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ITのチカラ Vol.24 深刻なドライバー不足の危機を脱する「ホワイト物流」実現のための道標

トラック輸送を担うドライバーの高齢化が進行し、若手への世代交代もほとんど進んでいない。需要の急拡大によりドライバー不足が深刻化している。こうした物流業界の課題に対し、ドライバーの負担軽減とともに輸送業務の効率化と生産性向上を実現すべく、国土交通省が主体となって推進しているのが「ホワイト物流」と呼ばれる取り組みだ。いかにしてこの構想の目標を達成することができるのか、流通経済大学 流通情報学部 教授の矢野裕児さんに聞いた。

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  • 2022.09.01

[Vol.24]深刻なドライバー不足の危機を脱する「ホワイト物流」実現のための道標

荷動き件数が増加する一方、若手ドライバーは減少。人材不足の問題が深刻化

写真:矢野裕児 さん 「デジタルを活用するためには発荷主と着荷主、輸送業者の3者間の情報共有と連携を密にして、物流プロセスの標準化を図ることが重要です」 流通経済大学
流通情報学部 教授
矢野裕児 さん
日通総合研究所、富士総合研究所を経て、1996年に流通経済大学流通情報学部 助教授。2002年より現職。専門は物流、ロジスティクス。国土交通省、経済産業省等各種委員会委員を歴任。

――日本における物流の現状についてお聞かせください。

日本の貨物輸送量(重量)は減少傾向にありますが、一方で荷動き件数は増えていると思われます。ネット通販をはじめ宅配物の利用が増大しているのがその要因です。

日本の物流は依然としてトラック輸送に大きく依存しています。そうした中で深刻化しているのがドライバー不足の問題です。ドライバー不足そのものは高度成長期やバブル期などこれまでも経験してきましたので、今になって起きたわけではありませんが、過去の問題と異なるのは、需要の拡大に対して、供給が全く追い付いていないことです。若い世代のなり手がおらず、ドライバーはどんどん減少しており、高齢化が進んでいます。

このまま推移した場合、2030年におけるドライバーの総数は、15年との比較で30%減少すると予測されています。当然それだけトラックで輸送できる件数も減少することになります。

加えて懸念されているのが「2024年問題」です。働き方改革関連法制定によってドライバーの時間外労働の上限が年間960時間に規制されることに起因するもので、労働時間の短縮や長距離輸送方法の変更は避けられません。ドライバーの過酷な労働環境を改善するために必要な措置ですが、さらなるドライバー不足や輸送コストの上昇で長距離輸送は現状のままでは成り立たなくなると危惧されています。

発荷主と着荷主、輸送業者の3者がしっかり連携する仕組みが必要

――物流の課題解決のためにはどんな取り組みが必要ですか。

最も注目されているのが、「ホワイト物流」という取り組みです。ドライバーの負担を減らしつつ、輸送業務の効率化や生産性向上を実現すべく、国土交通省が主体となって進めている運動で、賛同企業数は1417社に上ります。

物流に関するさまざまな問題は、輸送業者だけが努力しても解決されません。発荷主と着荷主の協力を得て、はじめて改善することができるのです。

例えば、朝一番に荷物が届くことを多くの着荷主が要求することから、その時間帯に多くのトラックが一斉に押し寄せ、物流効率を低下させるとともにドライバーは深夜作業を余儀なくされるという実態があります。しかし、着荷主は本当に朝一番にその荷物が必要なのかを見直す必要があります。また、発荷主が着荷主の都合を忖度して時間指定を行っているケースも珍しくありません。

裏を返せば、互いにしっかりコミュニケーションをとれば、非効率をもたらしている多くの部分が改善されることになります。発荷主と着荷主、輸送業者の3者の新たな連携を築いていくことが、ホワイト物流の実現につながるのです。

※2022年5月31日時点

デジタル化の遅れの背景、物流プロセスの標準化が進まない

――発荷主と着荷主、輸送業者の連携を阻害しているのは何ですか。

物流業界の最大のボトルネックがデジタル化の遅れです。トラックの手配を電話やファクスで行っている現場はまだまだあります。こうした旧態依然としたコミュニケーション環境では、発荷主と着荷主、輸送業者の3者間での情報共有や緊密な連携を実現することは困難です。

では、なぜデジタル化が進まなかったのか。物流業界は小規模な事業者が多いため十分な投資ができなかったという背景もありますが、それだけではありません。根本的な原因は、物流に関するさまざまな現場業務およびその構成要素が標準化できていない点にあるのです。

例えばハードウエア面では荷物の積み降ろしに使うパレットやダンボール箱の規格が標準化されていないため、荷台に無駄なスペースが生まれるほか、機械での積み降ろしが難しくなり、手作業で行う必要が出てきます。また、ソフトウエア面では伝票のフォーマットが事業者ごとにばらばらで、EDI(電子データ交換)の普及を妨げています。

そして何よりも大きな問題は、物流プロセスそのものが標準化されていないことです。荷物を届けた際の、通用門から入るための手続きや、トラックを停めて荷物を降ろすスペース、荷物を引き渡す手順など、その多くが着荷主ごとに異なります。イレギュラーな事態が起こった際の対応も現場に任されています。

デジタルツールを導入するだけでなく、こうしたばらばらの物流プロセスを標準化していかなければ、デジタル化も業務の効率化も進みません。

日本の物流業界の現状と課題

画像:日本の物流業界の現状と課題
  • ① 道路貨物運送業における自動車運転従事者数の推移

    物流業界では、トラックドライバーの労働力が慢性的に不足しており、トラックドライバーの数は1995年に98万人だったピークを境に、2015年には76万7千人にまで減少している。(※1)
  • ② 物流業界が抱える2024年問題
      時間外労働時間の上限規制(1カ月当たり)と割増賃金

    2024年4月から物流業界に適用される「時間外労働時間の上限規制」によってトラックドライバーの拘束時間が約2割短縮され、これまでの配送距離などを変える必要がある。また、1カ月当たり60時間を超える時間外労働に関して、中小企業の割増賃金が2024年4月からは1.5倍になり、物流企業の収益減などにつながる懸念がある。(※2)
  • ③ 企業向け「道路貨物輸送」サービス料金価格指数推移

    トラック調達コストは、物流量の増加、労働力不足などの影響もあり、2006年を100とした場合、2014年に104.4だったが2019年には111.8までに上昇している。(トラック調達コストは道路貨物輸送サービス料金価格指数を基に算出)(※1)
  • ④ 国土交通省が掲げるホワイト物流実現に向けた指針(2021~2025年度)

    国土交通省は総合物流施策大綱(2021年度~2025年度)の中で、生産年齢人口の減少とトラックドライバー不足や新型コロナウイルス感染拡大などの社会的背景を踏まえ、ホワイト物流実現へ向けた3つの指針を提示している。物流の標準化・デジタル化の推進などによるサプライチェーンの最適化、トラックドライバーの労働環境の整備など労働力不足対策と物流構造改革の推進、感染症や災害などの有事においても機能する強靱で持続可能な物流ネットワークの構築を進めることで、物流に関する課題解決を目指す。(※3)
  • ※1 国土交通省/「一般貨物自動車運送事業に係る標準的な運賃の告示について」より作成
  • ※2 厚生労働省/「時間外労働の上限規制 わかりやすい解説」より作成
  • ※3 国土交通省/「総合物流施策大綱(2021年度~2025年度) 概要」より作成

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