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トップ > imaging S 選手へ、一方通行の想いを込めて 写真家 熱田護さん
© Mamoru Atsuta
「F1を撮るようになったのは、軽い気持ちからだったんですよ」と語るのは、世界各地で開催されるFormula 1の自動車レースを撮り続ける熱田 護さん。
「高校時代はバイクに夢中の毎日。鈴鹿の出身なので、自然な流れでサーキットに通い、レースやライダーの写真を撮るようになりました」
その後、プロの写真家を目指し、2輪専門誌を発行するヴェガ インターナショナルに就職。モータースポーツフォトグラファーの坪内隆直さんに師事し、2輪世界グランプリを撮影する生活を続けた。だが、90年代に入るとバイク人気は落ち着き、ブーム加熱中のF1への転向を志したという。
「初めは軽い気持ちで踏み込んだF1の世界。でも、F1の魅力に取りつかれるまでに時間はかかりませんでした。きっかけはアイルトン・セナとの出会いです。僕にとって初めてのF1取材は、91年のF1世界選手権のアメリカグランプリ。そのレースで、セナが優勝を飾りました。当時のセナは、すでに誰もが知るF1界のスーパースター。勝って当たり前でしたが、表彰台の上で初優勝を果たしたかのような無邪気な喜びを見せたんです。その表情を見て、セナっていいなと。それからセナへの"片想い"が始まりました」
熱田さんが撮影時に最も大切にしているのが、片想いの心。相手への思い入れがモチベーションを高め、熱い仕事に導いてくれるのだという。
「片想いの相手は動物でも、風景でも構いません。いい写真を撮りたいなら、恋をすることです」
91年に6戦、92年以降はF1世界選手権全戦を撮影。そのレース数は508戦を数えるが、今でも撮影に難しさを感じているという。
「僕はマシン自体よりも、人物を撮りたいんです。でも、レース中にはドライバーの姿はほとんど見えません。だから、人物をどう表現すればいいのか、いつも頭を悩ませています。ドライバーがマシンに乗り込む直前の緊張感を狙ったり、表彰台に向かう姿を追いかけたり。ドライバーだけでなく、メカニックやエンジニアなど、チームのメンバーも撮影します。さらに、雨にぬれた路面や雲の流れなど、ドライバーが目にする風景も織り交ぜる。いろんな要素を使って、複合的に人物像を表現していきたいですね」
撮影の後は、反省ばかりしているという熱田さん。「撮影時にもっといいポジションはなかったのか、あの一瞬どうして気が抜けてしまったのかなど、後悔ばかりが頭を巡ります。でも、その悔しいという気持ちがあるから、次がある。写真家の仕事は、一生反省の連続なんです」
熱田護(あつた まもる)
1963年三重県鈴鹿市生まれ。東京工芸大学短期大学部写真技術科卒業。85年ヴェガインターナショナルに入社。坪内隆直氏に師事し、2輪世界GPを転戦。91年よりフリーランスとしてF1をはじめとするモータースポーツや市販車の撮影を行う。広告のほか、雑誌「カーグラフィック」(カーグラフィック社)、「Number」(文藝春秋)、「デジタルカメラマガジン」(インプレス)などに作品を発表している。