性で同じ風景もさまざまな作品になる。それがすごく面白くて、写真にのめり込んでいきました」
写真を始めて以来、自然を被写体にしている。デビューのきっかけとなった前田真三賞の受賞作品も、8年にわたり撮影を続けた八甲田の風景だった。
「自然は子どものころから好きで、中でも森は心が安らぐ場所。八甲田を撮影した時に感じたブナの森の優しさは今でも私の原点ですが、森を知れば知るほど、その多彩な表情に惹かれます」
太陽が当たるとキラキラと輝き、霧に覆われると幻想的に変化する。日本特有の湿潤な気候が生む美しい森の世界は、イマジネーションの宝庫だ。
北海道・美瑛町にある青い池で夕暮れ時に撮影した1枚目の作品は、一枚の葉が付いた枝がひらめきに。あえて立ち枯れたカラマツは写さず、その影が映る水面を背景に、ユニークな枝を主役にした心象的な風景を表現した。
「撮影の基本は、『自然を自然に撮る』こと。色、におい、音など、目の前の自然の豊かな表情を写真で伝えたいと思っています。そのためには、ニュートラルな気持ちで対峙(たいじ)することが大切。偶然出合った場所で、思いもよらない宝物が見つかるのが、自然なんです」
刻一刻と変化する色彩美を捉えたのが、2枚目の北海道・三国峠での一枚。夕方に一瞬現れる淡いピンク色の空と黄葉したダケカンバに覆われた樹海とのコントラストに心打たれ、最も美しく撮れる場所へ、山道を走った。
森の魅力は雄大な景色だけではない。3枚目の写真に収められた、木々の間から漏れる光に包まれて瑞々(みずみず)しく成長するきのこのように、生命の小さな営みも、森を形成する美しい要素なのだ。
「森を撮るために全都道府県を巡りましたが、まだ撮れていない被写体は多数あります。想像するより森は奥深く複雑な世界。かけがえのない日本の自然美を、今後も撮り続けたいですね」
米美知子(よね みちこ)
1996年より独学で写真を始め、アマチュア時代には全国規模のコンテストで数々の賞を受賞。2005年に発表した写真集『青い森話』(文一総合出版)で本格的にプロデビュー。日本の素晴らしい自然と色彩美を独創的な視点で表現。森に魅せられ、北海道から西表島まで日本の森を撮り歩く。「夢のある表情豊かな作品」をテーマに精力的に撮り続けている。