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  • 2019.12.01

自然に身を置き、感じたままを捉える 写真家 野町和嘉さん


© Kazuyoshi Nomachi

絵はがきではない類いない表現を追い求めて

© Kazuyoshi Nomachi

ドキュメンタリー写真の第一人者として走り続ける野町和嘉さん。初めて手にしたカメラは、高校時代に父親から贈られたフィルムカメラ「キヤノネット」だった。「"写真"という表現が自分にはとても親しみやすく、すぐにのめり込みました。高校卒業後に大阪のメーカーに就職してから、週末を利用して本格的に写真に取り組むようになり、入社して1年半たった頃には写真の方が面白くなってしまって(笑)。安定した生活よりも、プロの写真家として生きることを決めました」

その後、杵島(きじま) 隆氏のアシスタントなどを経て独立。20代半ばに訪れたサハラ砂漠で過酷な自然の中に生きる人々に魅せられ、まだ見ぬ世界へと撮影の場を広げていく。

「1990年代まで辺境地に暮らす人々の営みや信仰を撮っていましたが、その後、急速にグローバル化が進み、そこでしか出合えない驚きが少なくなりました。今思えば、多様な文化が輝く最後の時期だったのかもしれません」

現在は風景を中心に撮影をしているが、写真に対する想いは同じだ。

「自然の中に身を置き、感じたままを捉えるという写真との向き合い方は、サハラ砂漠を撮影した時に体で覚えたこと。それは、被写体が何であれ変わることはありません」

2017年から一つのテーマとして取り組んでいるのが、世界遺産だ。有名な場所だけれど「絵はがきのような写真を撮っても仕方がない」と、誰も見たことのない一瞬を探す。旅立つ前にどのような風景が撮れるかを徹底的にリサーチするのはもちろん、一つの場所に最低でも1週間は滞在し、踏み込んでいくのが野町さんの流儀だ。

1枚目の写真は、分厚い氷に覆われた、極寒のバイカル湖で撮影した一枚だ。地平線ギリギリに移動する太陽の光を浴び、限りなく透明な氷の上に雪が薄く降り積もる神秘の瞬間は、早朝に氷上を車で走り、出合ったという。

インド最大の観光地であるタージ・マハルも、幻想的な一瞬が収められた一枚(2枚目の写真)。

「冬場は朝になると背後に流れるヤムナー川から霧が立ち上がるんです。実際は観光客がたくさんいたのですが、深い朝霧がちょうど隠してくれました」

3枚目の写真は、映画『アバター』の舞台にもなった中国の武陵源(ぶりょうげん)だ。砂岩の柱が林立する独特の景観を対岸から捉えた。観光客も多く訪れる場所だが、不思議と人けを感じさせず、厳かな自然の迫力のみが写し出されている。

「今は何でもネットで検索できるので、目新しい景色に出合うことも難しくなりました。だからこそ、唯一無二な表現をし続けたい。そう強く思いますね」

  • 写真:野町和嘉さん

    野町和嘉(のまち かずよし)
    1946年高知県生まれ。71年にフリーの写真家となる。72年のサハラ砂漠への旅をきっかけにアフリカを取材。その後も中近東、アジア、アンデス、インドなど世界中を取材し続ける。『サハラ』『ナイル』など、多くの写真集が国際共同出版される。土門拳賞など受賞多数。2009年には紫綬褒章受章。18年よりキヤノンマーケティングジャパンのカレンダーで、世界遺産をテーマに作品を撮り下ろしている。

  • 主な撮影機材

    • 写真:EOS R

      EOS R

    • 写真:EF11-24mm F4L USM

      EF11-24mm F4L USM

    • 写真:RF24-105mm F4 L IS USM

      RF24-105mm F4 L IS USM

    EOS 製品情報

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