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トップ > imaging S 見えない世界の光を追い求めて 写真家 中西アキオさん
© Akio Nakanishi
「星空の撮影は天気次第。なので、年間60日くらいしか、撮影のチャンスはありません。今日は快晴なので、取材が終わったら撮影に出掛けようと思っています」。そう教えてくれたのは、日本屈指の天体写真家、中西アキオさんだ。
星に興味を持ったきっかけは、小学校5年生の時。先生の薦めで訪れたプラネタリウムで初めて満天の星空に出合い、感動したという。
実は星に熱中する前から好きだったのが写真だ。子ども心に「二度と出合えない目の前の光景をとどめておきたい」と感じ、父親のカメラを借りた。星を撮りたいという想いも自然に強まり、高校生になると、両親に買ってもらった一眼レフカメラを手に、山でひと晩中星を撮り続けた。
大学時代はコマーシャルフォトグラファーの元でアシスタントを経験。その時は写真を仕事にしようとも考えたが、写真では自分の表現を追求したいと感じ、一般企業に就職した。10年ほど勤めたが、バブル崩壊後の希望退職者募集を機に好きなことで生きようと、写真家の道を歩み始めた。
星雲や星団などの天体を撮影することが多いが、夜の風景写真(星景写真)でも星の魅力を表現している。1枚目の写真は、中西さんが天体写真を撮るために年間20回は訪れるという、長野県にある入笠山の山頂付近からの一枚だ。オリオン座などの冬の星座がきらめく夜空、麓の街明かり、山稜付近を淡く照らすのは180キロ離れた関東平野から届く光──真っ暗だと思っていた夜にも、さまざまな光が放たれていることを教えてくれる。
2枚目の写真は、東京駅丸の内駅前広場の年始の星景。暖かな光に包まれた駅舎に星が降り注ぐ幻想的な一枚だ。
「フィルムが主流だった時代に都市の星景を美しく撮るのは難しかったのですが、デジタル化により可能になりました。専用ソフトを活用して、連写した何百枚もの画像を合成すると、街の明るさはそのままに、星の動きも出すことができる。技術の進歩が表現の幅も広げてくれたんです」
これまで撮影が難しかった宇宙の色彩も鮮明に捉えることができるようになった。3枚目の「いっかくじゅう座のばら星雲」のように、水素ガスが放つ赤い光もその一つだ。
「星雲や星団は、どんなに大きな望遠鏡でもほとんど見えません。望遠鏡にカメラを取り付けて撮影することで初めて実体として現れます。特に赤い光は弱く撮りづらいのですが、天体撮影専用カメラだと簡単に写し出すことができます。技術に自分の感性とテクニックを融合させ、見えないものを捉える。それが天体写真の最大の醍醐味(だいごみ)です」
中西アキオ(なかにし あきお)
1964年東京都生まれ。小学生時代から星に興味を持つ。一般企業勤務を経て天体写真家として独立。天文写真家のみならず微弱光撮影装置のエンジニアとしても活躍中。キヤノンのホームページのコンテンツ「中西昭雄の星空撮影講座」のほか、『デジタルカメラ星景写真撮影術』(アストロアーツ)、『夏の星空案内(よむプラネタリウム)』(共著、アリス館)など著書多数。2035年、日本で見られる皆既日食の撮影が目標の一つ。