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トップ > imaging S 日常の"違和感"を捉える 写真家 鶴巻育子さん
© Ikuko Tsurumaki
「私たちの周りには、何かしら魅力的なことがあふれている。それに直感的に気付いた時、ワクワクを感じて思わずシャッターを切るんです」。写真家・鶴巻育子さんは、人や街の"飾らない"一場面を撮り続けている。
写真を始めたのは、広告代理店に勤務していた時。これといった趣味がなかったため、知人から写真学校のパンフレットを手渡され、通い始めたのがきっかけだ。
「当時はフィルムカメラが主流でしたが、撮影や暗室での作業など全てが楽しくて。それまで何かにのめり込んだことはなかったのですが、写真なら続けていけると感じました」
そして、写真を仕事にしようとブライダル写真事務所へ転職。年齢的には遅い時期だが、30歳のころにはカメラマンアシスタントも経験した。
「趣味で撮るのとは違い、プロになると評価を受けます。当然酷評もあり、さまざまな洗礼を受けました。センスや勢いだけでは限界があります。写真を始めたのが遅かったため、経験差から劣等感を感じることもありました」
忙しく仕事をこなす中でも、ずっと撮り続けてきたのはスナップ写真。
「写真を始めた時から惹かれるのは、人や街。人を撮るときは、無理にその人の内面を引き出そうとするのではなく、一つの被写体として外見の魅力を捉えたいんです。街も美しい建造物より、ちょっと違和感のあるような一瞬に魅力を感じます」
1枚目の作品は、昨年末に初めて訪れたクロアチアでの一コマだ。
「歴史ある街並みと、商店や自動販売機との対比が印象的でした。よく見るとお店の脇に男性が佇んでいるのですが、こんなに近い距離でも、全く違う世界にいるようでなんだか面白くて」
2枚目の作品は、ラベンダー栽培で有名なクロアチアの小さな村で出会った男性のポートレート。突然の訪問にもかかわらず家に招き入れてくれ、ワインまで振る舞ってくれた。朴訥(ぼくとつ)な表情と顔に刻まれた深いシワが印象的だ。
風景写真は普段あまり撮影しないというが、クロアチアでは変化に富んだ景色に魅せられ、シャッターを切った。3枚目の作品もその一枚で、城壁に囲まれた港町ドゥブロヴニクを対岸から撮影。どんよりと低い雲から、冬のヨーロッパの重厚な雰囲気が感じられる。
「風景もスナップと同じで、タイミングを待つのではなく、旅の途中で出合ったそのままの瞬間を撮影します」
今後は撮影経験のあるパリやニューヨークの街を再び撮る予定だ。
「多くの写真家が撮影してきた街を今の自分はどう撮るのか、挑戦したいと思っています」
鶴巻育子(つるまき いくこ)
1972年、東京都生まれ。広告代理店勤務時より専門学校に通い、写真を学ぶ。ブライダル写真事務所、カメラマンアシスタントを経て独立。広告、カメラ雑誌への執筆、フォトスクールの講師など多方面で活動中。昨年写真集『THE BUS』を出版。個展やグループ展も精力的に行っている。